東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 筆洗 > 記事

ここから本文

【コラム】

筆洗

 ジャズ歌手のサラ・ボーンがある日、やはり歌手のエタ・ジェイムスにこんなことをこぼしたそうだ。一九六〇年代前半のことだろう。「あの娘の『スカイラーク』(ジャズスタンダード曲の一つ)を聞いたかい。ああ、あたしはもう、あの歌を歌わないよ」▼名ボーカリストの自信を失わせるほどの歌唱力に恵まれた「あの娘」。やがて「ソウルの女王」となる。グラミー賞十八回受賞。ヒットチャートの一位は二十曲を数える。米大統領自由勲章受章。輝かしい栄光とともに女王がこの世を後にした。アレサ・フランクリン。七十六歳▼その黒人音楽の一つのジャンルをなぜソウル(魂)と呼ぶのか定かではないが、圧倒的な歌唱力に加えて歌声に魂を込める卓越した能力が人々の心を高揚させ、慰めた。まさに女王だった▼父親は牧師でキング牧師とも親しい公民権運動の活動家。その影響だろう。差別を憎み、ヒット曲「リスペクト」は苦しい立場にあった当時の黒人や女性にリスペクト(敬意)を払いなさいという歌である▼「シンク」で歌ったのは、横暴な男性への女性の不満だった。その歌声と魂はいつも嘆き悲しむ側に寄りそった▼ビートルズの「レット・イット・ビー」。ポール・マッカートニーはこの人に歌ってほしいとこの曲を書いた。もしも、アレサなかりせば、あの名曲も生まれなかったかもしれない。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】