訪問介護や看護の現場でのハラスメント被害を浮き彫りにする調査結果が相次いで公表された。女性が多い職場であり、特にセクハラ被害は深刻だ。
介護業界で働く人たちでつくる労働組合「日本介護クラフトユニオン」の発表では、介護職員の7割以上が利用者やその家族からセクハラやパワハラを受けていた。
セクハラでは「不必要に体に触れる」「性的冗談を繰り返す」などの回答が多く、犯罪に近い被害もあったという。
全国訪問看護事業協会が実施した調査でも、回答者の約半数が訪問先で心身の暴力やセクハラを受けた経験があると答えていた。
介護現場同様、「体を触られた」や「アダルトビデオを流された」といった訴えが目立つ。
介護職員が自宅を訪ね、食事や入浴、排せつなどの介助をする訪問介護は、お年寄りの生活を支える大切なサービスだ。ただ仕事の内容上、利用者と二人きりになることが多く、被害に遭いやすい。
自宅で最期まで暮らせるよう療養生活を支援する訪問看護師の役割も拡大しているが、常に密室のリスクを抱える。
これまで被害が表に出にくかったのは「病気に伴う症状だから仕方がない」「相談しても変わらない」と泣き寝入りするケースが多かったからだろう。
「#MeToo」運動の流れの中で顕在化してきた被害でもある。女性の人権を侵害するこれら言動は到底許されない。
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男女雇用機会均等法は、職場におけるセクハラ対策を雇用主に義務づけている。均等法が規定する「職場」には、取引先の事務所や顧客の自宅も含まれる。
声を上げられず我慢を強いられてきた状況にピリオドを打つためにも、業界全体で「セクハラは悪質な人権侵害だ」というメッセージを発信することが大切だ。利用者や家族への周知・啓発はもちろん、相談窓口の設置など体制づくりも不可欠である。
この問題を巡って、厚生労働省は実態調査を実施し、本年度中に事業者向けの対策マニュアルを作成することを決めた。
労組側は2人体制で訪問介護ができるよう国の補助などを要請しており、前向きに検討すべきである。介護保険制度の再構築も含め、実効性のある対策を求めたい。
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団塊の世代が全員75歳以上になる2025年度には、全国で約34万人の介護職員不足が生じると推計される。
一方、介護職員の離職率は、ここ数年16%台で推移し、他産業より高い状態が続く。セクハラなどの問題と定着率の悪さは無縁ではない。
余生はできるだけ住み慣れたわが家でと思い描いている人は多いが、医療や介護サービスが行き届かなければ自宅には居続けられない。
介護や看護といった尊い仕事へのやりがいを持続させるためにも、社会全体で問題に向き合い、現場で働く人の尊厳を全力で守る必要がある。