「恋の春」を面倒と思う人たち
カツセマサヒコ(以下、カツセ) 『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』とても楽しく拝読しました。特に「恋にも季節がある」という最初の一編が心に残りました。出会いから二人が距離を縮めていく「春」から、親密になって燃え上がる「夏」、徐々にやり取りが減っていく「秋」、そして恋が終わる「冬」がある。自分自身のいろいろな思い出が頭を巡りました。
林伸次(以下、林) ありがとうございます。しかしこれに関しては、特に男性からは「まったく意味が分からない」という感想もいくつかいただきました。男性の中には、恋愛に興味のない人もいます。女の子は好きだし、エッチもしたいし、結婚や子どもについても考えている。けれど「あの子のことを思うと切なくなる」とか「こんな風に自分の思いを告白したい」など恋については、考えたことがないという人も2~3割いるんです。
カツセ 2~3割ですか。結構多いですね!
林 そういう人は、「LINEが既読になるのにいっこうに返事が来ない。なぜだろう?」といった恋愛における心のやり取りやドキドキを面倒に思うらしいんです。
カツセ 「恋を面倒なこと」捉える傾向は、男女共にあると思います。先日、30歳の既婚女性からW不倫について相談を受けたのですが、その方は現在の夫と別れて不倫相手と一緒になることは考えていないと言っていました。僕個人は、その方には子どもがいないし、結婚相手にも未練がないのなら、離婚して新たな相手と恋をするのもアリだと思うのですが、その人はこの小説でいう「ハル」を再びするのが面倒くさいと言うんですよね。「娯楽」と言ってしまうとやや大げさかもしれませんが、今はいろいろと趣味の選択肢も増えているので、恋を始めるときのドキドキや相手との心のやり取りに時間を割くことをマイナスに捉える人もいるようです。
林 最近では婚活もマッチングアプリやSNSを駆使して、相手の顔やスペックがわかったところから手っ取り早く出会って恋を始めたいと言う人もいますよね。僕はそれを聞いて「恋は春がいちばん楽しいのに」と思ってしまうのですが。
カツセ 今の時代は恋愛よりも他に夢中になるものが増えているのが一因かもしれませんね。
恋愛の悩みは誰かに相談した時点で答えは出ている
林 カツセさんは恋愛について発信していますが、読者から恋愛相談を受けることはありますか?
カツセ 今、僕の「LINE@」にはフォロワーが2万人ぐらいいるのですが、そこでよく恋の悩みが送られてきます。たいていは恋の春についてのドキドキよりも「相手が好きすぎて大変です」という夏特有のノロケや、秋冬になってからの別れについての相談が多いですね。
林 そこでカツセさんは直接、返信するんですか?
カツセ 基本的に僕は返信しません。フォロワーさんも返信がほとんどこないのは知ったうえで送っていると思いますが、みんな言葉にして整理したいのだと思います。恋愛相談って誰かに相談した段階で、すでに自分のなかで答えは出ている。付き合う前に「あの人のことが好きかもしれないんです」と相談を持ちかけるのは、すでにその人のことが好きになっているんだと思います。
林 みんな、誰かに背中を押してほしいんですよね。
カツセ この本に登場するバーテンダーと恋の語り手たちの距離感もそれと近い気がします。バーテンダー自身の「イエス・ノー」をあまり言わない距離の取り方が読んでいて心地よかったです。
林 そういった意味では、バーテンダーは心理カウンセラーと一緒なんですよね。相手が話していることに対して特にアドバイスはせずに「そうですか、そうですか」と聞くだけです。そして話している人もたいして意見を求めていなくて、ただ聞いてくれたらいいと思っている。もちろん僕個人では「あ~世の中には実際に不倫をする人がいるんだ!」などこれまで見たことなかった男女の恋模様を目の前にして新鮮な驚きもありますが……(笑)。この「聞いてくれるだけいい」という心理は、カツセさんの「LINE@」にも共通しているのかもしれませんね。
「相手を不満にさせたい」カツセマサヒコが語る妄想デート
林 カツセさんは、「女性から食事に誘われたい」というようなモテ願望はありますか?
カツセ モテたいと言ったら、モテたいです!(笑)男性としてモテたいだけではなくて、仕事でのクライアントや友人との付き合いなどなにかイベントがあったときに「あいつ、呼ぼうか」と言われるような存在になりたいですね。「社会的な意味でモテたい」願望で、誰しも持っているものだと思います。
林 男性にも女性にも「パーティに来てくれたら嬉しい人」というジャンルがあるんですよね。カツセさんは、そんなジャンルの人だと思います。もしパーティ会場にカツセさんが入ってきたら「おー! カツセさん来た!」とみんなが一斉に振り向いて、声をかけてくるイメージですよね。
カツセ そうなったらいいですねぇ。
林 持ち上げるつもりは毛頭ないですが、やはりそれは華があるとかネガティブなことを言わないとか様々な要素があるのだと思います。
カツセ 思われたいですねぇ?。フットワークは重い方だと思うんですけど、男性女性問わず「飲みに行こうよ」と誘われることはありがたいなと思っています。
林 もし今、カツセさんが女の子とデートするとしたら、どんな風にデートに誘いますか?
