特集 山本 寛

2018年6月15日、アニメ作品「Wake Up, Girls!」より派生した声優ユニット『Wake Up, Girls!』が2019年3月に解散されることが、突如公式サイトにて発表された。Twitter等のSNSでは一時トレンド入りをするなどファンへ大きな衝撃を与えた。

リリース文:http://cache.avex.jp/artist/wugportal/kokuchi06152.pdf

Wake Up , Girls!とは、『らき☆すた』『かんなぎ』『私の優しくない先輩(実写)』『フラクタル』を手がけた山本寛監督によって、2012年9月に企画が発表されたアイドルアニメ作品。2013年の7月に幕張メッセで開催された「WONDERFUL HOBBY LIFE FOR YOU!! 18」にて声優ユニット『Wake Up, Girls!』がお披露目され、2014年には劇場版・テレビアニメ放送が同時展開された。

また今回、解散が発表された声優ユニットWake Up , Girls!とは、吉岡茉祐、永野愛理、高木美佑、奥野香耶、青山吉能、田中美海、山下七海の7人で構成される女性声優ユニット。2012年、オーディションにて一般応募の中から選ばれ、劇場版、テレビアニメ等で声優としてキャラクターボイスを担当。また、Animelo Summer Live、ANIMAX MUSIXなどのライブイベントにも数多く出演し、人気を集めている。

© Green Leaves / Wake Up, Girls!製作委員会

第1回では、Wake Up Girlsの解散報道に対し、企画から、「映画:Wake Up, Girls! 七人のアイドル」「Wake Up, Girls! 青春の影」「TVアニメWake Up, Girls!」の原案・監督を務めた山本寛監督

そして山本寛氏が監督を務めるクラウドファンディング発のアニメーション「薄暮」を制作しているアニメスタジオTwilight Studio inc.にて代表取締役、同作品にてプロデューサーを務める和田浩司氏に直撃インタビュー。

全3回10000字を超えるロングインタビューでは、Wake Up, Girls!について、そして山本監督・和田エグゼクティブプロデューサーから見た、日本のアニメ業界についてお届けいたします。

Wake Up, Girls!とは。作品とは。キャスト・クリエイターとは。アニメとは。

今ここで伝えておきたいこと、とは。

特集 山本寛

第1回「君たち7人は、どう思っているのか。」

解散報道について

  • 単刀直入に伺います。今回のWake Up, Girls!(以下、WUG!)の解散報道をどういう思いでご覧になっていらっしゃったのでしょうか。

山本寛(以下、山本):実は、報道前には話自体は知っていたんですよ。でも丁度、数日間の静養を取ろうとしていた際に製作委員会の方から直接ではなく弁護士を通じて「30分後に発表する」と僕のもとへ連絡がありました。正直、その時に怒りはありましたが、もう呆れに呆れ、「もう好きにせぇや」という感じでしたね。怒りがあったのは確かですが、ほとんどが“呆れ“です。自分の作品を奪われただけでなく、壊された。そこまでしたいなら壊せば?と。

  • その報告の中に、詳細な情報はあったのでしょうか。

山本:全くないですよ。解散のリリースが出ます、ということのみです。非常に非常識な対応だと思います。ただ、公式ホームページ等のプレスリリースには、彼女たちの解散理由が書かれていますが、今回のWUG!の解散について、かなりの確率で“彼女らキャスト・声優陣がWUG!をもう辞めたがっているのではないか”というのが僕の見解です。

それに対して僕は“人情論”でいうのであれば、「そんなに辞めたいなら辞めればええがな」というのが今の思いです。解散することになって、僕への相談も一切ないですし、弁護士を通じて、“報告”として連絡があっただけですから。

山本寛にとって、Wake Up, Girls!とは。

 

山本:通常、僕ら監督にとって原作作品を扱う場合、作品を“預かる“という心持ちで制作をします。原作者にとって作品は子供、という表現はよくありますが、アニメの制作陣は、”他人の子供”である作品を預かって、制作を行っていく。これが普通なんです。だから作品を丁寧に扱わなければならないのは当然のことです。作品を虐待したり死なせることはあってはいけない。

しかし、オリジナルとなると違う。産みの親と作品の関係、親子の関係というのは、基本は身内だけの話。周りが事を荒立てて、ましてや関係のない赤の他人がずかずかと介入すべきことではないと思っています。今回のことに重ねるならば、僕の作品が奪われて、その上殺されかけようとしている。それをどうこう言われたくない。俺ら家庭の話だからほっといてくれという話なのですが、どうもおかしい。ネットでは「彼女たちの好きにさせてやれ!」とか言われて、もう、アホかと。

