完全なる対抗意識。言いがかりにもほどがある。しかしわたしは止めません。
映画館から出て、わたしは敗北感しか覚えませんでした……。
ええ、なんの話かって、現在話題沸騰中の『カメラを止めるな!』の話ですよ。ねえ見ましたか? わたしは見てきましたよ! もんのすごくおもしろかったですよまったくもう! 前評判があまりに良いので「みんなハードル上げ過ぎでは……」と思ってたんですが、ただの杞憂に終わりましたね。高すぎる期待値もなんのその。あんなに観客が笑ってる映画館初めて体験しましたわ。
しかし。しかしですよ。
わたしは映画を見てる間中、ずっと「ああ……勝てない……」という敗北感を覚えていました。
それは、「映画」という媒体に対する敗北感。
どういうことかというと、映画ってみんなでつくるんですよね。大勢の他人がいて初めて成り立つものであり、「みんな」でつくりあげる芸術なんですよ。
で、わたしはどうしても自分が「小説」サイドの人間であるという意識があって、つまりは究極的に「個人作業大好き!」な人間なわけです。
いやもちろんたとえば小説をつくることだって編集者さんやら本屋さんやらとの協力作業なので、個人作業とは一概に言えないんですが。それでもやっぱり本を読むとき、わたしはひとりの「作家」と対峙しているように感じるんです。
さらに映画って「みんな」で見るものなんですよね。今回、映画館で見ましたからね。
しかし小説といったら書くときもひとりであれば、読むときもひとり……。人と同じスピードで読むことはできないし、ば文章からイメージする映像はひとりひとりちがうわけで、小説を読むのはどうしても「ひとり」の作業なんですね。
というわけで、いつも小説を読んでる人間からしたら、映画というのはあまりにも「みんな」のもの過ぎる。みんなでつくり上げ、みんなで笑って見て、みんなで感動を共有するなんて……な、なんて楽しいものなんだ。
ふだん小説などという陰気な媒体に触れているわたし、ものすごく敗北感……。
あれですね、昔、大学で演劇やバンドをやっている友達の「仲良さそう感」を見たときの敗北感に似ていますね。リア充への憧れみたいなもんですかね。
しかし敗北してばかりもいられない。こちとら小説大好き人間なのです。
ここはひとつ、「この小説なら勝てるのでは!? 『カメラを止めるな!』対抗打線」を勝手にわたしの好きな小説で組んでみました。
か、完全なる対抗意識。言いがかりにもほどがある。しかしわたしは止めません。『カメラを止めるな!』ファンのみなさま、ごめんなさーい!
①笑いには笑いで対抗
『銀河ヒッチハイクガイド』ダグラス・アダムス著、安原和見訳
(河出書房新社)
天下無敵の「笑えるSFコメディ小説」こと、銀河ヒッチハイクガイド・シリーズ。『カメラを止めるな!』で大笑いしたあなたもきっと満足するであろう、イギリス発祥ブラックジョーク上等SF小説。すこしひねった笑いやイギリス文化特有のギャグもありますが、それもまた一興。地球が消滅したら、あなたも宇宙へヒッチハイクしに行きませんか? 映画も大変おもしろいです。ズーイー・デシャネルと欝ロボットがかわいい。
『日本文学盛衰史』高橋源一郎
(講談社)
『カメラを止めるな!』って、話自体が往年の「映画」文化へのパロディが入っている(ようにわたしには見える)のが楽しいですよね。というわけで文学パロディ文学で対抗です。こちらは明治の文豪たちが90年代の日本にいたら……という設定で綴られた小説。夏目漱石がたまごっちを欲しがるとか、石川啄木が女子高生と援助交際とか、田山花袋が自分の私小説である『蒲団』をAV映画として監督してしまう(ちなみにタイトルは『蒲団’98・女子大生の生本番』)とか、文学史と90年代カルチャーが高橋源一郎の手によって蘇ります。最近舞台化されたらしい、見たかった……。
③ゾンビにはゾンビで対抗
『高慢と偏見とゾンビ』ジェイン・オースティン、セス・グレアム=スミス著、安原和見訳
(二見書房)
『カメラを止めるな!』といえばアレですね、ゾンビですね。というわけでわたしの好きなゾンビ小説をば。英文学の古典小説『高慢と偏見』をパロディにして、まさかのゾンビものにつくりかえた本書。元ネタを知ってるとより笑えます。戦士エリザベスがゾンビと戦うんですが、なぜか「ニンジャ」や「少林寺拳法」が登場する謎。「わたし、仏陀の悟りの境地!」みたいなことをイギリス貴族が言い出す。日本の読者も真っ青なゾンビ・B級はちゃめちゃパロディっぷりをお楽しみください。
④わちゃわちゃにはわちゃわちゃで対抗
『四畳半神話大系』森見登美彦
(角川書店)
『カメラを止めるな!』のいいところって、やっぱりあの「わちゃわちゃ感」ではないかと。群像劇なんだけど、全然それが嫌味でなく、「仲良さそうこの俳優さんたち」ってすごく思うんですね。たのしそ~~って観客も思う。小説で「わちゃわちゃ感」があるものってなかなかないんですが、これはどうだっ、『四畳半神話大系』!! 森見登美彦特有の「みんなまとめて集合!」だとわちゃわちゃと言えるのでは。アニメにもなりましたが大変素敵でした。
⑤最高のエンタメには最高のエンタメで対抗
『ドミノ』恩田陸
(角川書店)
ち、ちくしょう、今気づいたんですが、今まで紹介してきた小説全て映像か舞台になってて悔しい。メディアミックスの波に抗えない小説界。というわけで今度は純粋に「小説」! わたしが『カメラを止めるな!』を見ながら思い出したのが、この『ドミノ』という小説でした。偶然集まったような人間たちの思惑、いつのまにか繰り広げられる物語、爽快な伏線回収、なによりもその「勢い」。小説から「勢い」を滲み出すのに成功した『ドミノ』はほんとうにすごい。めちゃくちゃおもしろいのでみんな読んでほしい。視点を操ること、勢いを出すこと、そして何よりも走り続けること。『カメラを止めるな!』を見ても『ドミノ』を読んでも思いますが——こういう物語が、わたしも大好きです。
さて、大ヒット映画にすこしは対抗できたでしょうか……むしろ『カメラを止めるな!』のいいところを述べていくような話になってしまった。いい映画なんだからしょうがない。これだからおもしろい映画はっ。
まだ見に行ってない方がいたらぜひこのブームに乗ってくださいっ! せっかく今ならみんなで映画館で見られるんだから~!! いいなほんとに~~~!!!!!!