人類を救うのは俺ではないような気がする   作:赤城九朗
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炎上汚染都市
土蔵で、運命に出会う。


 なぜここに、どうして私はいるのでしょう(心の一句)

 

 魔法とか魔術のある世界に産まれたいと思った人、いるかな?

 でもさ、そこってRPGみたいな感じであって、間違っても型月じゃないよね。

 でさ、型月の魔術師って扱ってる神秘が世代を重ねるごとに劣化していくんで、お先真っ暗なんだよね。

 でもってさ、魔術刻印とか魔術回路とか、魔術を使うのが滅茶苦茶大変だったりするんだよね。

 

 ケイネス先生が言ってたみたいに、魔術師の人生は生まれた瞬間に決まっている。っていうか、生まれる前に大分決まってる。

 家が没落してたら魔術回路なんて期待できないし、金銭的に余裕が無かったら研究なんてできないし、先祖にセルフギアススクロールとか使われてたら一生服従とかになるし。

 

 っかー! 魔術師ってつれーわー!

 

 よかったなー! 魔術師の家に生まれたけど、優秀な兄が居て魔術刻印を継ぐ必要もないし、ぶっちゃけ才能とかないからよその家に婿入りさせられるとかないし、聖杯戦争に首を突っ込む時期でもないから令呪とか浮かびあがらないし、人生イージーモードだわ!

 

 つまんねー! 超つまんねー!

 

 

 嘘です。確かに才能はないし家は継がないし魔術刻印も継がないし婿入りの予定もありません。

 ですが、なんつうかこうアレです。カルデアに来てます。

 マスター候補の一員で、一応レイシフトに参加する戦闘要員の一人です。

 

 いや、あの、ほんと……何? これは、何?

 イジメ? イジメなの? なんで普通の一般人に限りなく近い没落魔術師の次男坊が人理修復とかしなきゃいけないの?

 魔術王とかと戦わなきゃいけないの? それ以前に黒い騎士王と戦うだけでも嫌なんですけど。プロローグっていうかチュートリアルの段階で嫌なんですけど。

 

 人類全体が特に痛みもなく滅亡するんなら、一緒に死んでもいいかなぁ……(末期感)

 

 やだなぁ……正直、レフのテロから生き残っても……。

 

 

『そんな、どうしてそんな傷を……!』

『無茶しやがって! 今すぐ手当を……!』

 

『気にするな……まだ死なない。それよりも、此処から先はお前の仕事だ。とっとと世界を救って来い、俺が死ぬ前にな……』

↑これ俺です。

 

 とか言うポジションに収まりそうでホント嫌。

 いやまあ、こんなカッコいい台詞を言う言わない以前に、レフのテロで楽に死にたいなとは思ってます。

 だって、スマホのゲームと違って死ぬかもしれないし、痛いと思うし……やだなぁ……。

 

 

 

「それでは皆、人類の未来を切り開くのよ!」

 

ボカーン!

 

 的なタイミングでテロが発生しました。

 多分オルガマリー所長、台本をレフの旦那に添削とかしてもらってたんだろうな。

 どんな気分だったんだろうな、レフ。

 よし、ここまで言ったら爆弾を起爆させようとか思ってたんだろうか。

 

よーし、明日は本番! ちゃんと威厳を見せて、カルデアの所長としての大任を果たすわよ!

よーし、明日が本番! ちゃんとマスター全員とついでにオルガマリーを殺して、魔術王の所に帰るぞ!

 

 とか思ってたんだろうな、二人とも。

 こっちはいつ爆発するんだろうかって身構えてたのに、なかなか焦らされるからそわそわしてたんだ。

 レフはすごい顔でニマニマしてたし。よーし、押しちゃうぞ、押しちゃうぞ! みたいな感じで。

 その気持ちはすっげーよくわかるけど、やられる側になるとマジビビる。

 

 案の定炎上汚染都市冬木に到着した俺は、周囲を見渡した。

 体を確認すると、ケガはない。一応、物理防御寄りの礼装を着ていたのがこの結果を出したらしい。

 まあ、気休めではあった。なにせ、この時代の魔術師の中でもとくにパッとしたところのない家の、魔術刻印も継いでいない次男坊が作った防爆的な服なんて、近代兵器爆弾の前には無力だと思っていた。

 一応、オルガマリーから距離を取っていたのが大きいのだろう。

 いやまあ、できれば即死したいなとは思うけど、いざ爆弾で殺されますってなったらスゲー怖いじゃん。そりゃ逃げたくもなるじゃん。

 

 

「……石ないかな、石……詫び石は……どこかな~~」

 

 と、現実逃避しつつも燃え上がる冬木を歩く。辺り一面燃え上がっているので、当たり前だが煙いし熱い。

 早くも爆死しとくべきだったと後悔しつつ、Fateファンなら一度は行ってみたいが二度と行きたくない冬木の街を歩く。

 

 FGOやってたときは親の顔よりもよく見た骸骨どもを遠目に見つつ、周囲をスニーキングミッションする。

 お前の骨が無くて、どんだけ困ったと思ってんだ。でも今は出会いたくないです、どっか行っててください。

 

 仮に、相手が全力で戦えば勝てる程度の雑魚だったとしても、ゲームじゃないんだからぽちぽち押してたら勝てるわけじゃなし、危ないことをするわけにはいかない。

 男らしく戦うことだけが、戦いではないのだよ。

 

