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IT業界だけでなく、日本のほぼ全てのビジネスパーソンが思考停止に陥っていた懸念材料がある。私も完全に思考停止状態だったと反省している。何かと言うと、日本の景気だ。これまで誰もが「東京オリンピック・パラリンピックまで日本経済は大丈夫」とボンヤリ想定し、それを前提に将来を考えていた。大会準備などに向けて活発な投資が続くというのが「大丈夫」の根拠だったが、最近その前提が揺らぎ始めているのだ。
まず、東京オリンピック・パラリンピック招致が決まった2013年を思い出していただきたい。前年の2012年末に発足した第2次安倍内閣が打ち出した経済政策「アベノミクス」、特に「黒田バズーカ」と呼ばれた大胆な金融緩和策がうまくはまり、日本の景気が何とか持ち直しつつあった時期だ。それまでは「失われた20年」といわれた経済の長期低迷で、日本はお先真っ暗状態だった。そんな暗さが払拭されつつあった時期に招致が決定した。
これで日本国内のムードが一気に変わった。なんせ2020年までの7年間は好景気が約束されたようなものだからだ。オリンピック・パラリンピックに向けて公共投資や企業の設備投資が活発になる。“オリンピック景気”と無縁の企業であっても、経営者の景況感は強気を保てるので売り上げ拡大に向けた投資に打って出られる。かくして日本経済は2020年までは好循環を維持できる。いろいろ問題はあれど、今まではまさにこのシナリオ通りだった。
いつもの「極言暴論」と異なりマクロな話が続くが、ご辛抱願いたい。さて、問題は「うたげの後」だ。2025年に全ての団塊の世代(1947~1949年生まれ)が後期高齢者になるなど、2020年代は少子高齢化がいよいよ深刻化し、国内市場は急速に縮小する。それに向けた2013年以降は日本企業にとっては、降って湧いたようなデジタルの時代の到来。ITを駆使して既存の産業を食い荒らす米国発のディスラプター(破壊者)もその間、多数登場してきた。
というわけで、日本企業は今のうちにグローバル企業に脱皮し、ITを活用してビジネスのイノベーション(今風に言えばデジタルトランスフォーメーション、DX)を実現しなければ、2020年代には生き残れない。それは我らがIT業界も同じ。世界の企業と比べて特殊なニーズを持つ国内の客を相手に、チマチマと人月商売を続けているようでは絶滅を免れない。つまり2020年までが、日本や日本企業に与えられたモラトリアム(猶予)期間だったわけだ。