カツセ うーん……。率直に「デートしよう」と言う気がします。
林 女性なら、そんな風に言われてみたいですね。
カツセ 変な下心を抱いて、遠回りに誘うよりも「あなたに好意がある」とハッキリ言ってしまったほうがいいと思います。もしそこまで言いづらいならば「『カメラを止めるな!』がおもしろいらしいよ」でもいいかもしれない。「あなたに目的があるわけじゃなくて、この映画を観に行きたいだけなんですけど、よかったら一緒にどうですか」という距離感も別に悪くないですよね。
林 ただそういう誘い方をすると本当に「ただ映画を観に行くだけ」で終わってしまうこともありそうですが、そこはどうやって「これはデートだ」ということを伝えるんですか?
カツセ そうですね……デートの3日前くらいに「服悩んでる!」って相談をしてみるとか……(笑)。
林 服の相談!! それは思いつかなかった。
カツセ 「ワクワクしているよ」という気持ちを伝えるのがデートの前フリとしてあったほうがいいなと思いまして……。
林 すごい想像力ですね。映画が終わったら、食事に誘う?
カツセ 時間によりますが、夜9時に映画が終わったら「じゃあゴハン行こうか」という流れは自然ですよね。
林 なるほど。ちなみに初デートでは、どんなお店に女性を連れて行きますか?
カツセ 選択肢をいくつか提示しますね。日本酒がおいしいお店、海鮮がおいしいお店、野菜やオーガニック系がウリのお店、夜景がキレイなお店……などジャンルの違うお店をいくつか挙げて相手に選んでもらう。「どれでもいい」と一任されるのが僕、いちばん苦手なんです。
林 女の子の中には「どこがいい?」と聞かれたらあえて「どこでもいい」と返答することによって相手に「男を見せてほしい」と考える人もいるようです。
カツセ 僕個人は、そこで言われる「男らしさ」に関してはまったく興味がないので、そういうスタンスを取る女性とは合わないなと思ってしまいます……。ただこの「どこがいい/なんでもいい」というのはよくある話で、過去の恋人にも「なんでもいい」と言われて僕が決めた店に連れて行ったら「ここはイヤだ!」と後から言われたことはありました(苦笑)。こちらとしたら「なんでもいいって言ったやん!」となる。
林 ゴハンを食べて、お酒を飲んだ後に「好き」と言わずにキスできますか?
カツセ ……(笑)。おそらく一回目のデートでは何もしないと思います。
林 それはどうしてですか?
カツセ 相手をものすごく不満にさせたいんですよね。
林 うわー、悪い人ですね(笑)。
カツセ でも僕が10代のころって、そんなことをいっさい考えたことがなかったですね。男子校だったから女の子との会話もままならないし、多汗症だし、すぐに赤面する。ただデートではミスを絶対にしたくなかったので、前日や前々日にまったく同じデートコースを一人で行ったりしたんですよ。
林 まるでロケハンですね。しかもそれ、男性はよくやりますよね(笑)。
カツセ しかも店に行くだけじゃなくて、店員さんとの会話までリハーサルをしていましたね(笑)。
林 で、そういうときに限って当日には、彼女がまったく想定外の行動をとってしまうのもよくありますね(笑)。キスやセックスに持ち込むのは出会ってからいつぐらい?
カツセ 僕、付き合う前でもセックスしていいと思っているのですが、それなら相手にも「今度会うとき、朝まで映画見たりゴロゴロしたり、一緒にいたい」と伝えたほうがいいかなと思ってしまいますね。
林 最近の女の子の中には「付き合おうって言ってくれないから、きっと私はセフレなんだ」と悩む子もいると話を聞きました。
カツセ 確かに10代のころはファッション誌のアドバイスにならって、面と向かって言っていましたね。ちゃんと「付き合ってください」って言ってからデートして、ひとつひとつステップを踏んで進めていく緊張感みたいなものがあった。ただそこまでハッキリと言わなくても率直に「デートしようよ」でもいいと思いますね。アメリカでは「付き合ってください」と言うんじゃなくて、「デートに行こう」「パーティに行こう」と誘った時点ですでに相手への好意を示していると聞いたことがあります。それは自分が相手を好きという気持ちと実際の行動が伴っているで、理にかなっていると思います。
林 なるほど。きっとこれを読んだ若い男子から「勉強になった」とツイートがたくさんくると思います(笑)。
林伸次さんの連載「ワイングラスのむこう側」、「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」もあわせてお楽しみください。
カツセマサヒコ
ライター・編集者。1986年東京生まれ。明治大学卒業後、2009年より大手印刷会社の総務部にて勤務。趣味のブログをきっかけに「プレスラボ」へ。2017年4月に独立。
ツイッター:https://twitter.com/katsuse_m
林伸次×佐伯ポインティ
「もうすぐなくなるという恋愛について、いま話しておきたいこと」
出演 林伸次、佐伯ポインティ
時間 15:00~17:00 (14:30開場)
場所 本屋B&B(東京都世田谷区北沢2-5-2 ビッグベンB1F)
入場料 前売1500円+1ドリンク 当日店頭2000円+1ドリンク
http://bookandbeer.com/event/20180819/