モモンガ様自重せず   作:布施鉱平
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 ワーカーを招き入れ、防衛戦力を確かめようとするナザリック。

 デミウルゴス指揮の下、ワーカーに絶望と死をもたらす作戦が開始された────


モモンガ様、ナザリックで自重なんてするわけがない(後)

◆招かれた侵入者たち 入口付近(ユリ、エントマ)────

 

 

「…………ユリ…………ユリッテバァ」[エン]

 

「はっ…………ど、どうしました? エントマ」[ユリ]

 

「ナニ(ホウ)ケテタノォ?」[エン]

 

「そ、そんな、ボ…………私は呆けてなんて…………」[ユリ]

 

「嘘ォ。コノ前ノ作戦ノ時ニ、一人デ『イビルアイ』ヲ抑エテイタゴ褒美トシテ頂イタ、アインズ様カラノゴ寵愛ノコト思イ出シテタンデショウ?」[エン]

 

「な、なんでそれを!?」[ユリ]

 

「ユリハァ、スグ顔ニ出ルカラァ」[エン]

 

「そ、そんなことないもん!」[ユリ]

 

「サッキ、ニヤニヤシテタヨォ?」[エン]

 

「うっ!」[ユリ]

 

「今モ顔真ッ赤ダシィ」[エン]

 

「あ、あんまり見ないで…………」[ユリ]

 

「アトォ」[エン]

 

「ま、まだあるの?」[ユリ]

 

「ナザリック・オールド・ガーダーガァ、トックニ侵入者ヲ全滅サセチャッテルヨォ?」[エン]

 

「…………あっ」[ユリ]

 

 

 

◆招かれた侵入者たち 追い込み(ルプスレギナ、ソリュシャン、シズ)────

 

 

「それー! 侵入者を追いかけるっす、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)たち!」[ルプ]

 

「「はっ!」」[リッチたち]

 

「んー…………追いかけるにしても甚振(いたぶ)るにしても、やっぱり自分でやらないとイマイチ面白くないっすねぇ」[ルプ]

 

「そうねぇ。でも今回は、最低限の防衛戦力がこの世界の人間にどれだけ有効なのかを調べる実験も兼ねているのだから、仕方ないわ」[ソリュ]

 

「分かってるっすよー。でもなんだか逃げていく人間を見ると、こう、ムズムズと…………」[ルプ]

 

「…………それは仕方ない。ルプーは犬だから」[シズ]

 

「犬じゃないっす! 狼っす!」[ルプ]

 

「…………犬と狼に遺伝的な違いはほとんどない。野生環境に適応しているのが狼、飼われる環境に適応しているのが犬」[シズ]

 

「じゃあ犬っす」[ルプ]

 

「…………あなたはそれでいいのかしら?」[ソリュ]

 

「ナザリックを離れたら生きていけないっすからねぇ。それにアインズ様に飼われているんだと思うと…………それはそれでこう、クルものがあるっす!」[ルプ]

 

「…………うわぁ」[シズ]

 

「シズ。この程度で引いてたら、アルベド様の『好き好きアインズ様♡ 夜のご奉仕技術向上講座(初級編)』にすら耐えられないわよ?」[ソリュ]

 

「なんすかそれ!?」[ルプ]

 

「アインズ様のご寵愛を受けた者たちの為に定期開催されている、アルベド様主催の研修会よ。本人の資質と熟練度に合わせて、初級編、中級編、上級編、最上級編、超越編の五段階に分かれているわ。会報もいくつか出てるのよ…………はい、これ」[ソリュ]

 

「重っ!? 会報って厚さじゃないっすよこれ!? 何ページあるっすか!?」[ルプ]

 

「大体毎回三百ページくらいね。多い時は四百ページで前後巻になることもあるわ」[ソリュ]

 

「そ、そんなに何が書かれているっすか?」[ルプ]

 

「そうねぇ…………主に書かれているのはアルベド様のエッセイね。アインズ様に対する気持ちだとか、アインズ様が言われたことに対してこう思ったとか、アインズ様がふと遠くを見ている時に何を考えているのか想像してみたりとか…………そういったことが時には楽しく、時には物悲しく、時には淫靡に書かれているわ」[ソリュ]

 

「…………そ、そうっすか」[ルプ]

 

