Sandstorm:ウィザードリィの「評価」を、改めて考える - livedoor Blog(ブログ)
リンク先の記事を読み、PC-9801版『Wizardry』との出会いと、ファミコン版『ウィザードリィ』に熱狂していった記憶を思い出した。いてもたってもいられないので、当時のファミコン小僧がどんな風に“ロールプレイングゲーム”と付き合っていたのかも含めて書き留めておく。
1.私がPC-9801版の『Wizardry』に出会ったのは小学校時代の終わり頃だった。「『ドラゴンクエスト』や『ブラックオニキス』よりアイテムやモンスターの種類が多くて、“本格的な”ロールプレイングゲームを買った」と友人が話していたので、どんなものなのか見に行った。
六年生だった私にも『Wizardry』のうわさ話は届いていた。少年ジャンプでファミコンゲームのレビューを書いていた『ファミコン神拳』の評者*1が、この『Wizardry』を遊んでいたと耳にしたからだ。ちょうど、元ネタのテーブルトークRPG『ダンジョンズアンドドラゴンズ(D&D)』が仲間内で流行りはじめた時期だった。
初対面の『Wizardry』は面白そうではなかった。呪文のスペルを入力するのも、敵が“不確定名”で登場するのも素敵だったし、「クリティカルヒット」というハードなシステムや宝箱の罠にも心が躍った。
が、グラフィックがいけなかった。当時の私は『ファイナルファンタジー』のグラフィックと演出に打ちのめされたばかりだった*2。それに比べて『Wizardry』の線画ダンジョンは殺風景で、モンスターのグラフィックも一辺倒でがっかりした――「『ドラゴンクエスト』のモンスターみたく、色だけでも変えてくれれば!」
“アメリカでつくられたロールプレイングゲーム”という前情報も、ファミコン小僧にして『ザナドゥ』を知っていた小学生の私にはどうでも良いものだった。フロッピードライブがかっちゃんかっちゃん時間をかけてロードするのも気に入らなかった。まだるっこしい!
こんな具合に、『Wizardry』の第一印象はとても悪かったので、ファミコンに移植されると聞いても私はノーマークだった。なんであんなしょっぱいグラフィックのトロくさいゲームをやらなければならないのか?ディスクシステムで発売された『ディープダンジョン』が今ひとつだったのもあって、私は『Wizardry』を忘れていった。遊ぶべきファミコンゲームは他にもたくさんあったし、『D&D』やアドベンチャーゲームブックも遊びたかったからだ。
2.ところが一年ほど経つと、ファミコン版の『ウィザードリィ』はすっかり人気者になっていた。「『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』とは全然違う」と評判で、ゲーム選びが上手いといわれていた同級生も『ウィザードリィ』を推していた。当時の私は不登校になりかけていたので情報収集が出遅れてしまったが、実際、友人宅でみせてもらった『ウィザードリィ』は『Wizardry』とは全く別物だった。
「すげぇ!『D&D』がそのままファミコンになったゲームだ!」
当時の私が夢中になった『ウィザードリィ』の美点を挙げてみる。
グラフィック。モンスターの種類が判明していない時の茶色〜水色で描かれた姿は怪しげだったし、判明した後のグラフィックも良かった。フロストジャイアント、ファイヤードラゴン、グレイブミスト*3、どのグラフィックも“西洋風”の“本格派”で、大好きな『D&D』や『ドラゴンランス戦記』の世界観と矛盾しないものだった。
音楽も名曲で、これまた“西洋風”の“本格派”だった。『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』や『リンクの冒険』には無いテイストがはっきりとあった。少々大袈裟で滑稽ですらある戦闘シーンの曲も、中学生になったばかりの私には興奮を呼び起こすものだった。一枚絵と文章と数字だけの戦闘画面から烈しい想像力を引き出す力が、あの曲にはあったと思う。『ファイナルファンタジー』の美しいエフェクトを打ち負かすほど『ウィザードリィ』の戦闘に興奮できたのは、あの、仰々しくもカッコいいBGMがあったからだ。
