社内起業家によるイノベーションは
神話である

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社内の型破りな異端児に自社のイノベーションを担わせる――いわゆる「社内起業家」の成功を伝えるエピソードは少なくないが、現実には、そうした挑戦はほとんど奏功せず、単なる神話であることが多いと筆者は言う。本記事では、真に変革を実現すべく、全社でイノベーションに取り組むために重要な8つのアプローチを紹介する。


 ポストイット、フェイスブックの「いいね!」ボタン、ソニーのプレイステーション。これらの製品はすべて、「社内起業家精神」の力――伝統的な大企業に内在する起業家的な創造力とイノベーション――を示す伝説的な例とされている。

 社内起業家精神(イントラプレナーシップ)という言葉は、1980年代に考案されて以来、イノベーションを後押しする包括的な解決策として企業に推奨されてきた。そして社員にも、多くの資源と少ないリスクで起業家的な創造性と刺激を得る方法として、奨励されてきた。

 社内起業家とは、ルールを破り、会社の流儀に逆らう反逆者であるべきだという、「起業家精神に富んだ異端児」のイメージがある。それは確かに魅力的だが、実際は、そうしたやり方ではイノベーションをうまく推進できない。大企業におけるイノベーションを20年以上研究してきた私にとって、明らかなことがある。華々しい社内起業家という存在は、現実よりも神話であることが多いのだ。

 典型的な社内起業家がたどる経験は、3Mでポストイットを開発したスペンサー・シルバーよりは、コダックで携帯用デジタルカメラを発明したエンジニアのスティーブ・サッソンに近いだろう。いまでは周知のように、デジタルカメラはコダックを未来へ飛翔させるどころか、膨大な機会損失となった(サッソンは世界初のデジタルカメラを発明したが、経営陣の後押しを得られなかった)。

 コダックでのサッソンの経験が如実に示すのは、一個人がどれほど優秀でも、真に画期的なイノベーションを独力で、アイデアから現実のものにするのは不可能だ、ということである。イノベーションとは、全社を挙げた取り組みでなければならない。斬新なアイデアや商品を生み出すためのシステム、体制、文化によって、あらゆる階層の社員を支援する必要がある。現行の体制下で社内起業家が革新を生み出してくれるだろう、と期待するのではなく、企業はイノベーションを制度化する必要があるのだ。

 第1に、イノベーションは、成功する企業にとっての永続的な「職能」だと考えなければならない。会計、オペレーション、販売、財務といった他のビジネス機能と同様に見なすのだ。いまではマーケティングという部や課のない大企業など考えにくいが、50年足らず前は、マーケティングなるビジネス機能や職業、部署は存在しなかった。

 現在のイノベーションにも同じことが言えるだろう。企業が絶え間なくイノベーションを起こせるようになりたいと望むなら、発見、開発、インキュベーション、アクセラレーション、スケールアップを職能として実行する、専任のイノベーション専門家が不可欠である。

 ただし、このイノベーション部門は、他の部門から隔離されてはならない。社内インキュベーターやイノベーション研究室が組織内で隔絶されていると、より大きなシステムから切り離されているために、限られた成功しか収められないことが多い。真に画期的なイノベーションを起こすには、組織を挙げた包括的なアプローチが求められるのだ。

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