「あとは挿絵付きで、アインズ様がお悦びになる〇〇〇を〇〇〇するやり方だとか、〇〇〇の時は〇〇を〇〇〇〇する方がいいとか、〇〇〇の時はあえて〇〇〇〇ながら〇〇〇を見せつけるようにして、最後は〇〇を〇〇〇〇ると凄いことになるとか、そんなことが書いてあるわ」[ソリュ]

 

「…………す、すごいっす! 俄然興味が沸いてきたっす!」[ルプ]

 

「まあ、あなたもご寵愛を受けることになったら参加するといいわ」[ソリュ]

 

「くぁああああああっ! 羨ましいっすーーー! 私も早くアインズ様からご寵愛いただきたいっすーーー!! そしてまだご寵愛を受けてない人の前でそんな顔したいっすーーー!!」[ルプ]

 

「…………………………………………がんばる」[シズ]

 

 

 

(はこ)の中にはみっしりと────

 

 

「…………おい、誰かいるか?」[グリ]

 

「────ここだ、グリンガム」[モブ盗賊]

 

「お前だけか…………他には誰もいなのか?」[グリ]

 

「ああ、俺たちだけみたいだ」[モ盗]

 

「くそっ! さっきの罠か? なんだ、バラバラに転移させられたとでもいうのか?」[グリ]

 

「信じられんが、現状を考えればその可能性が高いな。集団を転移させる魔法は、確か第五とか第六位階だったと思うんだが…………」[モ盗]

 

「この墳墓の主は、それだけの魔法を仕えるってことかよ」[グリ]

 

死の大魔法使い(エルダーリッチ)を顎で使うようなやつだからな。多分そうなんだろう」[モ盗]

 

「くそっ、くそっ! どんだけ狂ってるんだ、このクソッタレ墳墓は!」[グリ]

 

「その言葉、許しがたいですね」[恐怖公]

 

「な、誰…………!? ぎ、ぎぃやぁああああああああああああっ!!!!」[グリ]

 

「お、おい、どうしたグリンガム!?」[モ盗]

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ」[グリ]

 

「グリンガム! グリンガム! くそっ! そ、そうだ、明かりを!」[モ盗]

 

「……………………ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャ」[グリ]

 

「明かり、明かりを…………よし、ついた………………………………ぁ」[モ盗]

 

「……………………」[グリだったもの]

 

「……………………え? な、なんだよこれ、グリンガムはどこに行ったんだよ? グリンガム? グリンガム!!」[モ盗]

 

「おや、失敬。我輩としたことが、つい怒りに我を忘れてしまいました」[恐怖公]

 

「ひぃ! な、なんだお前は!」[モ盗]

 

「名乗りもせず申し訳ない。我輩はこの地をアインズ様より賜る者、恐怖公と申します」[恐怖公]

 

「な、な…………」[モ盗]

 

「ああ、そちらが名乗られる必要はございませんよ。その既に骨と化している愚か者のせいで、我輩も眷属も自制が効かなくなっているのです。あなたはただの餌として、我輩の眷属の腹を満たしてくれればそれで結構」[恐怖公]

 

「え、餌…………? じゃ、じゃあこの骨は…………」[モ盗]

 

「数秒後の貴方の姿ですよ」[恐怖公]

 

「…………い……………………いやだぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………ブチブチブチブチブチブチブチブチムシャムシャムシャムシャムシャムシャ」[モ盗]

 

「…………さて、二人では少々物足りませんね。もう少し来てくれればいいのですが……………………」[恐怖公]

 

 

 

◇必要なのは愛なのです────

 

 

「モガッ? モガモガモガモガッ!」[モブ]

 

「あらん、ようやく起きたのねん?」[ニュー]

 

「フゥッ、フゥッ、フゥッ…………」[モブ]

 

「そんなに息を荒げて…………私の体に興奮しちゃったのかしらん? でも、ダ、メ、よ♡ 私の身も心も、全てアインズ様のものだからん」[ニュー]

 

「は、はいんふはは?」[モブ]

 

「そう、アインズ様。至高の中の至高にして、最も美しく、優しく、愛に満ちた御方…………このナザリック地下大墳墓に住まう全ての者があの方をお慕いし、恋焦がれ、忠誠を捧げているのよん」[ニュー]

 

「……………………」[モブ]

 

「あらん? そう言えばまだ名乗っていなかったわねん? 私の名前はニューロニスト。ナザリック地下大墳墓特別情報収集官…………まぁ、拷問官と言ったほうが分かり易いかしらん?」[ニュー]

