王の二つの身体   作:Menschsein
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Diligit anima mea 5

【REAL】

 

 死獣天朱雀の説明で、オフ会の雰囲気は一気に暗くなってしまった。箱舟計画(プラン・ノア)。肉体を捨てて、仮想世界へ移住する計画。

 

「政府の行っている実験は分かった。だが、その人類防衛軍ってのは何がしたいんだ?」

 

「それは簡単なことですよ、武人建御雷さん。実験の進行を妨げたいのでしょう。病院の件で明白です。魂が、まだアバターに定着しておらず、肉体と繋がっている状態であれば、肉体を破壊すれば、Geist(21gの魂)シンドロームの連鎖反応が起こり、仮想空間上の魂も消失する」

 

「それは分かるがよ、ぷにっと萌えの旦那。ただ、人類防衛軍の奴ら、YGGDRASILでも何かやったって犯行声明で言っていただろ? YGGDRASILの中で一体何をしたんだ? 事件が発生した後、プレイヤーが多数死亡。それに、アンダーグラウンドな情報だと、現在もプレイヤーが死亡しているって話だぜ」

 

「いくつか考えられますが、一つが、政府の実験を(おおやけ)にしたかったのではないでしょうか。サービス終了時に最後までログインしていた人が、全員意識不明になるというのは、秘密裏に実験を行うには目立ちすぎです。政府としては、サービスが終了し、プレイヤーが強制ログアウトされ、誰もいなくなった状態で、実験場を確保する。そして徐々に被験者をその仮想世界にログインさせていく。これが自然でしょう」

 

「そう考えると、味覚、嗅覚、触覚などが再現されるプログラムをサービス終了時前にユグドラシルのサーバーにアップロードしたのは、人類防衛軍の奴らってことになるな」

 

「それに加えて、ログアウト出来ないようにシステムを弄った」

 

 あれ? そういえば、最終日にログインしようとしたら……と彼女は思い出す。

 

「あの、私も最終日にモモンガさんの呼びかけに応えて、サービス終了時ギリギリにログインしようとしたら、『Now Uploading,Wait a minute……』とずっと出ててログインできなかったんですが……」と彼女は最終日のことを思い出す。そのせいで、ログインすることが間に合わず、モモンガさんに会えなかった。

 

「そいつは変ですね。コンソール側は端末なので、ダウンロード(download)と表示される筈です。コンソール側からサーバーへアップロード(upload)することは無いと思いますが……。見間違いでは?」

 

「いえ……。時間がギリギリで焦ってましたけど……まだ、アップロードしてるの! って何度もイライラした記憶がありますから……。いま、冷静に考えるとアップロードは変ですよね……」

 

 通常は、パッチをコンソール側がダウンロードして、そのパッチを開いてアップデートする。コンソール側からサーバーへアップロードすることなど、サーバーのウイルス対策などの面から、あまり想定されないことだ。

 

「ユグドラシルのサーバーに、何処からかデーターが送信されていたということでしょう。そして、味覚、嗅覚、触覚などが再現されるプログラムが送信されていたと考えるのが状況的に自然ですね」

 

「それ以外にも人類防衛軍の奴ら、何かやっていますね。プレイヤーの死亡数が多すぎる」

 

「プレイヤーは、ログアウト不可能になったから、自分で死んでみたんじゃないのか?」

 

「それを試そうとしたプレイヤーも多いでしょう。しかし、問題は『HOW』です。自分で死んでみようと思って、攻撃を受ける。しかし、それ相応の『痛み』がある。五感が再現されている世界ですからね。痛みが存在する、そうなれば……本能的に躊躇うのが普通ですよ。大抵のプレイヤーは、何かが変だと途中で気付くはずです。それにも拘らず、死者数が膨大な数になっている……」

 

「ゲームの中で、誰かがプレイヤーを殺している?」

 

「おそらくは……。ログアウトできないという混乱状況で襲われた、それが最初に死亡者が膨大になった理由と考えるべきでしょう。そして、今もプレイヤーの死亡があるということは、何者かが襲っているということでしょう」