 オルガマリー所長のテンパった声が聞こえないので、多分近くにいないのだろう。役に立たねーな、原作主人公に合流できねーじゃねーか。

 と、呪いごとを言いたい程度には、こっちも余裕がない。多分彼女が襲われてても見捨てるな、俺は。俺の身を守るためには仕方がないのだ、いろいろ諦めて同人誌の肥やしになってほしい。

 

「石を使った召喚は、一周年を記念して四つから三つに変更~~やったね、リヨ~~~」

 

 道を歩くが、景気よく道路とかはぶっ壊されている。

 神秘の隠匿どこ行ったっていうか、人間がどこ行った。

 あれか、全部骨になってそこらをうろついてるのか。

 やっぱ冬木には住みたくないな。聖杯って完全に厄ネタだよね。

 

「だけど、宝具はスキップしない~~やっぱ運営はクソ~~~」

 

 あてどもなく街をさまよう、ことはない。流石に防爆礼装なんぞ作っている暇があるので、他の対策も練っている。練っているっていうか、運頼みではあるが某場所を目指して歩いていた。

 地図は事前に確認して頭に叩き込んだし、一応現地の視察も済ませてある。

 寸断されている道路があるのも想定内。いくつかの迂廻路を通ると、そこはFateのホロウをプレイした方にはおなじみのエミヤ邸があった。

 こんな家に住みたいな、ライダーさんみたいな美女と(経験値並感)

 

「あったらいいな~~なかったらやだな~~……ホラやっぱりなかった……クソが!」

 

 エミヤ邸は、当たり前だが魔術師殺しのテロ屋が建設したわけではなく、売ってた家を買っただけである。故に、そこにエミヤ君が住んでた家があっても、その土蔵に召喚サークル的な何かがあると決まっていたわけではない。

 で、ない。

 正直、そう遠いわけでもないのでマキリ邸を目指してもいいのだが、流石にこれ以上の移動は危険だし、そもそも魔術師の家に裸同然の青二才が乗り込むとか、余りにもあほすぎる。

 留守だなんだと言っても、そこは妖怪クソ爺の住処。どんな罠があるかわからないし、あってもなくてもうかつなものに触って呪われたらシャレにならん。

 かと言って、アインツベルンやら遠坂邸やらはもっとやばいわけで……。

 

「これはクソゲーですね、やっぱり運営は……そんなこと言ってる場合じゃないな」

 

 現実逃避、終了。

 流石に骨に刺されて殺されるのはごめん被りたい。

 運営にクレームを言いたいが、生憎クレームを入れる先はDr.ロマンとあの所長だ。もしくは魔術王である。

 流石に魔術王にクレームを入れる度胸はない。きのこには言えるけど、魔術王には言えないという矛盾。

 

「これはもう、最終案……部屋の隅で指をくわえて座りこんでガタガタ震えて救出を待つを選ぶしかないな……」

 

 主人公君が実在するならば、今頃ダブルヒロインの予定だったけど変更になってグラフィックの無駄遣いになった所長と合流して、キャスニキと一緒に打倒アルトリアで戦ってる頃だと思う。

 彼らか彼女らが勝てば、世界は修復されるので帰ってこれると思う。多分、このまま座して死を待つ方が、生存率は高いと思うぞ。

 この案を採用すると問題なのは、完全に運任せということだ。下手したら、永遠に帰れない。その前に死ぬけど。

 さりとて、石を買うにもダヴィンチちゃんにカネを払うこともできない。

 エネミーを独力で倒すという判断も無理だ。そんなことができるんなら、まずカルデアからの使者を殴り倒している。

 

 戦うのも無理、逃げるのも無理、合流するのも無理。

 ならば動かざること山の如し、静かなること林の如し。

 人事はつくしたので天命を待とう。尽くした人事が少なすぎる気もしたが、もういい、もういいんだ……。

 

「しゅじんこ~~うに~~~なりたかったな~~~」

 

 ちょっと本音を漏らしつつ、土蔵の中から出ていこうとする。

 どうせ死ぬなら畳の上で死にたい。ここで死ぬのは、Fateのファンとしてはちょっと気が引けるところである。

 

 

 ここで少年は、運命に出会ったのだ。

 

 聖杯をめぐる戦いは、此処から始まったのである。

 

 

 直後だった。体の中の貧相な魔術回路に火が入る。

 魔力が抜けていく脱力感と、それを上回る高揚感。

 それはつまり……英霊の召喚を意味していた。

 

 これで概念礼装が出たらもう目も当てられないところだったが、金色に輝く光の帯は三つに分かれ、そして一つの形を成していく。

 

 俺の手元にはセイントグラフが現れ、その裏面と表面のデザインが明らかになっていく。

 そして、その模様は余りにも想定外だった。

 剣士の英霊セイバーでもなく、槍兵の英霊ランサーでもなく、弓兵の英霊アーチャーでもない。

 騎兵の英霊ライダーでも、暗殺者の英霊アサシンでも、魔術師の英霊キャスターでも、狂戦士の英霊バーサーカーですらない。

 

 これは、復讐者のサーヴァント、アヴェンジャーのモノだった。

 

 

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました」

 

 

 

 お、お前かよ!

 

「……どうしました、その顔は? さ、契約書です」

 

 半ば期待していたこととはいえ、俺は腰を抜かしていた。

 奇しくも、Fateのあの美しいシーンと同様の構図で、俺は偽りの復讐者を見上げていた。

 

 あのキモいおっさんが作り上げた、一分の一スケール聖処女に、俺は……見とれていた。

 

「すげェ……これは……惚れる……」

 

 五つ星だとか、限定鯖だとか、最強の攻撃力だとかは関係なく、ただその女性は、ひたすらに美しかった。




元帥、ナイスデザイン!







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