仲村覚(日本沖縄政策研究フォーラム理事長)
米軍普天間基地(宜野湾市)の名護市辺野古移設阻止を最大の公約とし、「オール沖縄」「イデオロギーよりアイデンティティー」「保革を乗り越えて」をスローガンとして2014年の沖縄県知事選で当選した翁長雄志氏は、就任以降、新聞、テレビで連日報道され、圧倒的な存在感を放っていた。マスコミを介した翁長氏の姿は、沖縄県民の期待を一身に担うヒーローであり、応援しない人は沖縄県民ではないと言わんばかりの勢いだった。
しかし、現在の翁長氏に当時のような勢いは感じられない。その最大の理由は知事の支持母体「オール沖縄」が推薦した候補が県内の市長選で連敗しているからだ。今年1月に側近中の側近だった安慶田(あげだ)光男副知事が教員採用口利き疑惑で引責辞任したことももう一つの理由だろう。
では、「オール沖縄」はそのまま勢いを失い、来年1月の名護市長選、11月の県知事選でも自民党擁立候補が当選して、沖縄問題が収束していくのだろうか。一見すると、そのような期待感も漂っているが、手放しで喜べる状況にはない。沖縄の現状をつぶさに見ると、中国による沖縄工作が既に始まっているからだ。
沖縄県の翁長雄志知事(共同)
昨年12月28日、東京都内のホテルで沖縄県と中国・福建省が「経済交流促進に係る覚書」(MOU)を締結し、福建の自由貿易試験区での規制緩和や手続きの簡素化に向けた協議を進めることなど6項目の取り組みを約束した。締結式には翁長氏や中国の高燕商務次官のほかに、日本国際貿易促進協会(国貿促)の会長、河野洋平元衆院議長も出席した。沖縄県は、県産品や沖縄を中継した国産品の輸出拡大を図る絶好の機会とみている。
さて、辞任した安慶田氏の後任として副知事に就任したのが、沖縄国際大学元学長の経済学者で、県政策参与を務めていた富川盛武氏である。富川氏は、参与時代からさまざまな沖縄経済の発展構想を県のホームページで発信しており、その構想に期待を示す県民も少なくないだろう。
実は、富川氏が示しているプランは、沖縄県が福建省と締結した覚書と同じ路線にある。それが「福建-台湾-沖縄トライアングル経済圏」構想である。沖縄県の経済特区、福建省の自由貿易試験区、台湾の経済特区のトライアングルをつないだ経済圏を構築するものだ。それは、沖縄県産品のみならず、那覇空港をハブと位置付けて日本全国の特産品を福建省に送る「沖縄国際物流ハブ」構想だ。
確かに沖縄は「アジアの玄関口」として物流の中継点に好立地である、という発想は正しい。 しかし、少し立ち止まって考えていただきたい。経済的視点から、沖縄が「アジアの玄関口」であることは、軍事的に見れば「日本侵略の要所」「日本防衛の最前線」でもあるということだ。現に、昨年度の航空自衛隊のスクランブル発進は1168回(前年比295回)と過去最高であり、そのうち、中国機に対する発進が851回(前年比280回)で7割超を占めている。前年比から増加したのはほぼ中国機である。