胎児のように体を丸めるミイラ。現在はイタリア、トリノの博物館で保管されているが、発見されたのはエジプトのナイル川流域で、年代はおよそ5600年前。エジプトにファラオが登場するより約1500年も早い先史時代だ。
このミイラは当初、偶然の産物だと考えられていた。砂漠の熱で乾燥し、腐敗が進まない状態になったという説だ。ところが、この説を否定する新たな証拠が発見され、2018年8月15日付けの学術誌「Journal of Archaeological Science」に発表された。
ミイラには、知られている限りエジプト最古のミイラ防腐処理用軟膏が使われていた。ナイル川流域でミイラづくりがピークを迎える約2500年前のものが、その中身は、後の時代、ツタンカーメンなどの王族たちのミイラに使われた軟膏と非常によく似ていた。
「こうした関連が見られるのは本当に興味深いことです」と、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の考古学者スチュアート・タイソン・スミス氏は第三者の立場で評価している。「パズルの重要なピースが見つかったようなものです」
「信じられない気持ちでした」
今回の論文は、数十年にわたって先史時代のミイラを細かく調べてきた成果だ。執筆者の1人であるオーストラリア、マッコーリー大学のエジプト学者ジャナ・ジョーンズ氏は1990年代、約6600年前のミイラの布を調べていたとき、初期のミイラ作成方法に関するヒントを手に入れた。
ジョーンズ氏はミイラの布を顕微鏡で調べ、驚くべき事実を発見した。布にミイラの防腐処理用の樹脂の残留物が含まれていたのだ。後の時代のミイラによく見られる化合物だった。「信じられない気持ちでした」と同氏は語っている。
しかし、顕微鏡による証拠だけでは、エジプトの人々がそれまで考えられていたより何千年も前からミイラをつくっていたと断言するには不十分だった。そこで、ジョーンズ氏らは10年をかけて、入念な化学分析を行った。そして2014年、布に含まれる物質をついに特定し、科学誌「PLOS ONE」で研究結果を発表した。
「画期的な発見でした」と、2014年と今回の2つの研究で化学分析を主導した考古化学とミイラの専門家、スティーブン・バックリー氏は振り返る。
しかし、ジョーンズ氏によれば、それでも一部の専門家は懐疑的だったという。調べた布は長くミイラから外された状態で、ミイラそのものから証拠を得たとは言えなかったためだ。そこで、今回ジョーンズ氏らはさらなる手がかりを求め、トリノのミイラを調べることにしたのだ。(参考記事:「エジプトの猫ミイラ、新X線技術で撮影に成功」)
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