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【社説】

障害者の雇用 旗振り役の重大な不正

 あきれた不祥事だ。中央省庁が四十年以上にわたり雇用する障害者の数を水増ししていた。国は率先して障害者の働く場を広げることが責務のはずだ。旗振り役が逆に信頼を裏切ってどうする。

 障害者福祉に熱心な大分県杵築(きつき)市の永松悟市長からこんな話を聞いた。

 特別養護老人ホームで働く知的障害の職員は入居者から人気があるそうだ。入居者との散歩も食事介助も相手に合わせてゆっくりやるように指示すると決して手を引いて速く歩いたり、食事をせかしたりしない。職員が休むと入居者たちが心配するそうだ。

 人気の秘密に納得する。能力を見極め適切に仕事をマッチングすれば、持っている力を発揮する。要は雇用側の意識の問題だ。

 永松市長は「できないと思った先入観の損失がいかに大きいか、それに気付くべきだ」と語る。

 思いにうなずく。

 求められる雇用をせず数の水増しで偽装する行為は、国が障害者を足手まといな存在だと認識していると言っていることと同じだ。 言語道断である。

 障害者雇用促進法は、差別を禁止し障害者の就労を広げるため国や自治体、企業に一定割合以上の障害者の雇用を義務付けている。原則として身体障害者手帳などを持つ人が対象だ。

 法定雇用率を達成できない企業からは納付金を徴収する対応を求めるのに、手本となるべき省庁は厚生労働省に報告をするだけで実態把握が不十分だった。早急にそれを調べ公表すべきだ。

 働く障害者は年々増え、五十万人に迫る。企業の半数が法定の雇用率を達成している。今年四月から雇用率は引き上げられ精神障害者も対象に加えた。さらなる就労拡大に取り組む大事な時機だけに、企業や障害者の信頼を失うことは避けなければならない。

 省庁での雇用が進まない理由に拘束時間が長いことや国会対応など突発的な業務が多いことが指摘されている。それなら出産などでやめてしまうからと女性入学者を制限していた東京医科大の発想と同じだ。言い訳にならない。

 肝心なのは、誰でも能力を生かし働ける環境の整備だ。障害者以外にも家族の介護や闘病をしながら懸命に働く人がいる。増える高齢者も長く働き続けられるような職場が求められている。政府は「働き方改革」を掲げるが、言っていることとやっていることが違い過ぎないか。 

 

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