「投げ銭はなぜ複雑なのか?」いろんなサービスを比較してみた
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「投げ銭はなぜ複雑なのか?」いろんなサービスを比較してみた

2018-08-15 12:00
  • 10
先日ニコニコに投げ銭が導入されました。
実験放送というテストバージョン?的なものだという事もあり、他のサービスと比べるとまだ流行っているとは言いがたい状況のようで、twitterなどでの反応を見ている限り、必ずしも好評というわけではないようです。

ざっと検索してみる限り「クリ奨経由である」「還元率が非公開である」事に対して苦言が大半で
・他社は公開しているのに、ニコニコは還元率を公開しないなんてあり得ない!公開しろ!
・クリ奨を使うなんてあり得ない!直接投げられるようにしろ!
要望はだいたいこの2点に集約されているように思います。

確かに、他のサービスが「投げ銭」をやっているのに、後発であるニコニコがそれより劣化したサービスをわざわざ出すというのは不思議なことです。
「ニコニコ運営は無能だから」と言ってしまえばそうなのかもしれませんが、中には「他のサービスも同じようなものである」という意見も見かけたので、ちょっと色々と調べてみることにしました。

※素人調査なので間違ってたらごめん!コメントで「やさしく」指摘してね

確かに検索をすると、ニコニコ以外のサービスの還元率が出てきます。
代表的な所で「youtube7割、ふわっち5割、openrec5割」といった内容でしょうか?
ただ不思議なのは、ここでひっかかるのがいわゆるアフィブログやまとめ記事ばかりで、オフィシャルの情報、ソースがちっとも出てきません。

アフィブログを鵜呑みにすることほど信用出来ない事はありませんので、「何が事実で何が嘘なのか?」ということで、各サイトのヘルプを調べてみます。

Youtube live
Youtubeではコメントを装飾する「SuperChat」がいわゆる投げ銭とされています。
アフィブログではその還元率はなんと「7割」(と、言われています)

さて、Youtubeのヘルプを見てみましょう。


※画像はyoutubeヘルプのスクリーンショット

大事なのは真ん中の()内ですね。
要約すると「異なることがあります」という表現から「還元率は変わるよ」と読めます。
「7割」という固定料率ではない可能性が高いです。
他に記載もないので、詳細な計算ロジックは非公開のようですね。
むしろ「そのうえでいろいろ中抜きしますよ」という説明にさえ見えます。

ふわっち
ふわっちは、ニコニコと同じような方式でアイテムを購入すると、その売り上げが配信者に還元される仕組みを採用しています。
その還元率はなんと「5割」(と、言われています)
さて、ヘルプには・・・


※ふわっちヘルプより

「非公開」とのこと。
youtubeと比べても簡素な説明ですね。
たぶんいろいろ中抜きされるのでしょうけど、詳細は不明です。
ここまで情報がないと5割という還元率も少々眉唾ですね。

OPENREC
OPENRECもニコニコやふわっちを同じような「エールアイテム」を購入する仕組みです。
その還元率はなんと「5割」(と、言われています)
ここには他のサイトに比べて詳細なヘルプがありました。


※openrecヘルプより

要約すると「計算式は非公開」「そんなに大きく上下はしないけど色々な係数かけるよ(固定の還元率じゃないよ)」「プールしたお金を原資にして独自計算式で分配」と書いてあります。
やはり非公開なんですね。


いずれにせよ、全てのサイトが「還元率は非公開」としている事に驚きました。
ぜんぜんまとめブログと書いてある事が違います。

そもそも世の中に投げ銭の「還元率」を公式に開示しているライブ配信サービスはあるのでしょうか?
私が調べた限りでは、少なくとも主要国内サービスでは見つける事ができませんでした。
(あったら教えてください)

1個だけ海外サービスで見つける事ができました。
twitterが提供するperiscopeです。

periscope
periscopeではsuper heratというハートを送れる投げ銭を提供しています。
ヘルプにはこうあります。


※periscopeヘルプより

日本語でおk?
ということで、日本語のニュース記事を見つけたので、それも補足掲載。
https://jp.techcrunch.com/2017/06/23/20170621periscope-super-hearts/

なるほどなるほど。70%も支払われると!
一瞬「70%が配信者に支払われるならすげーじゃん!」となるんところなんですが、良く読むと「30%のアプリストア利用料と決済手数料が引かれた後に」とあります。

運営会社と配信者以外にもお金を支払わなければならない先があるという事です。
それがここで書かれている、税金(国)、決済手数料(クレカ会社)、アプリストア利用料(appleやgoogle)などなどです。

periscopeのヘルプにある料率に従って計算すると、最初にまずそういった第三者への支払いのため30%:70%で分けた後の70を、さらに70%:30%で配信者と運営で分配する計算式なので、みんなが言う「還元率」としては最終的に「49%」になりますね。
ふわっちやopenrecが5割と言われている状況から考えると、自然な値に見えます。
なんだ、5割じゃないか。

