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福島の汚染水 情報隠す愚を自覚せよ

 国民の意見を聞く公聴会を前に、見過ごせない事実が判明した。

 東京電力福島第1原発のタンクにたまる汚染水に、トリチウム以外の放射性物質が残っていた。一部の濃度は排水の法令基準値を上回っている。

 多核種除去設備(ALPS)により「トリチウム以外は除去できている」としてきた従来の東電の説明と食い違う。

 意図的に伏せていたのではないのか。これまでも東電は再三、都合の悪い情報を隠し、福島県民らの不信を強めてきた。その愚を自覚すべきだ。

 第1原発では山側から地下水が原子炉建屋地下に流れ込み、汚染水が増え続けている。東電はALPSでの処理後、貯水タンクで保管するものの、タンクの数は680基、貯蔵量で90万トン超に上っており、あと2、3年で限界を迎えるとみられている。

 処理後は人体への影響が小さいトリチウムだけが残るとされてきた。ところが、東電による昨年度の測定で、半減期が約1570万年のヨウ素129をはじめ複数の放射性物質が検出された。

 増加する汚染水が廃炉作業の妨げになるとし、政府は2013年から処分法を探ってきた。現在は小委員会が風評被害対策と合わせて検討している。

 政府も東電もトリチウムを希釈して海に放出する構えでいる。福島の漁業関係者はこれに反発。原発事故で操業停止に追い込まれ、苦心しながら試験操業を重ねてきただけに当然だ。

 汚染水処分に理解を求めるにしても、情報を全て開示して話し合うことが前提になる。処分法について東電は「政府の判断を待ちたい」と言を左右にするばかりか、680基のタンクごとに含まれる放射性物質の濃度も調べていないという。あまりに無責任だ。

 有識者らでつくる原子力市民委員会は、汚染水を長期保管し放射線量の低下を待って処分法を考えるべきだと提言する。専門家の見方もさまざまで、海洋放出ありきの道ならしは認められない。

 小委員会は今月30〜31日、福島県と東京都で処分法を巡る公聴会を開く。海洋放出の利点を示すだけでなく、残留する放射性物質への対処など課題を丁寧に説明しなければならない。

 第1原発では汚染水の増加を抑えるため、井戸で地下水をくみ上げて海に流す対策が続く。放流水に含まれる放射性物質や濃度に問題はないか、再度の精査と報告を東電に求める。

(8月21日)

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