アイテムの名称も良かった。ファミコン版『ウィザードリィ』の武器名は「メイス+1」といった寂しい表示ではなく、「ふんさいのメイス」のような固有の名前を与えられていた。これは呪いのアイテムにも言えることで、「はめつのかわよろい」や「わざわいのメイス」や「のろわれたローブ」はお好みだった。英語に切り替えるとちゃんと英訳版がついていたので、私は新しいアイテムやモンスターを見かけるたびに書き写し、英単語を暗記して喜んでいた。
しかも『ウィザードリィ』の操作性は抜群だった。バッテリーバックアップ機能のおかげでファミコン版はリセットボタンを押してからの起動が素早かった。ウィンドウ切り替え速度も良好で、『女神転生』や『ファイナルファンタジー』どころか『ドラゴンクエスト』と比べても遜色無いほどインターフェースが機敏だった。
同時代のファミコンゲームには珍しい長所もあった――『ウィザードリィ』には戦闘の「表示時間」を1フレームから∞*4まで変更できる機能がついていた。表示時間を∞にすれば余裕をもって戦闘できるし、ゲームに慣れてきたら表示時間を短縮して戦闘を早く片付けられる。表示時間を1にすると瞬きも許さないスピードになるのでエナジードレインやクリティカルヒットを食らうと危ない。しかし人間の目とは恐ろしいもので、慣れてくればちゃんと読めるようになる。この「表示時間」機能のおかげで、『ウィザードリィ』の戦闘はダレなかった。あれから三十年近く経った現在でも、『ウィザードリィ』以上にスピーディーに宝探しできるゲームを遊んだ記憶は無い。
3.こうやって思い出してみると、ファミコン版『ウィザードリィ』は原作版『Wizardry』とは似ても似つかぬものだった、と言わざるを得ない。原作のテイストを愛していた人達からみれば噴飯モノの移植かもしれず、実際、80年代後半の当時でさえ、PC-9801版の『Wizardry』を遊んでいた人達がファミコン版『ウィザードリィ』をあれこれ言うのを私は聞き知ってはいた。でも、私をはじめとする同時期のファミコン小僧が欲しがっていたのは原作どおりの『Wizardry』では無かったと思う。
たぶん私達は、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』には無いテイスト、“西洋風”の“本格派”なロールプレイングゲームが匂い立ってくるような、ちょっと背伸びしたいお年頃にジャストフィットなファミコンゲームを欲しがっていた。当時の私達はアドベンチャーゲームブックの洗礼を受けていて、『D&D』や『トンネルズアンドトロールズ(T&T)』や『ドラゴンランス戦記』に心奪われはじめていた。だから、そういったゲームを受け入れる素地、そういうゲームを買わずにいられないニッチ層があらかじめ出来上がっていたんじゃないかと思う。
実際、そのタイミングで“西洋風”の“本格派”な装いに生まれ変わった『ウィザードリィ』が現れたわけで、その方面に興味のあったファミコン小僧達が飛びついたのは当然だったと思う。そのうえ操作性抜群、音楽やグラフィックも水準以上、続編の『リルガミンの遺産』や『ダイヤモンドの騎士』も傑作だったのだから、もうどうしようもない。
冒頭リンク先で解説されているように、ファミコン版『ウルティマ』は『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』と競合する方向でアレンジされて敗れたのに対し、『ウィザードリィ』はちょっと背伸びしたいお年頃を狙ってヒットした。少なくとも、ちょっと背伸びしたいお年頃のファミコン小僧だった私にはジャストフィットで、私の周囲の友人達も同じようにやられていた。皆、諸手をあげてグレーターデーモンを退治し、カシナートの剣は名剣だと語り、ニンジャやサムライがドラゴンと戦う戦闘シーンに熱狂した。もうちょっと年上で、もうちょっと海外ゲーム事情に詳しいお兄さんがたにとって、『ウィザードリィ』の位置づけは違っていただろう。でも、海外産ロールプレイングゲームのテイストに憧れはじめたばかりのファミコン小僧達が本当に必要としていたのは、やっぱりファミコン版の『ウィザードリィ』だったのだと思う。
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