 

「…………っ!」[モブ]

 

「うふふふふ。そんなに怯えなくてもいいのよん? 私は愛を込めてあなたに接するだけ、あなたはアインズ様を讃える歌を歌うだけ…………ね、簡単なことでしょ」[ニュー]

 

「ふ…………ふは?」[モブ]

 

「そう、歌よん。あなたとお仲間には、神であるアインズ様に捧げる賛美歌を歌う、聖歌隊の一員になってもらうのん。そして私はその指揮をする…………あぁ、目に浮かぶようだわ♡ 私の捧げる歌に感動して、人目も憚らず思わず私を引き寄せ、抱きしめてしまうアインズ様…………私はその情熱的な抱擁に応え、あの細っそりとしたお体を抱きしめ返す…………あぁ、あぁ、そして私は初めてを…………♡」[ニュー]

 

「……………………ブルリッ」[モブ]

 

「…………うふふっ。まぁそういう訳だから、あなた達にはせいぜい素敵な歌を歌ってもらって、私とアインズ様の雰囲気を盛り上げてもらわなくちゃいけないのよねん。だ、か、ら、そのお手伝いをしてくれる助手たちを紹介するわねん。カモン、拷問の悪魔(トーチャー)たち」[ニュー]

 

「…………っ! んーーっ!! んんーーーっ!!」[モブ]

 

「無駄よん。あなたごときの筋力で、その拘束から逃れることはできないわん。さ、じゃあ本番の前にたっぷり練習しないとねん。あなた達は今回の作戦のクライマックスで、そのBGMとなる栄誉を与えられているの。失敗は許されないから、何度も何度も練習しましょうねん?」[ニュー]

 

「ひゃへへ! ひゃへへふへ!!」[モブ]

 

「んー? やめてほしいのん? でもそれは、無、理♡ なぜならあなた達は、至高の方々のお住まいに土足で踏み入った薄汚いコソ泥なのよん? あなたは自分の一番大切なものを、一番愛するものを、自分より遥かに下等な存在に踏みにじられたらどうするかしらん?」[ニュー]

 

「おへははふはっは!」[モブ]

 

「私は踏み潰すわん。例え心から反省し、謝罪したとしてもねん。踏み潰す前にありとあらゆる苦痛を与え、心を絶望と狂気で満たし、自我が崩壊する直前まで追い込んでからだけど」[ニュー]

 

「はふへへふへ!」[モブ]

 

「そうね、助けが来るといいわねん。まぁ、もし来たら来たで、聖歌隊のメンバーが増えるだけだけどねん」[ニュー]

 

「ひひゃはー! ほんはほはひひゃはー!」[モブ]

 

「あら、なかなかいい声で歌うじゃない? でも、まだまだねん。本番ではちゃんと歌えるように、しっかり練習しましょうねん」[ニュー]

 

 

 

◇折れた天武────

 

 

「ようやく来たでござるか、侵入者殿」[ハム]

 

「…………あなたは?」[エル]

 

「拙者はハムスケ。ここでおぬしの相手をするように言われたものでござる。色々とテストしなければならないことがあるのでござるが…………そなたではちょっと弱すぎて相手にならないでござるなぁ」[ハム]

 

「…………また、か。剣も交えずに、あなたも私より強いと確信している…………」[エル]

 

「これはまた、随分と辛気臭いのが来たでござるなぁ」[ハム]

 

「私は…………私は弱いのか?」[エル]

 

「弱すぎでござる。人間にしてはそこそこ、程度でござろうな」[ハム]

 

「そこそこ…………」[エル]

 

「この場所のもっと下の方にいる方々から比べたら、ドラゴンに立ち向かうハエ程度でござろう」[ハム]

 

「…………ハエ」[エル]

 

「まあ、どれだけ弱かろうと侵入者は侵入者でござる。容赦なく殺すつもりで攻撃するでござるから、そちらも全力でかかってきてほしいでござる」[ハム]

 

「…………どうぞ、ご自由に」[エル]

 

「うむ! 某はハムスケ! そなたを殺すものの名を覚えて、あの世に逝くといいでござる!」[ハム]

 

「…………私などは名乗る程の者でもありません。ただのハエです」[ハエ]

 

「ではハエ殿! 行くでござるよ!」[ハム]

 

「…………どうぞ」[ハエ]

 

 

 

◇ハエの死後────

 

 