 

「モモンガさん、大丈夫かな? ソロだとモモンガさん、あんまり強くなかったよね……」とやまいこが呟く。かつて行ったギルド内の最強決定トーナメントでは、「女教師怒りの鉄拳」でボコるだけで勝ててしまった。「女教師怒りの鉄拳」の追加効果、吹き飛ばしによって、モモンガさんの唱詠中の魔法を全て強制キャンセル。魔法無詠唱化(サイレントマジック)で無唱詠化している魔法も、発動までのタイムラグ中に殴ってしまえば発動できない。後は、円形闘技場の壁際にまで押し込んで、非破壊対象の壁に当たって跳ね返ってきたモモンガさんのアバタ―を、スカッシュのボールの如くひたすら鉄拳で殴って体力を削るだけで勝ててしまった。

 

「プレイヤーの中では、上の下。いえ……中の上でしょうね。一対一の状況で、モモンガさんに事前準備の時間があれば、『誰でも楽々PK術』でモモンガさんの勝算は高いでしょうが……。モモンガさん、覚えていてくれているかな」

 

 『誰でも楽々PK術』。ぷにっと萌えが考案し、それをモモンガに伝授したのは随分と昔のことである。敵の探知阻害の無効化から始まり、数十種類の魔法を用いる。手順も複雑だ。考案した自分自身でも、正しく実行できるか今や自信が無い。

 

「モモンガさんを助ける手段……何か無いでしょうか? 私は、モモンガさんに死んでほしくありません」と彼女は言う。

 

「前門の虎、後門の狼。箱舟計画(プラン・ノア)の実験を進行させたい政府は、眠っているプレイヤーを目覚めさせるという選択肢は取らないでしょうね。そして、実験を中断させたい人類防衛軍は、仮想現実でプレイヤーを殺そうとし、現実の肉体も狙ってきている。現状維持という選択は、遅かれ早かれ死ぬということと同義ですね」と、タブラ・スマラグディナが残酷ともいうべ事実を言う。

 

「あの、まだ何とも言えませんが、ぶくぶく茶釜さんのデータロガーをお借りできませんか? 残っているデータを解析したいです」とヘロヘロが呟く。

 

「えっと……」と彼女は一瞬ためらう。

 ヘルメット型のデータロガーには、一か月間の彼女の仮想現実での行動が赤裸々に記録されている。ユグドラシルの最終日以来、使っていないので、ユグドラシルのデータは自動消去されずに残っているはずだ。もしかしたら、むらっとして眠れない夜に遊んだ成人女性向けのゲームデータまで残っている可能性もあるが……相手をしてくれるアバタ―。割と精巧に誰かさんに似せて作ったし……いや、恥ずかしがっている場合じゃない。「良いですよ」と彼女は決断する。

 

「ありがとうございます。『Now Uploading』という表示が出ていたということは、もしかしたらどんなプログラムが流されたのかロガーに残っている可能性があると思いまして……。会社の設備で解析してみます。どうせ、この不景気で、突然のホワイト企業化で、時間はありますし」とヘロヘロが言う。

 ヘロヘロは、ナザリックのNPCのAI(人工知能)を担当したメンバーの一人だ。仕事の関連でも、プログラムに関してはかなり専門性が高い。アインズ・ウール・ゴウンのメンバー随一だろう。

 

「じゃあ、私、今から取りに戻ります! ヘロヘロさん、待っていてください!」と彼女は、居酒屋から飛び出した。




第1章「Upload the WORLD」の第1話で、『Now Uploading,Wait a minute……』は『Now downloading』では? という誤字報告してくださった方、申し訳ないです。
 本編始まり一行目から伏線ってどうなんだと自分でも思いますが、まぁ、そういう感じですので、誤字の適用を見送りさせていただきました。
 長い間、誤字報告を無視する形となっていて申し訳ないです。







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