『Wake Up,Girls !』という“作品”は僕の作品です。その事実は変わらない。もちろん7人のキャストは所詮他人ですし、彼女らを預かっているという意識は僕の中でありました。しかしながら、作品の中枢を担った以上考えることはあるだろうと。

だから、この記事を通して伝えたいのは、「君らの本心はどうなんだ。」ということです。

「君たち7人は、本心としてどう思っているのか。」

 

山本:最後までやり遂げて終えたかったんじゃないのか。然るべき時はここなのか?これが君たちが望んでた形なのか?と問いたい。君達はどこを目指してたんだ?と。

僕が制作に関わっていたときも「WUG!を紅白に出したい。」と、ちゃんと口にしている。他にも成し遂げたいことはたくさんあった。そういう思いを聞いてきた自分たちは、結局どこを目指していたんだ。

“好きにすればいい”と言いましたが、あくまで人情論です。仁義の上では、黙って看過するわけにはいかない。彼女らはあくまでプロなのです。

プロとしての終わらせ方、社会人としてけじめの付け方を見せる必要があるんじゃない?終わらせ方はちゃんと考えないといけないんじゃない?

というメッセージは、ここでしっかりと伝えておきたい。

  • ファンの方々へのケジメといった部分でしょうか。

山本:そうですね。もちろんファンに対するけじめでもあり、業界に対するけじめです。社会全体に対するけじめのつけかた。何度も言いますが、彼女たちは社会人であり、プロです。自分の頭で考え、自分の言葉で説明をしろ、と。

もちろん7人“だけ”が悪い、と責めているのではありません。主として、周りを取り巻くどうしようもないダメな大人たちがこういう事態を招いた。

彼女たちも、そんなダメな大人や側近のマネージャーに「山本はとんでもない酷い奴だ」と吹き込まれたら、信じるでしょう。自分の頭で考えれば、「本当はどっちがおかしいか」なんてすぐにわかることですけど、仕方ないですよね。

そういったこともあり、“辛矢凡“名義の歌は差し止める、という行動に出ました。

監督は降ろします、WUG!は解散します、作品は壊します。でも僕の楽曲は使い続けます。というのは筋が流石に通りませんからね。

※辛矢凡(からやぼん):山本寛監督の作詞クレジット。WUG!においては、劇場版『Wake Up, Girls! 七人のアイドル』主題歌「タチアガレ!」(Wake Up, Girls!)、1stシングルであるテレビアニメ『Wake Up, Girls!』オープニングテーマ「7 Girls War」(Wake Up, Girls!)、続・劇場版前篇『Wake Up, Girls! 青春の影』主題歌3rdシングル「少女交響曲」(Wake Up, Girls!)、続・劇場版後篇『Wake Up, Girls! Beyond the Bottom』主題「Beyond the Bottom」(Wake Up, Girls!)などの作詞を手がけている。

  • 山本監督はWake Up, Girls!シリーズの監督を降板され、制作から退かれています。降板後に放送されたTVアニメ「Wake Up, Girls!新章」については、どうご覧になっていたのでしょうか。

山本:全部は見ていません。憎しみとか悲しみとか以前に「単にクソアニメじゃん」という感想しか出てこなかったですから(笑)。

和田:僕も後半は見てないですね。「楽しんで見てみよう!」と思ったんですけど、どうも無理でした。

 

Wake Up, Girls!を世に送り出した瞬間。
https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1374997745
  • Wake Up, Girls!は、2013年の「WONDERFUL HOBBY LIFE FOR YOU!! 18」にて、初めてお披露目されました。改めて、監督は当時どのような気持ちでステージをご覧になっていたのでしょうか。

山本:これは今でも覚えているのですが、珍しく僕が緊張したんですよ。7人がどう見られるのか。本当に緊張したんですよ(笑)。やっぱり初めて彼女らをステージに送り出した時は身震いしましたね。はっきりと覚えています。

「おお・・・ついに彼女たちが動き出した。作品が始まった。」と。

僕はモニター越しに、彼女たちがステージに立っている姿を見て、このライブがどうであったかというよりも、“始まった”という事実に不安で、動揺したんですね。

一方で、「さて、これからどうなっていくんだろう」という期待もありました。

やはり、7人の素人を集めて作品を作っていくというのは僕にとっても初めての試みですし、アイドルプロデュースには、僕もかなりこだわっていたので、すごくワクワクしていました。

  • その後監督は、キャストである7人声優に対し、どのような考えをもとに向き合っていたのでしょうか。

最近では、あまりにも声優さんが神格化されていますが、アニメを作る側としてはプロジェクトの中の一員でしかないわけです。

さらにアイドルの世界では、神格化によるキャストの勘違いというのは、往往にして起こりうる。だからこそ、アイドルのマネジメントは丁寧にきっちりと行わなければならない、というのが僕の持論です。

