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【社説】

飛騨川バス事故 半世紀経ても残る教訓

 乗客・乗員百四人が犠牲になった「飛騨川バス転落事故」から十八日で五十年。豪雨がもたらした惨事だったが、異常気象が続発する今こそ、この悲劇がもたらした教訓をあらためてかみしめたい。

 事故があったのは「明治百年」「東大闘争」の一九六八年八月十八日未明。現場は岐阜県白川町の渓谷を縫って走る国道41号。時間雨量一〇〇ミリ前後の大雨に立ち往生していたバス二台が、崖からの土石流に押し流され、増水した飛騨川に転落した。

 名古屋の団地の家族連れら七百七十三人が、計十五台で乗鞍岳を目指していた。大雨などの注意報が一時的に解除された十七日夜、主催者が気象台に問い合わせてツアーを決行。間もなく注意報と警報が出た。携帯電話などない時代。客が眠る夜間ゆえカーラジオもスイッチは切られていたという。主催者らは天候急変を把握しきれなかった。

 これが教訓となった。事故までは「災害が起きてから通行止め」が一般的だった。「それでは遅すぎる」と建設省(現国土交通省)は、翌六九年度から連続雨量が基準を超えたら通行止めにする「事前通行規制制度」を始めた。

 同省によると、全国の直轄国道(号数が二桁以内)では、ピークの七七年度には二百二十四区間、千三百七十九キロが指定された。のり面の防災工事などが進んだとして、今は百七十五区間、九百八十キロに減った。

 態勢は整ってきた半面、連続雨量だけでは、時代にそぐわなくなってもきた。「ゲリラ豪雨」とも呼ばれる短時間集中豪雨(時間雨量五〇ミリ以上)が半世紀前より30~40%増えたからだ。同省は二〇一五年度から、事前規制の基準に時間雨量を併用する試行を二十四区間でスタートさせた。

 ところが、時間雨量で道路が通行止めになった例はここまでの試行で一度もないという。国交省は「見逃しと空振りの見極めが難しい」と話す。「時間雨量の基準を高く設定しすぎると適用例が減る。逆に低すぎれば通行止めが頻発しかねない」-というのだ。

 国は「評価が固まるまで、試行はしばらく続ける」と言う。一年でも早く有効な基準を設けて、本施行につなげてほしい。昨年の「九州北部」、先月の「西日本」の例を引くまでもなく、わが国では「豪雨列島化」が進んでいないか。だからこそ「飛騨川」のような大事故への備えを早急に整備してほしい。

 

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