人材不足が叫ばれて久しい日本の労働市場。急激にニーズが高まっているAI技術者、データサイエンティストなどのIT人材はもちろんのこと、ITとは直接関係しない中堅・中小企業でも人手不足が深刻化しつつある。今後は労働人口の減少によって、人材不足、労働者不足は一段と進みそうだ。
こうした状況を、政府や各省庁もただ手をこまぬいて眺めているわけではない。経済産業省では「教育・人材育成」「労働移動」などの側面からさまざまな取り組みをはじめている。2018年通常国会で成立した、いわゆる「働き方改革関連法案」を担当する厚生労働省とも連携をとりながら、人材不足解消への道筋をつけようとしているところだ。
働き方改革に向け、経済産業省が進める「教育・人材育成」や「労働移動」とはどういうものなのか。また、今後企業や個人は「働くこと」に対してどう向き合っていく必要があるのか。同省大臣官房参事官 兼 産業人材政策室長の伊藤禎則氏に話を聞いた。
厚生労働省が担当する働き方改革関連法案では、裁量労働制の対象拡大に関する部分や、一定以上の年収の専門職を労働時間規制の対象外とするといった部分が議論の的になっていたのは記憶に新しい。性急に法整備すること自体の是非を問う声も挙がってはいるものの、場所や時間にとらわれない就業スタイルや、本業以外に兼業・副業をもつといった働き方の多様化が徐々に広がっていることも事実。早々に労働者に不利な従来の日本的ワークスタイルにメスを入れ、労働者を正しく支援するためにも、働き方改革において政策面からアプローチすることは必要不可欠と言えるだろう。
経済産業省において2015年から人材政策に関わってきた伊藤氏も、「日本で初めて労働時間にキャップ(上限)が設定される」として、働き方改革関連法案は「長時間労働の是正という点で、重要な一歩」と評価している。しかしその一方で、この法案は「労働時間を短くすることだけが目的ではない」と釘を刺す。「人口減少で労働人口が減り、そこで労働時間を減らすだけでは、国として成長するわけがない」からだ。
したがって同氏は、労働時間の是正と合わせて「生産性を高める必要がある」と説く。生産性向上には2つの方法があるとし、1つは労働者一人ひとりの生産性を高める「教育・人材育成」。もう1つは、生産性が低いところから高くなるところへ人材が移動する「労働の移動とその円滑化」だ。
「教育・人材育成」については、経済産業省の働きかけのもと、生涯にわたり学び直しと就労を繰り返す「リカレント教育」を推進している。
リカレント教育については、生産現場を改善する指導員の育成を目指す「スマートものづくり応援隊」事業や、社会において今後必要となる能力について考える「人生100年時代の社会人基礎力」シンポジウム、さらには社会人の基礎力育成のために活動する大学生を表彰する「社会人基礎力育成グランプリ」の開催など、すでに社会人を対象にしたいくつかの取り組みを始めている。そのほか、多様なリカレント教育プログラムが、政府による支援を受けつつ、民間企業によるビジネスとして提供される。
本来、こうした教育・人材育成は大学や企業がその役割を担っていたはず。ところが伊藤氏は、そのどちらも十分に機能していないと見ている。「大学がリカレント教育の担い手になっていない。社会人が大学に通っている比率も学生全体のうち2%と、他の先進諸国と比べて1桁少ない状況。また、日本の企業においては伝統的に人材育成はOJTだった。それはこれからも重要な教育手法だが、とりわけテクノロジ分野は進化が早く、これまでのように自社に閉じた形でスキルを継承するのは不可能になってきている」と指摘する。
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