はじめ世界は混沌のみがあった…
日本の「国生み」の神話は古事記に記述があります。
高天原(たかまのはら)に住む神々は下界に国を作ることにして、イザナギノミコトとイザナミノミコトを派遣した。当時は大地はまだ水に浮いた油のように海水に漂っていた。二人は矛をさして海水をかき回し、矛を持ち上げて落ちた水滴が積もり重なり於能凝呂島(おのごろじま)という島ができあがった。
二人は島に降りたって、はじめに淡路島、つぎに四国、隠岐島、九州、壱岐島、対島、佐渡島をつぎつぎと生み、最後に本州を生んだ。
このような「創世記神話」「国づくり神話」は世界中の民族に存在します。
どのように違うのかそのあらましを比較していこう、というのが今回の記事の趣旨です。
1. アイヌの「天地開闢」
この物語は江戸時代の探検家・松浦武四郎が、1858年にタツコプ・コタン(現:夕張郡栗山町字円山)に住む83歳の老人から聞き取ったものです。
昔、この世界は無の世界であった。
ある時浮き油のような物ができ、それが炎のように燃えて浮き上がり、空となった。そして後に残ったカスが固まり、島(北海道)となった。
次に、モヤモヤとした気から一柱の神(カムイ)が生まれ、清く明るい空の気からも一柱の神が生まれた。
この二柱の神が「青い雲」を投げると海ができ、「黄色の雲」を投げると土ができ、「赤い雲」をまくと金銀などの宝物ができ、「白い雲」を投げると草木、鳥、獣、魚、虫ができた。
その後二柱の神は国を統率する多くの神々を産み、それぞれ火を作る神や土を司る神、水を司る神、金を司る神、後に人間を司ることになる神もいた。
二柱の神は次いで様々な動物たちを作っていき、さらに神の姿に似せた人間(アイヌ)を作った。神は神と人間の仲介役となる人祖神アイヌラックル(オキクルミ・オイナカムイ)を作り、沙流(サル)地方(現日高・平取町)に降りた。
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2. 中国の「天地開闢」
中国の天地開闢神話は、三国時代の「三五歴紀」や南北朝時代の「述異記」などの書物に書かれています。
昔々、天と地がまだ一つであった頃、宇宙はただ混沌としていた。この混沌の中で巨大な体を持つ神・盤古が生まれた。盤古はすくすく成長し、1万8,000年の時が経った。
ある日彼は目をさましたが、目の前は真っ暗で何も見えない。盤古は無性に腹立たしくなって、どこからか大きな斧を持ってきて、混沌に向かって思い切り振り下ろした。
すると混沌は切り裂かれ、中にあった軽く清らかなもの上に向かって天となった。また重く濁ったものは下に降りていって地になった。
盤古は頭で天をつき、足で地を踏みしめ、天地の真ん中に立った。すると天が一丈高くなるほどに地もまた一丈厚くなり、盤古の背丈も一丈伸びていった。このまままた1万8,000年の時が経った。
天は極度に高くなり、地もまた極度に厚みを増し、盤古の背丈も極度に伸びていった。こうして天と地の構造はだんだんと形となり、再び閉じる心配はなくなった。盤古はくたびれ果て、とうとう倒れた。
倒れた盤古の口から出る息は風と雲になり、左目は太陽となり、右目は月となった。
手足と体は大地の4極と5方の名山(泰山、衡山、嵩山、崋山、恒山)となり、血液は長江と黄河に、静脈は道に、筋肉は田畑の土、髪の毛は天の星になった。
全身の毛は草木になり、歯、骨、骨髄は金属や硬石、宝石になり、汗は清らかな甘露になった。
3. 朝鮮半島・済州島の「天地王ボンプリ」
Credit: 한국 신화를 찾아서, EBS
韓国の済州島には半島の主流文化とは異なる独自文化があり、済州島には中国や日本とにたような天地開闢の物語が伝わっています。
昔、世界には天も地もなく混沌のみがあった。
ある時、混沌の中に隙間が生じ、天地王ボンプリが生まれた。ボンプリは、天と地を互いに引き離そうと、隙間の四隅に銅柱を立てた。
当時、空には月が2つあり、日も2つあった。ボンプリは月を1つはがして北斗七星と南斗七星を作り、日を1つはがして大きな星といくつかの小さな星を作った。
ボンプリは地に降りて山の葛を切って布を織った。ところが、この時は火がなかったので、ボンプリは穀物を生で食べていた。
