アルシェの物語〜In the Beginning was the Word〜 作:Menschsein
<< 前の話 次の話 >>
<レイナース VS ラキュース and ティア・ティナ>
「
レイナースは、ラキュースへと向かって走りながら武技を使う。武技を用いて自らの反応速度を向上させ、帝国四騎士として所持している装備、
レイナースが選んだのは、短期決戦。アダマンタイト級冒険者三人を相手にして、長く戦って勝てると思うほど、レイナースの経験は浅くはない。そして、レイナースに短期決戦を決断させた要因の一つが、“蒼の薔薇”がスレイン法国の神官との戦闘途中であったということ。戦闘によって体力が消耗している間に、倒す。それも、相手を殺さないように。
「まったく。格上のアダマンタイトの相手をしながら、殺さないようにとは、モモン殿のなかなか要求が厳しいですわ」と、春の小鳥のさえずりのような独り言をレイナースは漏らし、槍を構える。
「槍よ。我が体の一部となりて、敵を貫き砕け。“
レイナースが武技を発動させると、穂先に冷気が帯び始める。冷気属性の追加ダメージを与える技だ。
「ティア、ティナ。距離を取って戦うわ!」とラキュースが叫ぶ。そして、彼女自身の後ろから、六本の黄金の剣が空中に浮く。そして、ゆっくりとその剣先はレイナースへと向けられる。彼女が装備している
ティアとティナの両手には、いつの間に取り出したのか、手裏剣。
「発射」というラキュースの掛け声と同時に、黄金の剣六本と、八個の手裏剣がレイナースへと向かって飛んでいく。
「やはり、近距離戦を嫌がりますか。ですが、詰めさせていただきます」と、レイナースは、全力でラキュースへと向かっていたのをやめ、両足のヒールを地面に突き刺し、急ブレーキを自らの体にかける。そして、槍を両手で思いっきり大地に突き刺した。
「豊穣の大地よ。堅き岩となりて我を守れ。
レイナースの前方の土が突如として隆起し、それが土壁を作り出す。そして、そこにラキュースや双子の忍者が放った剣や手裏剣は突き刺さっていく。レイナースは、耳で土壁にぶつかる音を数える。十二、十三、十四……。黄金の剣六本と手裏剣八本が全て土壁によって防がれた。耳では土壁の音を数えながら、両目では、モモンとアルシェの状況を観察する。
モモンが戦っている大女。彼女は明らかに戦士職。“蒼の薔薇”の前衛だ。そして、あの小さい子は、
双子の忍者は、“苦無”や“手裏剣”を投げてくることや軽装であることから、
それならば、“蒼の薔薇”のリーダー、ラキュースと名乗った女は……。アダマンタイトにまで上り詰めたチームであるなら、バランスの良いチームであると考えられる。つまり、消去法で彼女の職業を考えるなら、彼女は回復職である可能性が高い。それならば予想される彼女の職業は、森司祭か、神官などの類。信仰系
彼女は、これ見よがしに大剣を持っているが、おそらく彼女の本職は剣を使うことではない。
そして、遠距離攻撃をしてきた理由。考えられる要因は、体力を消耗しているか、それか後衛であり近距離戦を苦手としているか。そしてこの状況であれば、両者とも当てはまっている可能性もある。
接近戦に持ち込むという方針は間違ってはいない、そうレイナースは確信する。
再びモモンの方をレイナースは見る。モモンは防戦一方になっているが、前衛を抑えていてくれている。
アルシェは……。残念ながら
アルシェさんは、危ないですね。相手のチームで一番の実力者は、どうやらあの小さな子であったということですか。私の読み違えですね……。
このままでは、短期決戦どころか、本当に時間がありません。考えられる最速の手は、“蒼の薔薇”のリーダーの首元に槍を突きつけ、戦闘行動を停止させることなのですが……。双子の忍者が邪魔ですね。それには、三手、いえ、四手ほど足りませんね……。
頭の中でどのようにラキュースを人質に取るか、その手順を、考えていたレイナースの視野に、ふっと、草原に、尻餅をついたまま動かず人形のように固まっているスレイン法国の神官の姿が映る。
「もし。法国の神官さん。この戦闘を止めるために、お手伝いをしていただけませんか? あの忍者を何とか十秒ほど抑えていただけませんか? このままでは、あなたを含めて、全員やられてしまうかもしれません」
レイナースは、その神官のズボンが濡れていることは気付かない振りをする。
ニグンと名乗った男は、コクリとだけ頷く。そして、天使が現れる。そして、その天使がレイナースと双子の忍者に向かって突進していく。
それと同時に、レイナースは土壁の横から飛び出て、再び、ラキュースに向かって走り始めた。