BTSの躍進を例に挙げるまでもなく、いまや名実ともに世界的なジャンルとなったK-POP。金成玟『K-POP 新感覚のメディア』(岩波新書)は、その歴史を、音楽性はもちろん、韓国内外の社会情勢やメディア環境の変化を追いながら紐解いた一冊だ。
本書の魅力は、議論の射程の広さだ。K-POPファンにとっても、あるいは音楽をはじめとするポップカルチャー一般を愛する人々にとっても、興味深いテーマが詰まっている。韓国大衆歌謡の成り立ちから始まり、BTS、TWICE、EXO、BLACKPINKといった最新のアクトまでを押さえた記述は見事。また、K-POPの形成と発展、そして受容を通じて、日米韓の複雑な関係性を浮かび上がらせた読み物としても面白い。
前述のとおり、本書ではさまざまなトピックが取り上げられている。ここでピックアップしたいのは、J-POPとK-POPの影響関係についてだ。
J-POPとK-POPは、音楽性から産業の構造まで、かたやガラパゴス、かたやグローバルとなにかと対比して語られがちだ。最近では、日韓共同の公開オーディション番組『PRODUCE 48』をめぐり、日韓のアイドル観の違いが大きな話題になった。どちらが優れているかという評価はともかく、K-POPとJ-POPはこんなに違う、という話になりがちなのだ。
しかし、本書を読むと、K-POPの誕生と発展には、日本という他者の存在が不可欠だったことがわかる。そうしたKとJの関係を知ったうえでこそ、差異に関する議論は深みを増す。
日本のミュージシャンは、韓国大衆歌謡に大きな影響を与えてきた。韓国では、第二次世界大戦後から1990年代に至るまで公式には日本の音楽の輸入が制限されていたが、それでもテレビやラジオ、海賊版などを通じて広く聞かれていた。本書では、K-POP前夜の韓国大衆歌謡の重要な参照源として、玉置浩二、坂本龍一、サザンオールスターズ、山下達郎といった1970年代から80年代のミュージシャンを挙げ、彼らが韓国のポップスに「日本的洗練」をもたらしたと指摘している(41頁)。しかし、1990年代以降、韓国のポップスはアメリカのヒップホップやR&Bの影響が色濃くなり(42頁)、現在のK-POPに通じるサウンドへと変化してゆく。
ただし、本書の上記の議論に加えるならば、ヒップホップの影響下でシンプルな形式化が進むアメリカの現行ポップスと比べ、K-POPはいまも“AメローBメローサビ”を基本としながらも複雑な楽曲構成をとる傾向にある。より過激に、1曲のなかに複数のジャンルが詰め込まれることも多い。この点は、本書で言及される1990年代のR&Bの影響に加えて、日本で1970~1980年代までに確立した歌謡曲~J-POP的な楽曲構成とも一致するし、音楽ジャーナリストの柴那典氏が著書『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)などで提唱する、昨今のJ-POPの「過圧縮」性にも通じる。韓国大衆歌謡に根づいていた「日本的洗練」の一端を、そこに見ることもできるだろう。
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