ボンプリはさすがに生はいけないと思い、火を手にいれるために、バッタに火の根本を尋ねた。バッタは「知らないよ。カエルなら知ってるんじゃない?」と答えたので、ボンプリはカエルを連れてきた。しかしカエルも「知らないよ。ネズミなら知ってるかもよ」と答えた。しょうがないのでボンプリはネズミに火の根元を尋ねた。ネズミは「知ってるけど、タダで教えるわけにはいけない。代わりに何くれる?」と答えた。ボンプリは「今後、米びつの中の米を自由に食えるようにしてやる」と答えた。
満足したネズミは「金井山(チェムジョンサン)に入り、片手に石英を持ち、片手に鉄を持ってとんとん打つと火が起こる」と答えた。ボンプリはそのようにして火を起こした。
その後ボンプリは金の皿と銀の皿を持って空に祈った。すると、金の皿には金の虫5匹、銀の皿には銀の虫の5匹が落ちた。その後虫が育って、金の虫は男になり、銀の虫は女性となった。彼らはそれぞれつがいとなって、世界の人々を生んだ。
4. モンゴルの「ラマ僧ウダン」伝説
モンゴル人の天地創造は、ラマ教の影響が強いものになっています。
遥か昔、ウダンという名のラマ僧がいた。ウダンはこの世の全てを作った。
彼が500歳の年齢に達した時、天国と地上、その他この世にある全てのものを作った。彼が1000歳の年齢に達した時、天国と地上を分けた。そして、9つの天界、9つの地上、9つの川を作り、粘土をこねて男と女を作った。ウダンはこの2人を結婚させ子を儲けさせ、人類を生み出した。
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5. ハワイの「クムリポ」
ハワイ王国の天地創造神話は18世紀に編纂されたもので、元々は王室のみに語り継がれていた口述の詩でしたが、最後の女王リリウオカラニが英訳したことで有名になりました。
第1話
天が回っていた時、大地はまだ熱かった
天が回り終えたとき、太陽の光が隠れわずかに発するのみで
冬のある晩、どろどろした大地が作られ
暗の中に夜が生み出された
第2話
クムリポは夜、男性で生まれた
ポエレは夜、女性で生まれた
サンゴの昆虫が生まれ、そこから穿孔されたサンゴが生まれた
地球の虫が生まれた、穴は虫でいっぱいになった
ヒトデが生まれた
リン(リン鉱石)が生まれた
イナ(海の卵?)が生まれた
ウニが生まれた
ホアエが生まれた、ワナクはその子孫になった
ハウケウケが生まれた、ウハルルアはその子孫になった
ピオエが生まれた、ピピ(牡蠣)はその子孫になった
パパウアが生まれた、オレープ(真珠)はその子孫になった
ナアウェルが生まれた、ウナウナ(カニ)はその子孫になった
マカイアウルが生まれた、オピヒはその子孫になった
レホが生まれた、プレホレホ(タカラガイ)はその子孫になった
ナカが生まれた、クペカラ(岩牡蠣)はその子孫になった
マカロアが生まれた、ププアワはその子孫になった
オレが生まれた、オレオレ(ホラガイ)はその子孫になった
ピピピが生まれた、クピ(カサガイ)はその子孫になった
(以下略)
いかにもハワイって感じで、潮の香りがしてくる神話ですごくいいですね。
全編ご覧になりたい方は、こちらをどうぞ(英語です)。
6. アボリジニーの「太陽の母」伝説
かつて、地球のすべての霊は眠っていた。
ある時偉大な全ての霊の父が目覚め、優しく太陽の母を目覚めさせた。太陽の母が目を開いたとき、暖かい光線が眠っている地球に広がった。すべての霊の父は太陽の母に言った。
「母よ、地球に行って、眠っている霊を目覚めさせてください」
太陽の母親は地球に赴き、あらゆる方向に歩き始め、彼女が歩いていたどこでも植物が育った。全ての霊の父が来て、太陽の母に洞窟に入り、霊を起こさせるように言った。
洞窟の中にいた全ての昆虫が目覚め、すべての氷が溶けて川になった。
その後、太陽の母は魚や小さなヘビ、トカゲ、カエルを作り、鳥や動物の精神を覚醒させた。全ての作業が終わると、太陽の母は空に上がって太陽になった。
最初のうち生き物たちは平和的に暮らしていたが、次第に慢心するようになり、互いに争うようになった。太陽の母は喧嘩を仲裁するために地上に降りてきて、生き物たちに彼らが望む形に変わる力を与えた。
そのため、一部のネズミはコウモリとなった。また、巨大なトカゲや青い舌と足がある魚、さらにはカモノハシのような醜い生き物が生まれた。
太陽の母は少し反省し、新しい生き物を創造しなければならないと考え、月と星を産んだ。月と星からは2人の子供が生まれ、地球に送られた。彼らが人間の祖先となった。
7. チェロキー族の創世神話
Credit: Boston Public Library
