ミャンマーの少数民族ロヒンギャの約七十万人が、武力衝突で隣国に逃れ難民化して一年。アウン・サン・スー・チー国家顧問は帰還に消極的で批判が高まる。日本など国際社会の協力も必要だ。
五千百万人余の国民のうち仏教徒が九割近いミャンマーで、約百万人のイスラム教徒ロヒンギャは少数派。土着でもなく、「生え抜き」を尊重するミャンマーの国籍法上、隣国バングラデシュなどからの「不法移民」として扱われ、ミャンマーの市民権を持てずに迫害されてきた。
昨年八月二十五日、ロヒンギャの武装勢力が治安部隊を襲撃し、家が焼かれるなどで七十万人が脱出。兵士らによる殺人行為が横行し、国連は「民族浄化」と非難した。逃げ出した人たちは今、バングラデシュの難民キャンプなどであてのない日々を送る。「帰ればまた迫害される」「家もない」との理由で、ミャンマーへの帰還は全く進んでいない。
「宗教も言葉も外見も私たちと異なる」「仏教徒の女性をイスラムに改宗させている」「無国籍の不法集団だ」。国民は冷たい。この世論は、実質上の最高指導者スー・チー国家顧問を支援する人々の声でもある。このためかスー・チー氏は帰還に後ろ向き。かつての「民主化の旗手」への国際的な批判は高まるばかりだ。
同氏は昨秋「帰還受け入れ」を表明したものの、最近はロヒンギャ問題への言及がめっきり減った。「援護したいけれど、国軍や国内世論は反対を向いているから動けない」。胸中は、おおよそこんなところではあるまいか。
しかし、この問題で一番大切なのは世論ではなく、危機にある暮らしや生命を守ることだ。夫を殺された妻たちの中には、兵士らに乱暴された人もいる。子どもに十分な教育も受けさせてやれない。こんな状況を放置できない。
今月初め、東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議の共同声明は「ロヒンギャ問題の根本的な原因解決の必要性」を強調した。「内政不干渉」が原則のASEANでは異例。イスラム教徒が世界一多いインドネシア、国教にしているマレーシアやブルネイの意向という。ミャンマーと経済的な結び付きを増す日本も、インフラ整備などに協力できないか。
ミャンマー政府は七月末、ロヒンギャ迫害を調査する独立委員会を設置。日本の大島賢三・元国連大使が四人のメンバーに入った。成果を期待したい。
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