「このっ! このっ! ハエ野郎!」[エルフ1]

 

「お前の〇〇〇小さいんだよ! そして早すぎるんだよ! この〇〇〇〇〇〇野郎がっ!」[エルフ2]

 

「あはははははははっ! あははははははははっ!」[エルフ3]

 

「……………………あのぉ、でござる」[ハム]

 

「ざまみろこの〇〇野郎! ハエよりも小さいんじゃないのか!? お前が初めてだったら、私まだたぶん処女だったぞ!?」[エルフ2]

 

「このっ! このっ! このっ! このっ!」[エルフ1]

 

「あはっ! あははっ! あははははははははははっ!」[エルフ3]

 

「…………独特な弔い方でござるなぁ」[ハム]

 

「いえ、たぶんあの男に恨みでもあるのでしょう」[ザリュ]

 

「ああ、鬱憤を晴らしてるようにしか見えねぇからなぁ」[ゼン]

 

「あの者たちも一応侵入者なのでござるが…………」[ハム]

 

「無理やり連れてこられたのかも知れませんし、一応ゴウン様の指示を仰いでからにしたほうがいいかもしれませんね」[ザリュ]

 

「じゃあそうするでござるか。ところでザリュース殿、ゼンベル殿、どうでござった?」[ハム]

 

「ええ、見事に武技が発動していましたよ。おめでとうございます、ハムスケ殿」[ザリュ]

 

「おお、普通は一つの武技を習得するのに早くても一年くらいはかかるもんだぜ? まあ、普通はあんな自分が生きてるか死んでるかも分からなくなるような訓練なんてしねぇけどな」[ゼン]

 

「…………基本、格上の存在しかいないでござるからなぁ。拙者、五十回以上は死にかけたでござるよ」[ハム]

 

「俺とゼンベルは実際に一回死んでますよ」[ザリュ]

 

「おお! 貴重な体験だったぜぇ!」[ゼン]

 

「お二人は前向きでござるなぁ。よし、拙者も一回死ぬくらいの気持ちで頑張るでござるよ!」[ハム]

 

「経験しないに越したことはないですよ」[ザリュ]

 

「おお! 二度はゴメンだぜぇ!」[ゼン]

 

「…………やっぱり、もうちょっと控えめに頑張るでござる」[ハム]

 

 

 

◇円形劇場にたどり着いたフォーサイト────

 

 

ぎゃぁあああああああああああああああああ!!」[モブ]

やめて! やめて! やめて! やめて! やめて!」[モブ]

ひぃいいいいいいいい! ひぃいいいいいいいいい!」[モブ]

もう嫌だぁあああああああっ! 殺してくれぇえええええええっ!」[モブ]

 

「…………マジかよ」[ヘッケ]

 

「あれ…………みんな他のワーカーたち?」[イミ]

 

「おお、なんということを…………神よ…………」[ロバ]

 

「おげぇえええええええええええっ!」[アルシェ]

 

「アルシェ!?」[ヘッケ]

 

「だ、大丈夫!?」[イミ]

 

「無理もありません、あんな光景を見せられては…………」[ロバ]

 

「ち、違う! あ、あ、あれ…………!」[アルシェ]

 

「あれ…………? うおっ!」[ヘッケ]

 

「なにあれ…………スケルトン?」[イミ]

 

「ただのスケルトン…………ではないでしょうね」[ロバ]

 

「逃げて! お願い! 今すぐに逃げて! あれは、あれは化物なんて言葉で収まる存在じゃない! 力の桁が違うの! 無理! 絶対に無理ぃ!」[アルシェ]

 

「落ち着け、アルシェ!」[ヘッケ]

 

「ロバー!」[イミ]

 

「ええ、〈獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)〉」[ロバ]

 

「…………う」[アルシェ]

 

「大丈夫? アルシェ」[イミ]

 

「ごめん。でも、大丈夫じゃない! 皆、あれは人間が勝てる存在じゃない! 想像を絶した化物なの! 早く、早く逃げないと!」[アルシェ]

 

「逃げる…………ったってなぁ」[ヘッケ]

 

「…………ええ、無理ね」[イミ]

 

「アルシェのようなタレントがなくても分かります。あのスケルトンから、世界を包むかのような濃厚な死の気配が漂ってきてますからね」[ロバ]

 

「ああ…………こいつぁまるで…………」[ヘッケ]

 

 

「……………………待たせたかな? 侵入者諸君」

 