昔、地球は大きな海の上にある大きな一枚の岩だった。
岩は4本の硬い線状の岩によって空から釣り上げられており、いつも暗く、動物たちはどこに行ったらいいか分からなかった。
そこで動物たちは太陽を持ってきて上空に据えて、毎日西から東へ行くように軌道に乗せた。
神はすべての動物たちと植物たちに、7昼7晩起きておくように命じた。しかし大部分の動物たちと植物たちは我慢できずに途中で寝落ちした。しかし一部の動物たちは神の命令を守って起き続けたので、神は褒美に夜中でもよく見えるようにしてあげた。その動物が、フクロウとレオパード(豹)である。また、一部の植物たちも神の命令を守ったので、一年中葉が落ちないようにしてあげた。その植物が、松と月桂樹と杉である。
最後に人間が来た。当初人間は非常にたくさんの子どもを作ったので、人々は女性が1年に1人しか子どもを作らないように決めた。
8. ナバホ族の創世神話
かつて世界はずっと小さく、ススのように真っ暗だった。
4つの海の真ん中には霧の中に浮かぶ島があった。島には松の木が生えていた。
この島には世界の最初の生き物である12の生き物が住んでいた。すなはち、黒いアリ、赤いアリ、トンボ、黄色いカブトムシ、硬いカブトムシ、石のカブトムシ、黒いカブトムシ、白いカブトムシ、フンコロガシ、コウモリ、イナゴ、白いイナゴである。
島の周りにある4つの海にはそれぞれ主がいて、東の海は大きな海獣、南の海はオオアオサギ、西の海はカエル、北の海は冬の雷が支配していた。
各海の上には黒い雲、白い雲、青い雲、黄色い雲があり、黒い雲には女性の霊、白い雲には、男性の霊が含まれていた。黒い雲と白い雲が東に集まって、雲の風が吹いた。この風から、最初の男性(Áłtsé Hastiin)が生まれた。彼と共に白いトウモロコシも生まれた。
次に、青い雲と黄色い雲が西に集まって、雲の風が吹いた。この風から最初の女性(ÁttséAsdząą)が生まれた。彼女と共に黄色いトウモロコシも生まれた。
9. マヤの部族キチェー人の「ポポルヴフ」
Work by Lacambalam
はじめ、世界には空と海だけがあった。
水の中にいる蛇の神グクマッツと支配者テペウは、天の心フラカンと出くわした。3神は言葉を発し語り合った。ここに言葉が生まれた。話し合いの末に、神々は創造をすることにした。大地・山・谷・林を作っていった。
次に動物を作った。神々は、動物に自分たちを崇拝することを期待したが、ギャーギャーと騒ぐだけなので、神々は動物たちを見限って、新しく作る生命の糧とすることにした。
神々は2人の占い師、イシュピヤック(爺さん)・イシュムカネー(婆さん)にどうすれば人間が作れるか相談した。2人は木で作るが良いと言い、神々は木で人間を作った。
だが木人は神々を崇拝することなく、4つんばいで意味なく歩き回るのみだった。神々は絶望して洪水を起こして木人間を一掃した。それを生き延びた者たちは、樹脂の雨で体を折られ、神々に体を食われた。そればかりか、棒や石、食器などあらゆる道具に殴られた。木人間はコテンパンに叩きのめされたが、それでも一部は生きながらえた。それがサルである。
今度は、トウモロコシの粉を使って人間を作ってみた。すると、高い知性を持つ人間が出来上がった。この最初の4人は、すべてを知り、すべてを見ることができる完璧な存在。あせった神は、4人の前に霞をかけて目をくもらせて、近くのものしか見えないようにした。神はこの4人に女4人をあてがってやった。これらの人々が人類の、キチェー人の祖先となったのである。
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つなぎ
無やカオスがはじめにあり、突如として神や最初の生命が生まれるものもあれば、世界は既に存在していて、そこから秩序が作られて行ったものもあります。めっちゃ面白くないですか。
また、登場する動植物はその地域の自然を象徴していて、とても楽しいですね。
次回は、中東、ヨーロッパ、アフリカの創世記神話を紹介します。
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参考文献・サイト
"창세신화(創世神話)② ‘천지왕본풀이’편" DAESOONJINRIHOE
"The Kumulipo, Translated by Queen Liliuokalani [1897]"