そういう思いもあって、特に7人が成人してから私の心持ちも変わりましたよ。作品云々は別として、一人の社会人として、プロとして向き合わなければならない。

「なぜそんなに厳しく当たるんだ!」と言われても、「大人でしょ、社会人でしょ、プロでしょ?」としか言いようがない。それが当たり前なんです。厳しく指導をしなければいけない時は、どうしても訪れます。

甘やかしっぱなしというのは、後々大変な事態を巻き起こしますからね。非常に難しいところですが、それはやはりきちんと指導しておかなければならない。

君たちは、本当にアニメを愛しているのか

先ほど、「君たちにとってWake Up, Girls!とはなんだったのか」という意味合いを込めて「君たち7人は、本心としてどう思っているのか」と言いましたが、もう一つ、

「君たちは、本当にアニメを愛しているのか。」

と言いたい。これはキャストのみならず、アニメに関わるすべての人間に対して言えることです。「一人のキャストとして、声優として、アニメ作品に携わる以上それなりの思いが自分の中にあるのか」という疑問が、僕の中には一つ在ります。

何度も強調しますが、彼女らは大人ですし、『プロ』ですからね。

そこに対して自覚があるのか?というのは正直な思いとしてありますよ。

 

  • 監督はWUG!の解散後、実際に彼女たちにコンタクトを取られているのでしょうか。

山本:実は、解散報告を僕が受けた後、彼女らに個別にLINEで連絡をしました。

僕の中でもずっとモヤモヤしていたことですし、7人の本心を確かめるために、

「実際どうなんだ?これでいいのか?」と連絡しましたよ。でもユニット7人中、既読がついたのは2人ですよ(笑)。

むしろ、「うぉ!マジか!既読つくのかwww」

と見ていたのですが、その二人からも連絡は返って来てないですね(笑)

「うざい」と思われようが、一緒に作品を作り上げたスタッフとして、それはやはり確認しておきたかった。一人のプロとして現場に関わったのであれば、もちろん一人の社会人としても自分の言葉で説明して欲しかった。

でなければ、

君たちにとって声優という職業も、アニメ作品に出て、メディアに出て、ファンに一通りチヤホヤされれば、それがあなたたちにとってのゴールなんでしょ?

と思われても仕方がないですよね。

  • 制作陣を含むアニメに関わる人間に、プロとしての意識が足りないということでしょうか?

山本:やはり僕の監督降板においても、今回の解散においても、はっきりとしていることですが、今のアニメ業界には、ゲスで幼稚な人間が多すぎます。僕だってそんなに高尚なことは考えてないですけど、あまりに酷すぎる。だから、そこでみんなに聞きたいのは「アニメ好きなの?」ということです。ずっと訊いてますよ。アニメを道具と思っている連中が多すぎる。イヤイヤやってんなら辞めろよって。

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“アニメに中途半端に関わるならば、それは罪なのです。”             山本 寛

次回、第2回「アニメを愛する全ての“異常者”へ」近日公開。

山本寛が”アニメ”という表現とは。日本のアニメ業界の構造的問題点とは。

記事:Anium編集部

撮影:富重林太郎

デザイン:天野匠

山本寛:アニメーション監督。株式会社Twilight Studio取締役CCO。1974年生まれ。大阪府出身。京都大学文学部卒業後、京都アニメーションに入社。『らき☆すた』『かんなぎ』『私の優しくない先輩(実写)』『フラクタル』『Wake Up,Girls!』などを監督し、現在は、クラウドファンディング発のアニメとして新作『薄暮』制作中。

Twitter: https://twitter.com/yamacane_0901?lang=ja

LINE BLOG: http://lineblog.me/yamamotoyutaka/

和田浩司:株式会社つかさ製菓・株式会社Twilight Studio代表取締役。山本寛監督最新作「薄暮」においてプロジェクトプロデューサーを務める。現在、アニメクリエイターの制作環境改善、ICO(Initial Coin Offering)による資金調達等を積極的に取り入れクリエイターのサポートを行っている。‘

Twitter: https://twitter.com/misoman_jp

株式会社Twilight Studio:http://twilight-anime.jp/

「薄暮」:山本寛最新作。これまで同氏が手がけてきた「blossom」、「Wake Up, Girls!」シリーズに続く“東北3部作”の最後の作品。福島県いわき市を舞台とし、人生とは、恋とは。を描く長編アニメーション。クラウドファンディングCampfireにて目標額資金を調達し、現在2018年公開へ向け、制作中。

公式twitter: https://twitter.com/twilight_anime

campfire:https://camp-fire.jp/updates/view/56016#main

「薄暮」は原作小説無料WEB公開中。詳細は、上記リンクより。

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