50代を待つ過酷なキャリアにどう向き合っていくか。写真はイメージ=PIXTA 明治安田生活福祉研究所が6月に発表した「2018年 50代・60代の働き方に関する意識と実態」の調査結果によると、定年前の50歳から64歳の正社員のうち約8割の人が定年後も「働きたい」と希望しているそうです。しかし、現実には、リストラやIT(情報技術)活用による働き方の変化などによって、「定年まで会社に居続けられるかどうかさえ不安」という人も増えています。今回は、50歳からのキャリアの過酷な実態と、その向き合い方を掘り下げていきます。
■定年後も働きたいのに定年までしがみつけるか不安
上記の調査の重要トピックを抜粋すると、ミドル・シニア世代の働き方に対する考え方が浮かび上がってきます。
●定年前正社員の8割が、定年後も働くことを希望
●定年後就労者の4割が、役職定年で年収が半分未満にダウン
●役職定年に伴い年収減となった人の6割がモチベーション低下
ちなみに定年後も働きたい理由のトップは「日々の生計維持のため」で、男性の場合、50歳代前半の時点で73.1%に達しています。住宅ローンや老親介護など、シニアになってもまだまだ稼ぐ力が必要な背景が浮かび上がってきます。
「生計維持」の次に続くのは、「生活のハリ・生きがいを持つため」という回答です。年齢が高くなるほどそう答える人の割合は高くなり、高齢になっても社会とつながっていたいという欲望の強さを物語っています。
しかし、その一方で、昨秋以来たびたび報じられているメガバンクの大幅な人員削減など、社会構造が転換する中で、大型のリストラやM&A(合併・買収)も進んでいます。大規模な雇用数を支えている製造業を中心に、業務の自動化による余剰人員の発生や競争力の低下による拠点縮小から人員削減という流れは、さらに拡大していく可能性も否定できません。
定年後の雇用継続どころか、「定年まで今の会社にしがみつけるかどうかさえも不安」という声も広がっているのが実情です。
■転職するしかないのに「嫁ブロック」に遭う
転職サイトを運営するエン・ジャパンが7月に発表した、35歳以上のミドル世代が対象の「家族の転職反対」に関する調査結果では、これまで家族に転職を反対された経験が「ある」人が46%にも上ります。反対された人のうち、「辞退したことがある」は51%で、「辞退せずに転職をした」(49%)を上回ったそうです。
何歳になっても「嫁ブロック」のハードルは意外なほど高い。写真はイメージ=PIXTA 転職を反対した家族は、「妻」(76%)が最多。「親」(28%)、「子ども」(6%)、「夫」(5%)を大きく引き離しています。反対された理由で、最も多かったのが「年収が下がる」(50%)。2位が「勤務地の遠さ」(20%)、3位が「“大手企業”という肩書がなくなる」(19%)と続いています。
では、転職後の実際の年収の変化は、どうなっているのでしょうか?
リクルートワークス研究所が7月に発表した「全国就業実態パネル調査2018」によると、「前職と比べ転職2年目の賃金が1割以上減少した転職者の割合」は、「男性・正社員の55歳~64歳」では56.8%に達しています。ちなみに雇用者全体の集計でみると、1割以上増えた人が41.4%であるのに対して、1割以上ダウンした人は37.5%とわずかに年収アップ組が上回っています。50歳を超えるといかに年収ダウンリスクが高まるかということが明確にわかるデータです。
●リストラの足音で、徐々に会社に居づらくなってきている
●それでも会社に踏みとどまった場合、役職定年で年収は半分未満に激減する
●一方で、転職したとしても年収ダウンリスクが大きい
●さらに年収ダウンを許してくれない「嫁ブロック」が立ちはだかる
これでは、会社残留も転職もどちらも選択できないままフリーズしてしまう、八方ふさがりの50歳代が増えるのは当然かもしれません。50歳代のキャリアを取り巻く環境は厳しく、30歳代、40歳代と比べても、満足できる仕事生活を送るには、相当な努力を要するということが容易に想像できます。
■生き残りは「変わる勇気×学ぶ力×行動主義」
では、それだけ過酷な環境に置かれている50歳以上の方々が充実した働き方を実現するには、どうすればいいのでしょうか。
COO(最高執行責任者)やCFO(最高財務責任者)、CMO(最高マーケティング責任者)などの経営人材の需要が高いにもかかわらず、まだまだ不足状況になっていることが、ひとつのヒントになっています。CXO(Cで始まる経営幹部の役職名)というエグゼクティブな役割で実際に転職先が決まる方々に共通するのは、
●年収にこだわりすぎない
●役職にこだわりすぎない
●事業価値の向上にこだわる
●職責(ミッション)や権限にこだわる
という傾向です。
エグゼクティブになればなるほど、地位や年収よりも、責任と権限、結果へのコミットが重視され、結果的に役職や報酬が後を追いかけてくるというパターンが多くなります。これまでいた会社の文化や方法、価値観からあっさりと離れ、その場所その場所で最適な方法を見つけ出す変化への適応力の高さも、活躍するミドル・シニア世代の顕著な傾向の一つです。
変化への適応力も長く働いていく上では重要だ。写真はイメージ=PIXTA また、過去の成功体験や昔取ったきねづかをプライドの源泉にしておらず、自分の実力を過大評価しないということも重要です。その結果として、常に自分の弱点や不足点を把握して、足りない要素を補完する=新しいことを学び続けることが自然な習慣となるのかもしれません。
「自分に足りないことを知る」ということは、また、行動にもつながります。新しいことを学ぶ際に、人的ネットワークを駆使して、年齢を超えて学びを請いにいくという人、インターネットサービスやAI(人工知能)など、未体験だったことに触れてみようとする好奇心、過去の経験から新しいものを評論するのではなく、まずは動いてみようとする行動第一主義が、若さの源泉になっているように見える方もたくさんおられます。
自信があるからこそ心に余裕が持て、自信がない人ほど過去にこだわって、自分を守ろうとするということなのかもしれません。しかし、自分の仕事人生に自信が持てるかどうかは紙一重です。
過大評価や過信は自分にとっての毒になるかもしれませんが、自分がやってきたことを事実として振り返り、適正に評価する行動は大切です。過去の自分とフラットに向き合い、正しい自己信頼を改めて構成することで、今後のキャリアを明確にする機会を手にしていただければと考えています。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。この連載は3人が交代で執筆します。
黒田真行 ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。1989年リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。14年ルーセントドアーズを設立。著書に本連載を書籍化した「転職に向いている人 転職してはいけない人」(【関連情報】参照)など。「Career Release40」http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。