さて、この「アプリ手数料」などを中抜きするくだり、どこかで見ませんでしたでしょうか?
そう、Youtubeのsuperchatですね。

periscopeだけが特別に外部への支払率が高いということもないでそうから、どこのサービスもだいたい同じ程度の外部手数料がかかるものであると考えられます。
youtubeとsuperchatがそうなのであれば、ニコニコもふわっちもOPENRECもその支払いを避けることなんてできないでしょう。

仮にyoutubeが配信者に対して70%還元を本当に実現しているのだとすれば、youtubeの取り分は0以下です。
システムやサーバーをどうやって維持して行くのでしょう?
客寄せやキャンペーンで一時的に赤字覚悟でやることはあったとしても、継続的な還元率として設定すると考えるには不自然な値ですね。

とどのつまりyoutubeもperiscopeと同じくらいで、70:30をさらに70:30で分ける方式(つまり5割)が、70%の部分だけ切り出されて一人歩きした結果のようにも見えます。
結局どこも5割くらいなんじゃ・・・?

問題はもう一つ。
なぜperiscopeだけは料率を公開できたのでしょう?

他サイトと大きく状況が違う、とても大事なことがありました。


※periscopeヘルプより

日本、非対応なんですよね。

他国と比べてもこれだけtwitterが流行っていて配信市場が成熟している日本をわざわざ非対応にするビジネス的な理由がありません。
何か日本独自の理由とかのっぴきならない事情があるのでしょう。

これは奇しくもニコニコの新運営長である栗田さんが言っていました。
「日本では違法だから」でしょう。


※twitterより

さて、そうなってくると次に気になるのがここです。
まさか法律に「投げ銭の料率を公開したら逮捕」なんて書いてあるはずがないですから、「何が違法なのか?」です。

法律に詳しい人に話を聞きました。

<そもそも「投げ銭」そのものが違法

ファッ!?



詳しい話は資金決済法と銀行法という法律に書かれています。
すごく要約すると「総理大臣の許可を得てない業者が資金移動やったら逮捕な」ということです。

資金決済法概要
https://www.s-kessai.jp/businesses/law_b.html

資金移動ってなにか?というのは下記のページに詳しく書かれてます。

資金移動業とは
https://www.s-kessai.jp/businesses/funds_transfer_overview.html

注目すべき絵はこれですね。



左が視聴者、右が配信者、真ん中がyoutubeやニコニコ、ふわっち、OPENRECとしてみましょう。
どう見ても「投げ銭」です。本当にありがとうございました。



この辺りに関してはかつて、投げ銭サービス「osushi」がサービス公開後たった7時間で大炎上の末サービスを停止した事が記憶に新しいですね。
投げ銭って違法なんです。

まぁ「許可を得れば違法じゃないんだろ?」となるところなのですが、銀行法という不穏な単語が飛び出してきたように資金移動は銀行に準じた業務になるので、これの許可を得るには様々なハードルをクリアしなければならず、結構大変みたいです。

仮に資金移動業の許可を受けたとしても、資金移動業者は資産保全するための供託金を積む必要があったり、財務省と金融庁の監督下に入って厳しい検査、業務改善命令などが行われたりします。
さらにはサービス利用者に対して本人確認が必要など、様々な制限もあります。

かつてpaypalがこの問題で日本への進出を一時的にストップせざるを得なくなったというのは、この界隈に詳しい人からすると有名な出来事です。(その後paypalは時間をかけて許可を受け、現在は合法的にやってるようです)
世界的な送金サービスであるpaypalでさえそれだけ苦労しているのに、たかだかライブ配信サービスのおまけ機能がそんなことやってられるわけがないわけがないのです。

この資金移動登録業者は公開をされているのですが、事実、送金サービスのLINE PAYを提供しているLINE以外、ライブ配信サービスを生業としている企業で登録をしている企業は見当たりませんでした。

資金移動業者一覧
https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/shikin_idou.pdf

まぁ仮に登録できたとして、維持にすごいお金がかかりそうなので還元率が凄い悪くなったりしそうですよね。
そもそも投げ銭するのに本人確認がいるとか、匿名ネット文化とのマッチングが最悪なのでサービスとして成立しないでしょう。

さて、そうしてくると核心部分が見えてきます。
最後の疑問です。
「今投げ銭やってるサービスは全部犯罪なのか?」です。
ここから先は今まで集めた情報を繋ぎ合わせた推理となりますが、答えは「否」です。

