甲子園やコミケで見られる始発ダッシュ、その裏にある交通機関の苦労とは

改札口からの誘導もスムーズな阪神電車・甲子園駅(8月18日朝5時35分筆者撮影)

 今年、ニュースやネット上などで多く聞かれるようになった言葉が「始発ダッシュ」。目的地へいち早く到着できるように始発列車に乗って、イベントが行われる最寄り駅に到着後、いち早く改札口を出て、走って会場へ向かうことを指す。

 目的の為なら朝4時台の電車に乗ることも苦ではなく、始発列車が通勤列車並みの混雑になることも珍しくない。今までは「始発ダッシュ」は少数だった甲子園球場での高校野球でも今年は「始発ダッシュ」が目立つ状況になっている。

準々決勝は始発でも内野席のチケットが買えず

 筆者は8月18日(土)の朝、高校野球の準々決勝を観戦する為に宿泊先の尼崎から阪神電車で甲子園へ向かった。5時34分に甲子園駅に到着する「臨時急行」(梅田からの3番列車)に乗っていたが、筆者の関係者が梅田からの一番列車となる梅田4時58分発の「臨時急行」が到着する5時13分より前の朝5時過ぎに到着した時点で既に内野席(アルプス席を含む)は予定販売数を超える列になり、外野席しか選択がなかったそうだ。

 筆者が到着した5時34分の時点でも同様であり、すぐに外野席のチケットを購入する列に並んだ。先頭から最後尾までは700~800メートル近かったと思う。球場のチケット売り場から一旦駅の広場まで列を伸ばして、そこから球場にUターンして、ライトスタンドの阪神タイガースの室内練習場の裏で長い列となり、最後尾はライトスタンドの入口付近だった。

 甲子園史上最速の朝5時40分に「満員通知」が発表されたが、その頃に筆者は行列の最後尾に到着し、朝5時50分から今大会から有料となった外野席のチケット(500円)が発売開始となり、2時間10分並び、朝7時50分にようやくチケットを入手することができた。現在のルールでは一人5枚まで購入可能となっている。5時40分に満員通知が出たが、実際は朝6時前後に外野席も売り切れ見込みになる人数に達したようだ。

駅にも満員通知を知らせる案内が表示が。甲子園駅だけでなく、梅田などの主要駅にも表示されている(筆者撮影)
駅にも満員通知を知らせる案内が表示が。甲子園駅だけでなく、梅田などの主要駅にも表示されている(筆者撮影)

阪神電車はイベントのスペシャリスト

 しかしながら、阪神電車の対応や球場の案内は非常にしっかりしている。甲子園駅到着後、行列の最後尾までの誘導も無駄のないルートでパーフェクトだった。何よりも日本人特有なのかもしれないが、割り込みされることもなかったのは非常に評価できる点であり、甲子園駅到着後にダッシュで改札口へ向かう人もいるが、改札口から先はダッシュできない感じで係員が配置されていた。「始発ダッシュ」も基本的に改札口までとなり、鉄道会社と球場側との連携はしっかり取れているように受け取れた。

 何よりも阪神電車の臨時列車、それも停車駅の少ない「臨時特急」「臨時急行」が数多く運転されることから、駅が人で溢れかえることも基本的にはなく、スムーズに電車移動できる。梅田駅での待ち時間も基本的にはなく、特に試合終了時の甲子園駅からの臨時列車の出し方も過去の経験を踏まえて判断をしている。

 また最近では、高校野球期間中の列車接近時のメロディーとして今大会では嵐の「夏疾風(なつはやて)」が流れている。過去にも入場行進曲となった星野源の「恋」(TBSテレビ「逃げるは恥だが役には立つ」主題歌)も流すなど、高校野球ファンを楽しませてくれる工夫もしており、梅田から阪神電車に乗った時点で気持ちが高ぶるファンも多くいるだろう。

甲子園球場の玄関口である阪神電車・甲子園駅。吹き抜けのデザインも格好良い駅になっている(筆者撮影)
甲子園球場の玄関口である阪神電車・甲子園駅。吹き抜けのデザインも格好良い駅になっている(筆者撮影)

チケットの販売方法が影響か

 そういった中で、今大会では連日見られる「始発ダッシュ」。これは阪神電車としても想定外だっただろう。というのも、筆者自身も約20年近くほぼ毎年高校野球の観戦をしているが、試合開始時間がお昼前後ではあるが、1998年夏の横浜高校・松坂大輔投手の決勝「ノーヒットノーラン」、2006年夏の駒大苫小牧・田中将大投手と早稲田実業・斎藤佑樹投手の決勝再試合の時でさえも、朝6時台に到着して内野席に入れなかったことはない。今回のように連日、始発列車が通勤列車並みになることはなかったのだ。

 今大会は100回の記念大会ということに加えて、かつての中央特別自由席を完全指定席化したことで当日販売がなくなり、一定数の席をネット販売したことで当日販売分が減少し、今大会では始発列車だけではなく、終電近い列車で甲子園駅に到着して徹夜で並ぶ高校野球ファンが急増した。

来年以降、始発列車がより早くなるのか?

 明日の準決勝、明後日の決勝においても徹夜組が数多く出ることになるだろう。大会本部も公共交通機関(電車・バス)での来場を呼びかけているが、始発列車で内野席が確保できないとなれば徹夜組を止めることは難しいだろう。今大会では難しいが、来年の大会も同様のチケット販売になれば始発列車の見直しも出てくるだろう。始発列車を阪神電車が何時に出すのかにも注目したいところである。

「始発ダッシュ」の元祖はコミックマーケット

 「始発ダッシュ」がある意味、定着しているイベントがある。8月10日~12日に東京ビックサイトで開催された、「コミケ」という名称が定着した同人誌販売会「コミックマーケット94」。3日間で53万人が来場した。特に最終日となった12日は1日で21万人の来場となった。いち早くお目当てのブースを目指し、毎回の風物詩となったのが、東京臨海高速鉄道「りんかい線」で繰り広げられる「始発ダッシュ」。

 新木場駅からの臨時始発電車が5時23分、大崎駅からの始発列車が5時54分に最寄りの国際展示場駅に到着するのだが、駅から徒歩7分ということもあり、少しでも早く並ぶ為に駅到着後に走って目的地へダッシュする光景が毎回見られる。甲子園の高校野球ファンに比べて、特にエネルギッシュな若者の参加が多い傾向にある。ただ甲子園にも共通して言えることであるが、少しでもイベントを楽しむ為に早起きをして始発列車に乗ることを苦労とは思っていない人が多いことを改めて印象づけた今年の夏である。

東京オリンピック・パラリンピックへ向けて参考になることも

 りんかい線もイベントに応じた臨時列車を運行するなど、阪神電車同様にイベント慣れした鉄道会社となった。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも多くの観戦者が各競技会場へ訪れることになるが、臨時列車の出し方や警備体制の参考に両鉄道会社はなるだろう。