他にも、特徴的なおろし金はまだあだある。中には、バター用おろし金や岩塩用おろし金なんていうのもあり、とても語りつくせないほど幅広い。
「バター用のおろし金はおもしろいですよ。バターって固まりのままパンにぬると、パンの表面がぼろぼろになりますよね。でも、このおろし金を使うとバターがにゅるにゅるになって、パンの上でスーッとのびる。他の食材にはまったく役立たないけど、バターに関してはものすごくいい仕事をしてくれます」
食材ごとにここまでおろし金が細分化されているとは驚きだ。このレベルで道具にこだわって使い分けられたら、料理や食事がもっともっと楽しくなるに違いない。
「僕は『87,600』っていう数字が好きなんです。これは人が生涯で摂る食事回数の目安で、1日3食×80年間で87,600回になります。もちろん、時には食欲がなかったり、時間がなくてエネルギーを補給するためだけの食事もあると思います。でも、87,600回のうちほんの1割強でもおいしくごはんが食べられたら、1万回近くの幸せが訪れることになる。そして僕らの仕事には、その回数を増やすことができる可能性があります。一人ひとりの87,600回を少しでもいい時間にするため、僕は料理道具、おろし金にこれからもとことんこだわっていきたいと思っています」