BGMオン


みんなどうしているのかというと、「投げ銭」をやっていないのだと思います。たぶん。



そもそも「投げ銭」をするだけなら、コメントを装飾する機能だとか、どうみても邪魔なアイテムが画面に降ってくる仕組みとかいらないわけです。
その分余計な開発費もかかるし、サービス重くなるし、大して面白いわけでもないし、マイナスでしかないんですね。

じゃあ、なんでみんな余計な機能をつけているのか?
それこそが「投げ銭」が投げ銭じゃなくなる大事なポイントなのでしょう。

資金移動の絵を見てもらえればわかると思うんですが、視聴者から配信者に業者を通じて「資金が移動」するから資金移動なんですね。
つまり、「移動」しなきゃ良いんです。



視聴者がyoutubeやふわっち、openrecなどと個別に取引をする分には違法性はありません。
同じようにyoutubeやふわっち、openrecなどが、配信者と個別に取引をする分にも違法性はありません。
つまり、別々にわけて考えれば良いわけです。

・youtubeやふわっち、openrecから「アイテム」や「装飾」を購入する

視聴者はアイテムがふってきたり、コメントに色がついたりした事でサービスの提供を受け、その対価としてyoutubeやふわっち、openrecにお金を支払います。
ここでまず取引が完結します。
これであれば「ただの買い物」なのです。
(逆に、サービスの提供がなければ「買い物」のテイが取れませんから、コメントの装飾やアイテムは必須条件という事になります)

youtubeやふわっち、openrecは売り上げを「利益」として自分の財布の中にプールします。
openrecのヘルプにもそう書いてありましたね。

そしてプールしたお金を「原資」にして、今度は配信者と取引をします。
それが、各社のヘルプに書いてあった

・(非公開だけど)いろいろな計算式で計算された結果に応じてお金を支払う

ことです。

ここでポイントなのは、配信者に対しての支払いをするのはyoutubeやふわっち、openrecであって、視聴者じゃない事です。
この収益化サービスの事をyoutubeは「youtubeパートナープログラム」、openrecは「OPENREC Creators Program」なんて名前をわざわざ付けていたりするわけです。

おさらいします。
視聴者から配信者にお金が移動すると違法。
視聴者とyoutubeやふわっち、openrecが直接取引をしてお金を儲けるのは合法。
儲けたお金を使ってyoutubeやふわっち、openrecが配信者と直接取引をするのも合法。

パチンコ屋の三店方式も真っ青の屁理屈にしか見えませんが、ここが重要なわけですね。
バイトで稼いだ1000円でガチャを引いても、「バイト先からゲームへ資金が移動している」とは言いませんもんね。

ニコニコの場合はかねてよりニコニコが配信者に対して「奨励金」を支払うサービス「クリエイター奨励プログラム」を展開していたわけですから、この合法性を担保するにはここに組み込んでしまうのが一番手っ取り早いのでしょうね。

2つのサービスが独立しているという前提に立ち返れば、視聴者からの支払いに対する配信者への「還元率」なんてものが「そもそも存在しない」事が理解出来るでしょう。

強いて言うのであれば、視聴者から配信者への還元率は0%(すべてyoutubeやふわっち、openrecの財布に一度入る)!
youtubeやふわっち、openrecは、自分の財布の中からいくらかを配信者に支払うだけですから。

そんなものをうっかり「還元率は○%です!」なんて公開してしまったら、視聴者から配信者へ「資金が移動している」宣言をしていることになってしまい、とたんに違法サービスになってしまうのです。

それでも最終的には配信者はお金を手にします。
その結果、「受け取った金額」と「贈られたコメントや装飾の金額」を比べれば、その「比率」を知る事はできます。
これが、我々が認識をしていた「還元率」の正体です。
結果側からのみ推測できる、事実とは異なる虚構の存在といったところでしょうか。



【まとめ】
・どのサイトも還元率なんて公開してない(違法だから)
・合法的にやるためにクリ奨はうってつけのサービスで、他のサイトも似たようなサービスに乗せている
・いろいろなサービスの情報を合わせると、だいたい全てのサービスが4~5割くらいの実質還元率に収束しそうである(7割はかなり怪しい)

「還元率」や「投げ銭」というイメージはアフィブログやまとめサイトが勝手に作った嘘のイメージで、各サイトオフィシャルの情報ではないわけですね。

むしろまともに合法性と向き合っているニコニコが叩かれる側にまわっているのみると、ニコニコも苦労してんなぁという感想になりました。
まぁ、その肝心のクリ奨が使いにくいという話には100%同意で、運営への信頼感のなさは自業自得なので同情はできませんが・・・


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はじめまして、詳しい記事ありがとうございますー。
なかなかニコニコに投げ銭機能が導入されないので、もしかしたら・・・と思っていたのですが、やはり投げ銭は違法なのですねー。
規制緩和してほしいところです。
11時間前
×
>>1
はじめまして。コメントありがとうございます。

