弁護士の今泉義竜です。
厚労省が、働き方改革一括法の政令案、省令案、指針案について、パブリックコメントを募集しています。
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令案等に係る意見募集について
2018年8月21日が締め切りで、9月上旬に公布とのことで、意見を聞く気があるのか疑問ですが、少しでも労働者の待遇改善に役立つものになるよう、現場の声を上げていきましょう。
以下、厚労省が作成し公表した省令案等について〇として挙げ、それに対しての意見の案を→で記載します。
1 労働基準法施行規則等の一部改正
【36協定の関係】
〇労働者の過半数代表者は、使用者の意向によって選出されたものでないものとすること。
→使用者の意向が及んでいる場合は手続違反であり、同代表者によって締結された36協定には効力が認められないことを省令に明記するべきである。
〇使用者は、労働者の過半数を代表する者が事務を円滑に遂行できるよう必要な配慮を行わなければならない。
→「必要な配慮」の具体的中身について、社内施設や社内のイントラネット利用など、具体例を省令で列挙するべきである。
〇使用者は、健康及び福祉を確保するための措置の実施状況に関する記録を前号の有効期間中及び当該有効期間の満了後3年間保存しなければならないこと
→3年では短い。賃金等労働債権の時効も5年となるし、税法上帳簿類の保存期間は7年であることとの均衡をはかるべきである。
【使用者による5日間の有給休暇の付与義務の関係】
〇使用者は、新労基法39条7項(5日間の有給付与義務)により有給休暇を与えるにあたっては、指定する時季について労働者の意見を聞かなければならない。また、使用者はその労働者の意思を尊重するよう努めなければならない。
→それに加え、「不当に権利を制限しない」と省令で明示すべきである(参議院付帯決議14)。
【上限規制の適用除外の関係】
〇上限規制の適用除外となる「建設事業」とは、
①法別表第一第三号に掲げる事業(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業)、
②事業場の所属する企業の主たる事業が法別表第一第三号に掲げる事業である事業場における事業、
③工作物の建設の事業に関連する警備の事業(当該事業において労働者に交通誘導警備の業務を行わせる場合に限る)の三つとする。
→建設事業において過労死が多発している現状の実態に鑑みれば、適用除外の範囲は極力狭く考えるべき。①に加えて②までをも適用除外の対象とするのはふさわしくない。すなわち、②事業場の所属する企業の主たる事業が建設業であったとしても、企業組織内において実際の建設事業に直接携わらない別部門で働く労働者についてまで適用除外とすべき理由はないので省令から削除すべきである。また、③の交通誘導警備の業務まで建設事業に関連する事業として対象を広げるべきではなく、省令から削除すべきである。
〇上限規制の適用除外となる「自動車運転業務」とは、
①一般乗用旅客自動車運送事業(道路運送法第3条第1号ハに規定する一般乗用旅客自動車運送事業:一個の契約により乗車定員十人以下の自動車を貸し切って旅客を運送する一般旅客自動車運送事業)、
②貨物自動車運送事業(貨物自動車運送事業法第2条第1項の貨物自動車運送事業:一般貨物自動車運送事業、特定貨物自動車運送事業及び貨物軽自動車運送事業)、
③その他四輪以上の自動車の運転の業務の三つとする。
→自動車運転業務においても長時間労働に伴う過労による事故が多発している実態に鑑みれば、適用除外とする対象事業は極力限定すべきである。省令案の挙げる3項目のうち①②については法律の規定の通りであるものの、③の「その他四輪以上の自動車の運転の業務」という項目は何ら限定となっておらず、適用除外の範囲をほぼ無制限に広げるものであって妥当でないため、省令から削除すべきである。
2 労働安全衛生規則の一部改正
〇新安衛法66条の8第1項に基づき使用者が医師による面接指導をさせる義務を負うのは、休憩時間を除き1週間あたり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者とする。
→「疲労の蓄積が認められる者」という要件が曖昧であり、省令から削除すべきである。また、80時間は過労死ラインであり、医師による面接指導はもっと早い段階で義務付けるべきである。
〇新安衛法66条の8の2第1項(研究開発業務従事者)に基づき使用者が医師による面接指導をさせる義務を負うのは、休憩時間を除き1週間あたり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月あたり100時間を超えた者とする。
→100時間を超えないと面接指導の実施を義務付けないというのはあまりに緩い。もっと早い段階で医師による面接指導を義務付けるべきである。
※なお、今回のパブリックコメントは現在労政審で議論されている、上限規制や有給休暇に関わる省令等についてだけです。同一労働同一賃金は8月末から、高度プロフェッショナル制度は9月から、労政審で議論が始まります。そちらも注視していくことが必要です。
【参考資料】
・「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html