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【書評】百年の女 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成 酒井順子 著◆権利・自由広げ 未来の選択は[評者]与那覇恵子(東洋英和女学院大教授)大正五(一九一六)年に「現代婦人の卑俗にして低級なる趣味を向上」させ、「穏健優雅なる実践的教養を鼓吹」する、という二大綱領を掲げて『婦人公論』は創刊された。本書は『婦人公論』の百年分を丹念に読み込み、日本女性の百年の歩みを照らし出した佳作である。誌上で展開される発言や論に対する酒井氏のコメントが秀逸だ。 女性の生と性、結婚、教育、職業など、綱領通りに女性の啓蒙(けいもう)を目指した雑誌だが、編集者も執筆者もほとんどが男性。女は男になぐってほしいという願望を持つ、男の世話をしたいと思っている、知能が劣る、といった現代ではパワハラやセクハラと見なされる「トンデモ」発言も。 しかし、著者は怒らない。前半世紀は、「男性側の忌憚(きたん)の無い感覚も披露」された「おじさんによる女権拡張雑誌」と喝破する。二十一世紀の現在も一部の男達(たち)の本音に繋(つな)がっていると、女性達へ注意を喚起する。 産め、働け、家にいろ、と時代によって期待される女性の役割にも注目。「産めよ育てよ国の為」という国策に忠実だった、戦時中の誌面。「日本はかつて、北朝鮮のような国だったのだなぁ…」という著者の感慨は、少子化を女性の晩婚化によるものと非難する最近の風潮を、やんわりとたしなめる。 さて雑誌の後半世紀は、初めて女性編集長が登場した一九五八年以降。戦後、女性は男性と同じ人間として同等の権利や自由を与えられたが、女性自らで勝ち得たものでなかった。誌面には多くの女性論者が登場し、その内実をめぐってバトルを繰り広げた。 ウーマン・リブやフェミニズムの思想は女性の意識に大きな変革をもたらしたが、権利が当たり前になり、枯渇感も無くなった。とくに最近の誌面には、男に「所有」される方が「楽」と、思考や選択を男に委ねる傾向も見られるという。それらの現象も含め「未来を生きる女性達の生き様」が収まっていると語る。 改めて想起される論点も多く、未来を生きる人々に読んでもらいたい一冊である。 (中央公論新社・2160円) 1966年生まれ。エッセイスト。著書『負け犬の遠吠え』『男尊女子』など。 ◆もう1冊水無田(みなした)気流著『無頼化した女たち』(亜紀書房)。日本女子の今を分析。
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