この辺りは、まだ明確な判例がないので「どこからが違法なのか」というのが明確にライン引きされていないため、各社の線引きに若干差があるというのも、複雑さに拍車をかける要因なのだと思います。
例えばふわっちでは、還元率こそ明記をしないものの、還元率のようなものを想像出来るイラストがサイトに置かれていたり、「高還元アイテム」といった還元性を示唆するキャンペーンをやったりしています。
法務部がどこまで正しくリスクを判断しているのかはわかりませんが、個人的にはこの辺りは相当「攻めている」印象を受けます。

この辺りは、ふわっちを展開するa.incとその親会社のjig.jpがいずれも非上場企業である事と、ytoutubeがgoogleで世界的企業、openrecを展開するCyberZがサイバーエージェントの100%子会社で実質的に東証一部上場の大企業、ニコニコもdwangoからのカドカワという大企業であるといった、社会的な責任の差異などによっても「冒険出来るか否か」というスタンスに差を生む結果になっているのではないかと推測しています。
11時間前
×
なかなかしっかりとした検証ですね。
素晴らしい。

結局貸金法というのは反社会的組織が資金洗浄に使えないように制定してあるものなので、
今のところは例えばヤクザが作ってるアカウントに投げ銭という形で資金移動してマネーロンダリングするようなことをニコニコが監視してるというところでしょう。
まあ予想される還元率から考えると資金移動の手数料高すぎるのでそういうところが実際に利用することは無さそうではありますが。

ほぼ還元率が100%で監視も無しとなると間違いなくその手の悪用が出ると予想できるので難しい話ではありますね。
8時間前
×
どこまで出来るのか・なぜ出来ないのか、をしっかり考察している良記事だと思いました。

こうした理由であれば、ニコニコや他の動画サイトは、資金移動業者と提携すればいいような気がします。
ニコニコの外で資金移動すれば違法性はないわけですし。
入口まではニコニコが案内して、決済は提携業者がやる形で。
動画ページに自分の口座番号や仮想通貨アドレスを載せるのと同じことなんだけど、
あからさま過ぎてやりにくいでしょうし。
クリ奨のように、あえて自社サービスで完結させてる理由はなんなのだろうと思います。
5時間前
×
すごくわかりやすかった(小並感)
4時間前
×
還元率を伸ばすためではないでしょうか?
他社のサービスを仲介するとなれば、そこにもコストが発生しますので
自社サービス内で完結させることによって
視聴者から配信者までにかかるコストを減らして
結果的に還元率向上に繋げているのではないか?と。

ド素人の勝手な予想なのでガバガバ理論かもしれません。
4時間前
×
twitchが入ってない
やり直し
3時間前
×
>>7
基本的には同じみたいですね。
ビッツを購入するサービスと、twitchから配信者への支払いです。

twitchの場合さらに複雑で、アフィリエイトプログラムに加入するか、限られた人気者のみが契約出来るパートナープログラムに入る必要があって、一般人が使えるのはアフィリエイトプログラムの方です。

アフィリエイトというのは、自身のサイトで広告主の商品やサービスを紹介することで、視聴者が商品を購入するなどの成果があがった場合に報酬(広告収入)を受け取ることができる仕組みですね。
twitchからの支払い名目は「アフィリエイト報酬」という事になり、ビッツが売れた分の広告報酬というカタチになるようで、他のサービスやり方よりさらに「投げ銭」から離れます。
海外サービスで所管する裁判所が違うからセーフなのか、広告報酬というテイでの記載だからセーフなのかはわかりませんが、「Cheeringを受け取ったアフィリエイトの方に1ビッツあたり1セントを還元する」という基準は記載されていますね。

セントというのがいかにもですが、この辺りは上記の通り、各社の法解釈の幅の範囲なのでしょうね。
まあ確かに、twitchを提供するamazonは元々通販サイトで、商品アフィリエイトの仕組みを有しているので「そこに乗せるのが手っ取り早い」という意味では、ニコニコとかと同じ意思決定の流れを感じます。
2時間前
×
はぇ~すっごいわかりやすい

中間業者を挟まないと 成り立たない
そういう意味で、パチンコやスロットと一緒だと思った
投げ銭が法の抜け穴だとすると、そのうち新しい法律ができるんじゃないでしょうか
1時間前
×
はーなるほどなー
最終的に実質的な還元率が推測でしか無いのは残念でしたが、お話自体はとてもおもしろかったです。
よく知らないけど、PixivFanBoxやらEntyやらのイラスト系支援サイトも似たような感じなんすかね

それにしてもみんなお金のお話大好きね!
18分前
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