 

 

◆フォーサイトの行末────

 

 

「さて、侵入者諸君。まずはおめでとうと言わせてもらおう」

 

「…………それは、どういうことですかね」[ヘッケ]

 

「君たちはここにたどり着いた唯一の冒険者…………いやワーカーだったか? まあ、どちらでもいい。とにかく唯一の生き残りだからだよ」

 

「…………あそこにいる奴らは?」[ヘッケ]

 

「ああ、ニューロニストの()()()達か? あれを生きていると表現するのなら、君には詩人の才能がある」

 

「そいつぁ…………どうも」[ヘッケ]

 

「礼はいらんよ、ただの皮肉だ。…………さて、ではそろそろ本題に入らせてもらおうか。実は君たちに提案があるのだよ」

 

「…………提案、ですか」[ヘッケ]

 

「そう、提案だ。ここまでたどり着いた褒美として、君たちには選択肢を与えようと思う。君たちはそのどちらを選んでも構わない…………あそこで歌っている者たちとは違ってな」

 

「…………なんで俺らが特別なのか、それを聞いても?」[ヘッケ]

 

「なに、一つ試したいことがあってね。侵入者たちの中でもとりわけ優秀そうで、かつ性格もまともそうな君たちに白羽の矢が立った、というだけだ」

 

「そいつぁ光栄、なんですかね。で? 俺たちで試したいってことはなんなんですかい」[ヘッケ]

 

「君たち『この世界』の人間が持っている、タレントや武技だよ。私はそれに非常に興味がある。私の下僕(しもべ)にも武技を習わせたりはしているのだが、それは中々に時間が掛かってね。もっと手っ取り早い方法はないかと考えた結果、武技やタレントを持つものを迎え入れればいいと思い至ったわけだ」

 

「…………それはつまり、俺たちに奴隷になれってことですか?」[ヘッケ]

 

「下等生物が…………っ、口の利き方を知らないようなら…………」[アル]

 

「よい、アルベド」

 

「しかしっ!」[アル]

 

「よいのだ。今はただの下等生物だが、もうすぐ()()()()()()()()。口の利き方も自ずと知るだろう」

 

「はっ、失礼いたしました。アインズ様」[アル]

 

「よい。…………でだ、君たちに与える選択肢は二つ。私の提案を受け入れてその命を私に捧げるか、もしくは提案を蹴ってあそこにいる者たちと同じ運命を辿るかだ」

 

「…………その提案、俺が受ける代わりに俺の仲間を見逃すって訳には…………」[ヘッケ]

 

「ヘッケラン!」[イミ]

 

「当然なしだ。ただ、各々に選ばせてやろう。自分の命をどうするかは自分で決めたいだろうからな。…………さて、どうする?」

 

「…………私は」[ロバ]

 

「おっと、ひとつ注意しておこう。選択は一度だけだ。はじめに断っておいて、後でやっぱり提案を受けますなんて我が儘を聞くつもりはない。どれだけ泣き叫んで懇願しようと、提案を断った者は死ぬことも許されない苦痛を精神が崩壊するまで延々と味わってもらうことになる。気をつけたまえよ?」

 

「…………選択肢なんてないじゃない」[イミ]

 

「よせ、イミーナ」[ヘッケ]

 

「それに、私たちが全員戻らなければ、すごく強い人がここに来ることになっているわよ? その人はあなたより強いかも知れない!」[イミ]

 

「よすんだ、イミーナ」[ヘッケ]

 

「あの人なら、モモンさんなら…………!」[イミ]

 

「やめろ、イミーナ! モモンさんは来ない!」[ヘッケ]

 

「へ、ヘッケラン? だ、だって、あのモモンさんなら…………」[イミ]

 

「こないんだよ、絶対に来ない。…………そうでしょう? モモンさん」[ヘッケ]

 

「……………………え?」[イミ]

 

「……………………〈精神が鎮静化〉」

 

「あなたは、あの人と同じ『死気』を纏っている。それをあそこであえて俺たちに見せたのは、あそこで俺たちを選別する意図があったからだ。だからこそ、ご老公やエルヤーだけじゃなく、わざわざ俺やグリンガムにまで力を見せつけたんでしょう?」[ヘッケ]

 

「ふむ…………(いや…………そこそこ強そうだったから、後々また同じことが起こらないように一度にやっただけなんだけど…………)」

 

