Bitcoinはサイファーパンクの活動の歴史と深い関係があります。
サイファーパンク (cypherpunk)とは、社会や政治を変化させる手段として強力な暗号技術の広範囲な利用を推進する活動家である。
サイファーパンクの思想を理解するにあたって重要な文書として、1992年にティモシー・C・メイが発表した“クリプトアナーキスト宣言” (「The Crypto Anarchist Manifesto」)が挙げられます。本記事では、こちらの宣言を読んで思想を理解したいと思います。
『The Crypto Anarchist Manifesto』(1992, Timothy C. May )
https://www.activism.net/cypherpunk/crypto-anarchy.html
サイファーパンクは1980年代の終わりから活動をしてきました。2018年現在において30年近くになります。Bitcoinが日本でもこれだけ世間を賑わした今、サイファーパンクの思想を振り返ってみることで、目指していたものがなんなのかを理解する一助になるはずです。
日本語訳が見つからず、短い文書なのでざっくりと訳しました。サイファーパンクのみなさま、ニュアンスが違うなどありましたらご連絡ください。
クリプトアナーキスト宣言 日本語訳
怪物が現代に出現した。クリプトアナーキーの怪物である。
コンピュータテクノロジーは、完全に匿名で個人同士やグループ間でコミュニケーション、相互に関係することを可能にした。二人の人間が本名、法的な身分証明書などを誰にも知られることなくメッセージを交換し、ビジネスを計画し、電子契約をとりかわせる。暗号プロトコルによって実装された、暗号化パケットと、改ざん耐性を持つ送信方法の大幅な再ルーティングによってネットワーク越しの対話は追跡不能になるだろう。
「評判」は現在の信用格付けよりもはるかに重要になるだろう。これらの動きは政府の規制、税金や経済をコントロールする能力、情報を秘匿する力を完全に変え、また信用や評判の本質でさえ変えていくだろう。
この革命的テクノロジーは、社会経済の革命でもあるが、過去10年間にも理論的には存在していた。この方法は公開鍵暗号方式、ゼロ知識対話証明、多くの対話型、認証、検証などのソフトウェアプロトコルに基づいている。ヨーロッパやアメリカの学会に焦点が当てられていたが、国家安全保障局(NSC)によって強く監視されたカンファレンスが行われた。
しかしつい最近では、コンピュータネットワークとパーソナルコンピュータがこれらのアイデアを実現可能にするために十分なスピードを達成している。そして、次の10年には経済的に実現し、本質的に止められないほどのスピードが実現されるだろう。高速ネットワーク、ISDN、改ざん耐性を持つ送信方法、スマートカード、衛星通信、Kuバンド送信機、多層集積回路を搭載したパーソナルコンピュータ、そして現在も開発途上の暗号化チップは実現可能なテクノロジーになるだろう。
当然、国家はこのテクノロジーの広がりを遅めるか止めるように試みるだろう。その時には国家安全保障の懸念、ドラッグのディーラーや脱税者にテクノロジーを利用されること、社会崩壊の脅威などをあげるだろう。多くのこれらの懸念は正しい。クリプトアナーキーは国家秘密を自由に取引できるようにするし、不法で盗難されたものものも取引可能にする。コンピュータ化された匿名市場は恐ろしい暗殺市場、恐喝市場なども可能にする。多くの犯罪や外来要素も暗号化インターネットのアクティブユーザーになるだろう。しかし、このようなことがあってもクリプトアナーキーの波は止まらない。
活版印刷が中世のギルドや社会の権力構造を変えたように、暗号理論も企業の本質や経済取引に対する政府の干渉を変えるだろう。新たな情報市場と組み合わせることで、クリプトアナーキーは文章や画像に入れ込めるあらゆる材料の流動性のある市場を作り出すだろう。
有刺鉄線のような一見小さな発明が広大な牧場や農場の垣根を塞ぎ、西部フロンティアの土地や財産権の概念を永遠に変えてしまったように、小さな数学の秘技の発見は知財の周りを囲まれた有刺鉄線を解体するワイヤークリッパーになり得る。
立ち上がろう。君たちの周りの有刺鉄線以外には失うものは全くない!
重要な示唆と未来予測
一文一文が刺激的ですが、特にこれまでや現代の示唆に当てはまる内容をあげていきます。
「評判」は現在の信用格付けよりもはるかに重要になるだろう。
現代のサービス全てが暗号理論を利用しているわけではないですが、SNSなどの発達で評判が重要になっている世の中はきていると感じます。実際、中国などはSNSを用いたクレジットスコアリングなどを始めており、ネット上の評判が信用格付けとなってきています。
これらの動きは政府の規制、税金や経済をコントロールする能力、情報を秘匿する力を完全に変え、また信用や評判の本質でさえ変えていくだろう。
おそらく、ブロックチェーンの流れは「国家」の概念を変えていくと思います。スマートコントラクトによる契約履行の分散化、価値の移転の履行など、国家自体が分散的になっていく地盤が整っていくように思います。特に、課題のある国家から概念変化されていくインセンティブが働くように感じます。
この革命的テクノロジーは、社会経済の革命でもあるが、過去10年間にも理論的には存在していた。この方法は公開鍵暗号方式、ゼロ知識対話証明、多くの対話型、権限型、検証型などのソフトウェアプロトコルに基づいている。
(略)
そして、次の10年には経済的に実現し、本質的に止められないほどのスピードが実現されるだろう。
ベースとなるP2Pを実現する高速ネットワークの発展によって、公開鍵暗号方式に基づいたBitcoin、さらにゼロ知識証明を用いたZcashなどの実現などがされました。これも92年に書かれた未来予測なように感じます。
コンピュータ化された匿名市場は恐ろしい暗殺市場、恐喝市場なども可能にする。
当事者間での予測市場を実現するAugurでは、「暗殺」の予測が生まれました。現状では予測しているだけですが、賭け事に参加している人には暗殺するインセンティブが生まれます。
ブロックチェーン基盤の「暗殺市場」が出現 批判の声も | Cointelegraph
しかし、このようなことがあってもクリプトアナーキーの波は止まらない。
そしてここで示唆されているように、この流れを完全に止めるような規制は実現が難しく、かなり不可逆な流れだと思います。
現代の革命運動と影響を与えた思想
重要だと感じたのは
- 「暗号理論」が「中央集権」の社会を破壊するという考え方は30年近く前からあった
- 2010年代には実現する環境が整い、「価値」の非中央集権化が本格化し始めた
- インセンティブ機構を用いることで、多くの層に非中央集権への注目が生まれた
三点です。
さらに付け加えるなら、「中央集権」の対象が大企業も含むことでしょう。IT企業の発展を経て、私たちの個人データはIT系大企業が握っています。昨今、その個人データの二次利用も問題視されつつあります。自身のデータは暗号化した状態でブロックチェーンやIPFSなどの分散データベースに保存しておき、必要な時だけ自身で復号することでプライバシーを守る動きもでるでしょう。
Bitcoinに通じる思想の流れは非常に面白く、読み解くことで目指す流れの理解に繋がります。はじめにこのような思想があり、その後に暗号通貨のアイデアやいくつかの実装アイデアを経て、Bitcoinなど多くの通貨の発展へと至ります。直接民主主義の思想があって、そこから人々が具体的な行動に出たフランス革命をみているような気分になります。
人間が動ける空間はテクノロジーによって大幅に拡張しました。それは物理的な空間だけでなく、サイバー空間も含みます。現代の革命はインターネット上、はたまたブロックチェーン上やバーチャル空間などでも起こるのでしょう。