前田敦子を〝恋多き〟と書く気持ち悪さ

勝地涼との結婚を発表した前田敦子。発表以降、メディアでは「恋多き女」とか、「玉の輿婚の裏側」とか、「元AKBの勝ち組」、はては「産婦人科で目撃談」のような、今年で平成が終わるとは思えないような記事が続出しました。アイドルグループ出身者が書かれがちなこの「気持ち悪い」記事問題は、なぜ起きてしまうのでしょうか。

「本人に自覚が出てきて、足が細くなっていく」

秋元康が、オーディションには自信のある子たちが大勢くるけれど、実際に残るのは「『ちょっと足は太いけど、この子の目はすごいよね』とかっていう特徴がある」子で、そういう子が撮影を重ねていく中で「不思議なことに本人に自覚が出てきて、足が細くなっていく」(秋元康×田原総一朗『AKB48の戦略!』)と述べていたのを読み直すと、ひとまず「気持ち悪い」という言葉が出てくる。

あるいは、メンバーにスキャンダルがあっても、「本人が乗り越えようとするか逃げようとするか」で変わってくる、最初に解雇した子には「けじめとして解雇するけど、とにかく戻ってきなさい」と言ったんです、と寛大な自分をアピールするのだが、そのスキャンダルが何かといえば「昔のボーイフレンドと撮ったプリクラ写真が出ちゃった」こと。「いまにして思えば、大したスキャンダルではないですけど」としているが、そんなものは、そもそもスキャンダルではない。スキャンダル化して、制裁を加え、それでも戻ってこい、と寛大になる。足で蹴飛ばした人が、次の瞬間に、戻ってきなさいと優しく手を差し出すドメスティックなバイオレンスに、私たちはすっかり慣れてしまった。

恋愛禁止は人権侵害である。もうこれ以上の説明は必要ない。誰とも交際しちゃいけないルールなのに、あいつには男がいる(いた)、けしからん、謝れ、辞めさせろというシステムに異議申し立てをする人が少ない。「夢を見させろ」や「どれだけ金を払ったと思っているんだ」などと、憤怒すらぶつかって、実際に、謝らされたり辞めさせられたりしている。坊主にさせられた人もいた。何度も腕を組んで考えるのだが、なんで、誰かと誰かが恋愛したことに対して、無関係の他者が怒れるのだろうか。

体調不良を謝らされる

この手のグループの人たちが、活動休止や休養を発表したとのニュースを定期的に目にする。先日の総選挙で1位になったメンバーが休養を発表し、どうやら長引きそうなのでとても心配なのだが、ここでも「どれだけ金を払ったと思っているんだ」方面の意見が散見され、疑似恋愛の暴力性に呆れる。他者はこうして呆れていられるが、本人にはその意見がそのまま突き刺さってしまうわけで、この手のニュースと反応が定期的に流れっぱなしになることを、いちいち異様に思わなければいけない。

かつて、選抜総選挙のスピーチの場で、自分が体調不良で休養していた理由を「私は機能性低血糖症と診断されました。そこから摂食障害、過食、嘔吐を引き起こしました。なかなか言えなくてごめんなさい」と謝ったメンバーがいた。そうやって芸能人が自らの病について吐露するのは、同じ症状で苦しんでいる人たちに勇気を与えるなどと賞賛されていたが、そもそも、足が太くてもそのうち細くなっていく、なんておっしゃる組織のトップのやり方に問題があるのではないでしょうか、と指摘するのは、そんなに大変なことなのだろうか。

〝恋多き〟前田敦子と騒ぎ立てる

芸能レポーターだと思っていた城下尊之が「芸能ジャーナリスト」との肩書きで記す「日刊ゲンダイ」(18年8月11日)の連載「芸能界仕事術」を読んでいたら、前田敦子の結婚について触れており、「個人的に前田の女優としての活躍はなかなかのものだと思っている」と、上空飛行すぎて視界不良な分析を記し、「これまでの恋愛禁止から解放されたこともあって、女優転身後は大いに羽を伸ばし、(中略)〝恋多き女優〟のイメージが出来上がっていた」と記す。それ以上のジャーナリスティックな見解は特に見当たらない。

恋愛禁止という人権侵害を、大人たちが率先して確固たる法規として強いて、そのルールに疑いすら持てない「ジャーナリスト」が、解放された後のいくつかの恋愛を眺めて、「恋多き」としてしまう。今回、城下に限らず、多くのメディアが、「恋多き」と交際4ヶ月の「スピード婚」を掛け合わせながら騒ぎ立てていたが、騒ぎ立てていた人・メディアというのは、長らく交際を禁止されてきた組織から出ると決まった途端、いよいよ恋愛解禁ですね、などとポップに尋ねていた人たちと同じではないのだろうか。

めでたい結婚に軽薄な言葉が付着する

前出書で秋元は、メンバーがどういう「奥さん」になるかについて、柏木由紀は「常識があって、自然と親に紹介したくなる感じ」と言い、前田敦子については「恋人にしたいとは思っても、もしあれがかみさんだったら大変だぞ、という感じ」などと言っている。その場で消える酒場談議ではなく、しっかりと活字に残せる姿勢を、気持ち悪いな、と思う。

かつて前田敦子は「人に言われる前に自分で自分にダメ出しをして、厳しく叩けばいい。そうすれば、何を言われようが『そうです』としか思わない」(『あっちゃん』)と言っていたが、そういう麻痺によって自分を無理やり動かし続け、自分のタイミングで離脱して好きなように活動しても、かつて管理下におかれていたアイドルグループ出身というだけで、めでたい結婚に軽薄な言葉が付着してしまう。恋愛禁止から離脱していくつか恋愛すると「恋多き」になるって酷である。この手の話をすると、もう今さらいいよって話しかできないし、我ながら、つまらない原稿だなと感じるのだが、今さらいいよでいいのだろうか。よくないと思う。3度目になりますが、だって、やっぱ、気持ち悪い、と思うからだ。気持ち悪いと思わないのだろうか。

(イラスト:ハセガワシオリ


山田ルイ53世×武田砂鉄
「それでも、僕たちは書く。~『一発屋芸人列伝』(新潮社)『日本の気配』(晶文社)について」

出演 山田ルイ53世(お笑い芸人)、武田砂鉄
時間 19:00~21:00 (18:30開場)
場所 本屋B&B(東京都世田谷区北沢2-5-2 ビッグベンB1F)
入場料 前売1500円+1ドリンク 当日2000円+1ドリンク
http://bookandbeer.com/event/20180818_b/

ナンシー関に"賞味期限"はない

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ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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コメント

neneko_youtube それな、でしかない https://t.co/XJPmrTA3K9 約16時間前 replyretweetfavorite

muchako_desu いろいろいい。 https://t.co/tFb2TuPqFs 約19時間前 replyretweetfavorite

morieyoshie1484 「なんで、誰かと誰かが恋愛したことに対して、無関係の他者が怒れるのだろうか」| 約20時間前 replyretweetfavorite

kamihatesatoru #スマートニュース 約22時間前 replyretweetfavorite