液体ミルク解禁、一部企業に慎重姿勢-市販までに1-2年との声も

  • 新たな製造設備への投資や価格の高さなどが課題
  • 海外メーカーも日本市場への参入には消極的、異なる規格基準

乳児用液体ミルクの国内販売が解禁された。災害時の備えや女性の社会進出促進を意識して解禁した政府の意向とは裏腹に、国内乳業各社は販売開始を視野に入れるものの具体的な計画を示しておらず、一部には慎重な声もある。新たな設備投資が必要になるほか、価格が割高で利用は外出時などに限定されるため、減少する乳児用ミルク需要のてこ入れにはならないと予想されている。

ダノンの乳児用液体ミルク(2015年)

Photographer: Chris Ratcliffe/Bloomberg

  粉ミルクは沸騰させたお湯でミルクを溶かし、冷ます必要があるのに対し、液体ミルクは開封後そのまま飲ませられるのが魅力。外出時や移動中にお湯の入手方法を心配する必要がなく親の負担軽減につながる。安全な飲み水や哺乳瓶の確保が難しい災害時にも役立つ。これまで国内では液体ミルクの規格基準が定められておらず製造や販売がされていなかったが、厚生労働省が8日に基準を定めた改正省令を施行したことで今後は可能になった。

  しかし、国内各社がすぐに液体ミルクの販売を開始するわけではない。業界団体、日本乳業協会の難波和美広報部長は、安全性承認に向けた申請作業や工場の整備が必要なため、各社が製品の販売を開始するまでには最短で1-2年かかるとの見通しを示した。

  JPモルガン証券の角田律子アナリストは、政府は災害時の利便性を念頭において液体ミルクを解禁しており、「乳児用ミルクの総需要の増加に寄与するものではない」と指摘。世界の乳児用ミルク市場でも液体ミルクは全体の1割ほどに過ぎず、新たな設備投資が必要なためメーカーにとっては負担になると話した。しかし、各社は「社会的な貢献という意味で対応せざるを得ない」とみている。

異なる製造設備が必要

  明治ホールディングス傘下の明治江崎グリコは液体ミルクの発売には前向きだが、販売開始時期は未定としている。明治広報担当の亀井朋久氏によると、今後商品設計に取りかかり、それを踏まえて投資計画を練る考え。さらに厚労省や消費者庁の承認が必要なため、申請の準備も進める方針だ。江崎グリコ広報担当の青山花氏は、乳児が飲む製品のため通常の牛乳よりも細かい基準を満たす必要があり「異なる製造設備が必要」と述べた。

  森永乳業広報担当の渡辺光典氏によれば、同社の粉ミルクは100ミリリットル当たり約40円だが、海外での液体ミルクの価格は同200円弱から300円程度。製造ロットの少なさや物流費用を考えると、国内では同等かそれ以上の価格になるという。同社は「商品化に向けてさまざまな課題があり、引き続き検討が必要」との立場だ。

  また、国内で液体ミルクが消費者から支持を得られるか先行きは不透明だ。少子化に加えて母乳での育児を推奨する動きが広がっており、粉ミルクの需要は減少傾向。厚労省の調査によると、1990年に5782万キログラムだった国内の調製粉乳生産量は、2016年には2766万キログラムに半減している。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の角山智信アナリストも女性の社会進出促進につながり、災害時に利便性を発揮する液体ミルクの需要はあると予測するが、先行する海外でも大部分は粉ミルクが占めており市場規模はそれほど大きくないと語った。

積極的な輸出へ

  国内とは対照的に期待が高いのは輸出需要だ。自民党の勉強会「乳児用液体ミルクの普及を考える会」の自見英子事務局長は、乳製品は輸出の重点項目と位置付けられており、今後国内での製造・販売が始まれば液体ミルクもその対象になると述べた。

  乳幼児用粉ミルクの輸出は増加傾向にあり、財務省の貿易統計によると、17年の輸出額は約80億円と10年前の約5倍に増えた。明治は7月、東南アジアを中心に粉ミルク事業の拡大を図るため、約120億円を投じて埼玉工場に粉ミルク用の製造棟を新設することを発表した。20年9月ごろの生産開始を予定している。

  政府は原料の調達面でもメーカーを支援する方針。通常、粉ミルク原料の乳清(ホエイ)の輸入には、29.8%の関税とキログラム当たり425円の上乗せ額を支払う必要があるが、実際には安価に輸入品を確保するための関税割当制度により税率は10%まで引き下げられている。農林水産省によると、液体ミルク用ホエイの輸入もこの制度の対象とするよう今夏の税制改正要望で求める方針だ。

輸入には壁

  一方で製造・販売で先行している海外メーカーの製品の輸入には壁がある。自見氏によると、日本と欧米では添加物などの基準が異なるため、輸入するためには海外メーカーが日本の食品衛生法の規格基準に合った製品を製造することが必要になる。

  さらに、世界保健機関(WHO)が定める基準が日本でまだ法制化されていないことも海外メーカーにとって参入の課題となっている。WHOは母乳での育児を推奨しており、国際基準「WHOコード」で母乳代用品の宣伝やサンプルを配布したり、医療機関などを通じて製品を売り込んだりしないよう規定している。

  欧州を中心に約50カ国で液体ミルクを販売しているネスレは、日本には参入しない方針。ネスレ日本広報担当の細川得央氏によると、同社はグローバル企業としてWHOコードに沿って活動しており、同コードの制約を受けない日本企業との競合では不利になる。同氏は「参入は難しいと考えている」と話した。同社は94年から95年にかけて日本で粉ミルクを販売していたが、WHOコードが競争上の課題となり撤退している。

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