■バイパスのトンネルは途中まで完成
新しい構造形式による約800mの区間の道路整備は、東京都が2006年8月に国交相から事業認可を取得。東京都は2010年、「街路築造工事(22二-環5の1千駄ケ谷)」を一般競争入札で発注した。
同工事では長さ400mのトンネルのうち、北側の半分に当たる内藤町側から260mの区間を開削して築くというもの。奥村組・池田建設JV(共同企業体)が受注し、2010年12月から工事を始めて2014年3月に終えている。
2014年6月時点で、内藤町側にあるトンネルの開口部は見える状態にあるが、南側はトンネルの端部を埋め戻しているので外からは見えない。
[左]バイパス予定地の南側の様子。写真左は東京都立新宿高校のグラウンドのフェンスで、右は新宿御苑側の仮囲い。新宿高校は2004年12月、道路用地を提供するために、学校の敷地内に校舎を新築して移転した
[右]新宿高校のグラウンドの南側。バイパスが明治通りに接続する付近も道路用地を取得済みで、仮囲いがされている
■東京五輪が開通のデッドライン
トンネルが半分だけ完成したとはいえ、2014年6月に現地を訪れると、工事は止まっているように見える。明治通りのバイパスとして開通するのは一体、いつになるのか。
東京都道路建設部街路課の福永太平課長によると、残りの工事を進めるのに先立って、明治通りの地下にある埋設物の移設が必要になるのだという。千駄ヶ谷5丁目交差点付近にトンネルを築く際に、掘削の支障となるからだ。
[左]明治通りの千駄ケ谷5丁目交差点付近。新たに整備するバイパスのトンネルはこの辺りに顔を出す
[右]西側にある新宿高島屋から見る。新宿御苑の森と、森の手前にある新宿高校のグラウンドのフェンスとの間にバイパスを通す
明治通りの車道の下には、電気やガス、通信、上下水道のケーブルや管が埋設されている。歩道下に埋める細い枝管とは異なり、車道下には太い幹線が埋められている。
東京都は、埋設物を保有する電力会社などの事業者に道路整備の計画を示して移設を要請。事業者同士が現在、移設の方法や手順を検討する「企業者調整」を進めている。
未着工区間について、東京都は用地をほぼ取得済みで、基本設計も終えている。今後、詳細設計を実施した後、南側に残る長さ140mのトンネルの築造工事のほか、路体や舗装、照明の工事などを発注する計画だ。
企業者調整の段階なので、現時点で具体的な発注時期は定まっていないものの、2020年の東京五輪開催前までの開通を目指す。「このデッドラインは、企業者調整に関わっている事業者へ伝えてある」(福永課長)
■2000億円以上の経済効果
計画から半世紀以上も閉ざされていたのはわずか約800mの区間だが、開通することによるインパクトは大きい。
新宿駅周辺に用事のない自動車は、この区間を含むバイパスに流れる。その結果、新宿3丁目交差点や新宿4丁目交差点周辺の明治通りの渋滞が大幅に解消するとみられる。国交省が2008年に試算したところ、明治通りのバイパスを整備することで、走行時間の短縮などによって2000億円以上の経済的な効果が見込まれるという。
バイパスの完成後は、自動車が減った明治通りに、快適で安全な歩行空間を整備することなどが可能となる。
約800mの区間の用地買収や工事に投じる総事業費は670億円ほど。道路を2層構造にすることで当初よりも費用は増えるものの、新宿御苑の希少な樹木の群落を守れたことは大きい。
快適な歩行空間の整備や自然の保護――。2020年の東京五輪に向けて大プロジェクトが注目されるなか、こうした貨幣価値に換算しにくい価値を生み出す都市の再構築も欠かせない。
(ライター 山崎一邦)
[ケンプラッツ2014年7月2日付の記事を基に再構成]