「ちょ、ちょっと待ってよヘッケラン! じゃあなに、この…………この人がモモンさんと同一人物だってことは、アダマンタイト級の戦士としての力を持っている上に、アルシェが吐くくらい強力なマジックキャスターだってことよ!?」[イミ]

 

「そうだ」[ヘッケ]

 

「そんな…………そんなの…………」[イミ]

 

「……………………話を脱線させるのはそれくらいにしてもらおうか。私がそのモモンだろうと、そうでなかろうと、君たちの運命が変わるわけでない(もう〈絶望のオーラ〉を軽々しく使うのはやめよう)」

 

「…………ひとつだけ、聞かせて欲しい」[アルシェ]

 

「アルシェ…………」[ヘッケ]

 

「…………ふむ、いいだろう。ただし、質問はひとつだけ、そして君の質問で本当に最後だ。私がそれに答えようと答えまいと、その後君たちには自分の運命を選択してもらう」

 

「…………ああ、わかった」[ヘッケ]

 

「いいの? ヘッケラン…………ロバーとイミーナも?」[アルシェ]

 

「…………はぁ、もうどうしようもないみたいだし、いいわよ」[イミ]

 

「ええ、かまいません」[ロバ]

 

「…………ありがとう…………ごめんなさい」[アルシェ]

 

「いいってことよ。どうせ聞きたいことは同じだろうしな、俺の代わりに聞いてくれ」[ヘッケ]

 

「うん……………………では、質問します」[アルシェ]

 

「ああ、するといい」

 

「私たちがあなたの提案を受け入れたとして…………結局私たちはどうなるの?」[アルシェ]

 

「……………………(そういや、命を捧げろとか言っておきながら、どうするかは言ってなかったけ…………)」

 

「答えて…………くれますか?」[アルシェ]

 

「あ、ああ、もちろんだとも。私の提案を受け入れた場合、君たちには────────」

 

「「ごくりっ」」[フォーサイト]

 

「────────吸血鬼の眷属化してもらうことになる」

 

 

 

◆侵入者撃退作戦その後────

 

 

「お疲れ様でした、アインズ様」[アル]

 

「うむ。今回の作戦では、お前も全体の調整に力を注いでくれたそうだな。流石は守護者統括であるアルベド、作戦を予定通りに進めることができた。感謝するぞ」

 

「勿体無いお言葉です。それでアインズ様、お時間はよろしいのですか?」[アル]

 

「ああ、地上のことはパンドラズアクターに任せてある。あいつならモモンとしてうまく立ち回ってくれるだろう」

 

「それはよろしゅうございました。では、少しお時間を頂いてもよろしいですか?」[アル]

 

「あ、ああ、構わないとも(まあ、いつもの流れだとこのままベッドになだれ込むんだけど)」

 

「実は…………」[アル]

 

「うむ(あれ? なんか真剣な感じ…………)」

 

(わたくし)…………」[アル]

 

「う、うむ(なに!? この溜めはなに!? どんな重要なこと言おうとしてるの!?)」

 

「────────出来ちゃったみたいなんです!」[アル]

 

「…………………………………………〈精神が沈静化〉」

 

 

 

 




 はい、七巻分はこれで終わりです。

 フォーサイトが生き残りましたねー。
 ですが今後の出番はないかもしれないので、彼らのその後をちらっと書いておきます。

 基本的には全員シャルティアによって吸血鬼化しましたが、役割はそれぞれ違います。

 ヘッケラン────武技を使える吸血鬼に。ハムスケや蜥蜴人と共に武技の普及に励んでます。

 イミーナ────基本的にはヘッケランと同じです、魔法が使えないナザリックのNPCに魔法を教えようと頑張っています。

 ロバーデイク────吸血鬼化したあと、アインズ様の記憶操作によって信仰の対象がアインズ様に変わりました。
 変わらず回復魔法は使えています。

 アルシェ────タレントは吸血鬼化しても使えることが判明。
 ただ、今のところは使い道がないのでシャルティアのおもちゃです。
 妹たちはカルネ村に呼び寄せ、時々会いに行かせてもらっています。

 以上。

 一応皆、幸せっちゃあ幸せなんでないかと思います。


 そして…………アルベドさん。

 出来ちゃいましたねー。

 どうしましょう。

 まあ、書いてしまったものはしょうがないので、後々なんか小話でも入れてこうかと思っています。

 なるべく本編の大筋には影響のない方向で。

 








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