バイオベンチャーのティムス(東京、若林拓朗社長)は、西表島で見つかった黒カビを使った急性期脳梗塞の治療薬の開発に取り組んでいる。黒カビを培養して取り出した化合物が、血栓を溶かす体の働きを促進する。血管が詰まって起こる炎症を抑える効果もあるため、脳梗塞発症後4時間半に制限されている投薬の時間を延ばせると期待されている。同社は6月に米大手製薬会社と共同開発に向けた契約を締結した。(政経部・照屋剛志)

西表島で見つかった黒カビのスタキボトリスミクロスポラ(ティムス提供の電子顕微鏡の写真)

 西表島で見つかった黒カビは「スタキボトリスミクロスポラ」。創薬研究などに活用する微生物を集める大阪の発酵研究所が、1973年に西表島クイラ川の川岸で亜熱帯照葉樹のスダジイの落ち葉から見つけた。

 ティムスが同研究所から譲り受けた1500株のカビの中から、2000年に脳梗塞の治療に生かせる効果のある化合物を作り出すことを突き止めた。

 脳梗塞の治療に使われる血栓の溶解剤は、発症による炎症で血管がもろくなり、出血リスクが高まるため発症後4時間半までしか使えない、とされる。ティムスが開発する治療薬は、血栓の溶解に加え、炎症を抑える働きもあり、発症後12時間まで活用の幅が広がると期待されている。

 同社は東大医学部で健常者を対象にした臨床試験で安全性を確認。発症後12時間の有効性などを調べる第2段階の臨床試験に着手している。

 6月には、米製薬大手のバイオジェンと一時金400万ドル(約4億4千万円)を受け取り、開発や販売が成功すればさらに資金が得られる契約を結んだ。

 東京農工大教授で、ティムス開発担当役員の蓮見惠司氏は「創薬には時間がかかるが、早ければ5年後には実用化のめどがつけられると思う」と話した。