都市計画決定した当初の計画は、池袋方面に向かう北行き(外回り)と渋谷方面に向かう南行き(内回り)でそれぞれ2車線ずつ、計4車線を平面構造で造るというものだった。道路の幅は31~35m。新宿御苑の公園区域の一部を道路区域に変えて、道路を通す計画となっていた。
この計画に環境省は難色を示した。道路の計画ルート上に、全国的に希少な樹齢100年を超える落羽松(らくうしょう)の群落があったからだ。新宿御苑内の湧水を水源とする湿地への影響も危惧された。環境省は新宿御苑の森を避けるよう東京都に要望した。
もう1つの理由は、一部が支線とはいえ明治通りが既に開通しており、バイパスとして本線を整備する優先順位が低かったからだ。
国や東京都が幹線として整備しなければならない都市計画道路は、都内に環状道路が8路線、放射道路が36路線。他の都道なども早急な整備が求められていた。優先順位を付けて事業を進めた結果、他の道路が先に完成したという経緯がある。
その後、国土交通省などが新宿駅南口周辺の再整備に着手したことで、交通需要の増加が見込まれた。東京都は2004年3月、都区部における都市計画道路の整備方針を定め、内藤町の交差点から千駄ヶ谷5丁目交差点付近までの区間を、優先して整備する路線に加えた。
■道路の2層化で幅を半分以下に
未開通区間の着工に向けて、東京都は道路の構造を見直した。池袋方面に向かう北行きの2車線を一部トンネルにして地下化。渋谷方面に向かう南行きの2車線をトンネルの上に重ねる2層構造に変えたのだ。
2005年6月に都市計画変更した環状第5の1号線の未開通区間。「今回変更区間」とある部分で道路を平面構造から2層構造に改めた。道路の幅を抑えて、新宿御苑の森を回避する。図の右側が北に当たる(資料:東京都)
この変更によって、平面構造の4車線としていた当初計画では30m以上あった道路の幅が、半分以下の14mに縮小。新宿御苑の敷地への影響はほとんどなくなり、森を囲う柵の位置を変える必要もなくなった。
トンネルの掘削による地下水への影響が懸念されることに対して、東京都は地下水の定期的なモニタリングを実施すると環境省に提案。環境省も承諾した。
[左]公園変更区域図。当初の計画では、赤い部分も道路の計画ルート上にあった。しかし、道路の構造を見直したことで、新宿御苑の公園区域として変更、追加されることになった
[右]道路変更区域図。当初の計画では、新宿御苑の敷地である黄色い部分を道路区域として定めていた。黄色い部分には、落羽松の群落などがある(資料:いずれも東京都)
■甲州街道と立体交差
東京都は2005年6月、平面の4車線から2層構造の道路に改めるための都市計画変更を決定。1946年の当初の都市計画決定から半世紀以上を経て、ようやく工事が動き始めた。
新たな構造で造る道路のトンネルは、鉄筋コンクリート造の「ボックスカルバート」と呼ぶ箱型のもの。長さ約800mの整備区間のうち、北行きの400mがトンネルとなる。トンネルの標準的な内空断面は幅が8.25m、高さが6~8mで、2車線を確保する。
渋谷から池袋方面に向かう場合、千駄ヶ谷5丁目交差点付近からトンネルに入り、現在の明治通りの南行き車線の下をくぐった後、内藤町の交差点の手前で再び地上に出て御苑通りに向かう。トンネルを組み合わせた2層構造にすることで、平面構造では必要となる信号が少なくなり、渋滞が起こりにくいという利点も生まれた。
明治通りは甲州街道と平面交差するのに対し、新たに整備するバイパスは甲州街道と立体交差する。内藤町の交差点でバイパスは地上部を通る一方、甲州街道は同交差点の手前でトンネルに入るからだ。