洋邦問わず、話題作のリリースが相次いだ2018年上半期。邦楽に目を向けてみると、日本語のポップスの譜割りが断然おもしろくなっているように思えた。譜割りとは、リズムに対してどのようにメロディや歌詞をあてはめるかを指す言葉。アーティストの個性を発揮するポイントであり、時代のトレンドも示す譜割りの最新の動向を、いくつか例を挙げて検討してみたい。
まず挙げたいのは三浦大知だ。もともとは抜群の歌唱力を活かす伸びやかな節回しが多かったのが、先鋭的なダンスミュージックに接近した近作では休符の多い技巧的な譜割りが増えていた。『球体』(2018年)に至ってその試みはより顕著に。鋭い三連符がシンコペーションする「綴化」のサビは必聴だ。『球体』に続くシングル曲「By Myself」はその総決算とも言える。拍節の感覚を見失わせるような、複雑な譜割りを歌いこなす様は驚異的だ。
こうしたパーカッシブな休符を活かした譜割りは、EDM以降の日本語ポップスの新しい定型と言え、w-inds.の近作でも踏襲されている。
近年の宇多田ヒカルも興味深い変化を遂げている。2011年の活動休止前の彼女は、口語的で言葉数が多めの日本語詞を自在に操ってきた。復帰作『Fantôme』(2016年)では、「ともだち with 小袋成彬」のサビの16分でたたみかける譜割りや、KOHHをフィーチャーした「忘却」の、ビートに対してアクセントを前後させるアプローチなど、明らかな変化が見られた。
最新作『初恋』(2018年)では、四分三連の4拍子のうえに8ビートのリズムで言葉を乗せる「誓い」や、トラップ的な三連符の譜割りを取り入れた「Too Proud featuring Jevon」など、一層の先鋭化を見せる。
こうした変化は、ラッパーとのコラボレーションが示すように、今なお進化を続けている海外のヒップホップやR&Bの文脈に由来する。先述の楽曲をはじめ宇多田とのコラボレーションも多い小袋成彬『分離派の夏』(2018年)も同様の文脈から語ることができる。
小袋のボーカルは、曲の拍節感から浮遊したフロウに特徴を持つ。語りやラップに近づきつつ、思い切って余白をつくりだす譜割りは、肉体的なダイナミックさを持っている。
もうひとつ着目したいのは、cero『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年)だ。ポリリズムを緻密なアレンジと圧倒的な演奏で消化した同作は、中心を持たない複層的なリズムと調和するよう、慎重に配置されたボーカルを通じて、言葉と音楽の新しい関係を生み出している。
同作とあわせて興味深いのは、ラッパーのKID FRESINOが発表した「Coincidence」(2018年)だ。
16ビートから5連符の4拍子、そして3拍子とめまぐるしく変化するグルーヴ。その上でKID FRESINOが展開するフロウは、彼のMCとしてのスキルを誇示しつつ、ラップとは言葉によってグルーヴを解釈し、支配する手法であることを雄弁に語っている。
これらから連想するのは、彼らから先駆けること6年、2012年のDCPRG「マイクロフォン・タイソン feat. SIMI LAB」。4拍子と5拍子のクロスリズム(ひとつのリズムパターンが聴き方によって違う拍子として解釈できるもの)の上でSIMI LABの面々がラップする意欲作で、1990年代よりいちはやくポリリズムやアフロ的な訛りをダンスフロアに接続してきた菊地成孔の先見性が浮かび上がる。
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