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「えっ!日本もサマータイム導入?」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

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きょうは、再来年の東京オリンピック・パラリンピックにあわせた、サマータイムの導入をめぐる議論がテーマです。
政治担当の増田解説委員に聞きます。

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Q1)
最近、サマータイムの議論が急浮上していますね。

A1)
はい。きっかけは、今月7日、安倍総理大臣が、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長と会談した際に、森会長が、大会の暑さ対策の一環として、サマータイムの導入を要望したことです。森会長としては、「マラソンなど一部競技の日程を朝早くにしたが、それだけで異常な暑さに耐えられるのか。抜本的な暑さ対策を考えなければならない」「2020年オリンピックを契機に、サマータイムが実現すれば、大会のレガシーになる」というわけです。
そして、こうした意見の背景にあるのが、今年の夏の猛暑です。

Q2)
どういうことですか。

A2)
はい。この夏の日本の異常な暑さをみて、欧米のメディアは、再来年のオリンピックの東京開催を不安視する報道を続けています。

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政府内では、「抜本的な対策が必要だ」と焦りの声が出ていました。例えば、東京オリンピックのマラソンのスタート予定は、午前7時。そこに、時計の針を1時間から2時間進めるサマータイムを導入すると、スタート時間を今の午前6時や5時に、実質的に早めることができます。選手や観客は、涼しい時間帯に競技を行うことができるし、見ることができます。

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Q3)
なるほどという感じもしますが、その一方で、競技時間だけを前倒しすれば良いのではないかという感じもします。

A3)
確かに、サマータイムの導入に慎重な立場の人からは、そういう意見が多く聞かれますね。

Q4)
そもそも、サマータイムって、どういう制度なんでしょうか。
なんとなくは、わかるんですけれど、厳密には、どういう意義があるものなんですか。

A4)
はい。サマータイムは、日照時間が延びる夏場に、標準時を1時間から2時間程度早めることで、その分、生活時間を早める制度です。元々、「夏場は、太陽が出ていて、明るい時間が長くなるから、その時間を有効活用しよう」という発想で生まれた制度で、夏と冬で日照時間の差が大きい高緯度地方、ヨーロッパで発達した考え方です。

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欧米諸国で広く導入されていて、OECD加盟国では、35か国中31か国がサマータイムを実施しています。実施していない国は、日本、韓国、アイスランド、トルコと少数派です。
例えば、アメリカでは、3月の第2日曜日の午前2時に時計の針を1時間進めて、夏時間とし、11月の第1日曜日の午前2時に1時間戻して、標準時間に戻します。

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ちなみに英語圏では、サマータイムではなくて、デイライト・セービング・タイムと言っています。つまり、本来の趣旨は、暑さ対策ではなくて、日照時間の有効活用なんです。

Q5)
日照時間の有効活用ですか。

A5)
はい。サマータイムの導入に積極的な人たちは、「朝の涼しい時間帯や夕方のまだ明るい時間帯を活用するので、エアコンや照明など電気の使用を控えることになり、省エネや温暖化ガス削減につながる」と主張しています。
また、会社の終業時刻が実質的に早まるので、退社後のアフター5の明るい時間を余暇に確保し、趣味や飲食にあてる時間が増えれば、小売店の売上増加や個人消費の伸びにつながるという見方があります。経済効果が見込めるというわけです。

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こうした見方があるせいか、NHKの今月の世論調査で、「サマータイムを導入することに賛成か反対か」を聞いたところ、賛成が51%、反対が12%、どちらともいえないが29%でした。これを見る限り、賛成が圧倒的に多いんです。

Q6)
では、サマータイムは、導入という流れなんでしょうか。

A6)
実は、そうとも言い切れません。
確かに、安倍総理は、「サマータイムの導入は、国民の評価が高いと聞いている。まずは、党の方で議論してもらいたい」と述べました。これを受けて、自民党は、近く議員連盟を発足させ、サマータイム導入の是非や、仮に導入する場合の実施期間、また、何時間早めるかなどについて、検討を始めることにしています。
ただここに来て、慎重意見も出ているんです。菅官房長官は、「国民の日常生活に影響を生じるものだし、大会までの期間はあと2年と限られている」と指摘しています。

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Q7)
慎重意見の背景には、どのような課題があるのでしょう。

A7)
はい。サマータイムは、導入すれば、年に2回、標準時間を進めたり、戻したりする作業が必要で、日付や時刻に関わる全てのシステムに影響します。例えば、全国の鉄道・航空のダイヤは、全て変更しなければなりません。官公庁や企業のコンピューターシステムの改修も必要になり、ただでさえ人手不足のIT業界は、戦々恐々です。
来年5月の新しい元号への切り替え作業と重なれば、システム障害を招き、国民生活に混乱を引き起こすリスクもあるとされています。

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Q8)
それは心配ですね。

A8)
それに、長時間労働を助長しかねないという指摘もあります。
第一生命経済研究所の首席エコノミスト永濱利廣さんは、仮に、3か月間、生活時間が2時間前倒しとなり、アフター5の日照時間が2時間増えれば、年間の名目家計消費がおよそ7532億円増加するという試算を出しました。ただ、それはあくまでも、余暇の時間を確保できた場合という条件付き。サマータイムを導入しても、その分、勤務時間が増えれば、当然、経済効果は縮減されます。

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日本の会社って、明るいうちは帰りにくいという、雰囲気があるじゃないですか。
経済効果を試算した永濱さんも、システム改修のリスクも考え合わせれば、サマータイムは現実的ではないとみています。
それに、実は、日本はかつてサマータイムを導入し、廃止した経緯があるんです。

Q9)
え!日本にも、サマータイムがあったんですか。

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A9)
はい。終戦まもない1948年。今からちょうど70年前、まだ日本が占領下にあった時代です。電力不足を緩和するため、GHQ・連合国軍総司令部の指示で導入され、生活時間が1時間早められました。
しかし、その後の朝鮮戦争特需もあって、忙しい職場が多かったのか、1時間早く働き始めるのに、終業時間は変わらないケースが多かったそうです。国民の間に「労働強化につながった」と反発が広がり、
わずか4年で廃止されました。

Q10)
サマータイムも、いいことばかりじゃありませんね。

A10)
はい。それに、生活リズムが変わるため、体調に悪影響があるという見方もあります。例えば、日本睡眠学会は、サマータイムが健康に与える影響を懸念する声明を発表しています。体が慣れるまでに時間がかかるため、その間、仕事の能率が低下し、睡眠時間も短くなって、心臓や脳に負担がかかる可能性があるというものです。

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Q11)
確かに睡眠って、体調に直結しますよね。

A11)
はい。そしてこうした健康への影響を理由に、実は、ヨーロッパでは、サマータイムの廃止を求める声が出ているんです。
ヨーロッパ議会は、今年2月、廃止を求めるフィンランドの提案を受けて、廃止の是非を検討するよう求める決議を採択しました。EUの執行機関にあたるヨーロッパ委員会は、先月から今月16日まで域内の市民から意見を公募し、集まった意見を参考に、今後の方針を決めるとしています。

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いずれにせよ、サマータイムの導入には、賛否両論あるのが現状です。
私たちの生活に大きな影響を及ぼす問題ですから、ただ単に、オリンピック・パラリンピックがあるからというだけでなく、幅広い視点
から議論を深めていく必要があると思います。

(増田 剛 解説委員)

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