今日はネットロアらしい都市伝説の話を。
実は千と千尋の神隠しには、「幻のラストシーン」があり、それは映画館で数日しか公開されず、カットされたという都市伝説です。その「幻のラストシーン」は以下の通り。
・千尋が車の中で来る前に着けていた髪留めが銭婆から貰った髪留めに変わっていることに気が付き不思議がる(何故かは覚えていない)
・新居に向かう途中、丘から引っ越し業者が既に到着しているのが見え母親が「もう業者さん来ちゃってるじゃないのー」と父親に怒る
・新居に到着後、引っ越し業者の1人から「遅れられると困りますよー」と注意される
・千尋が1人何気なく新居の周りを歩いていると短い橋の架かった緑ある小川があることに気付く
・橋から川を眺めていると千尋は一瞬ハッと悟ったかのような状態になりこの川がハクの生まれ変わり、新たな住み処であることに気付いた?かのように意味深に物語が終わる
まあ、普通に考えれば、ジブリ規模の全国公開する映画が、わずか数日で編集しなおす、なんていうことはないはずですし、もしそうだとしたら、もっと記録に残っていていいはずなので、これが都市伝説なのは間違いないです。
しかし、不思議なのは、私自身も、この「幻のラストシーン」のくだりを読んだときに、「あれ、なんか見たことあるな」という気分になったことです。そして、この「なんか見たことある」現象は多くの人の間に広がり、一部では「これが真実だ!」となっているわけです。
というわけで本日は、この千と千尋の「幻のラストシーン」に関しての、ちょっとした妄想的考察を書きたいと思います。
ではまず、事実確認からしていきましょう。
このウワサの出所元は、日付検索をかけていくと、恐らく2014年11月21日の2chへの書き込みと思われます。
千と千尋の神隠しその後…本当のラストシーンをご覧ください… : NEWSまとめもりー|2chまとめブログ
これ以前の日付で、「千と千尋 ラストシーン」でググっても、ハクが八つ裂きにされたんじゃないかという話しか出てこない*1ので、ここがネタ元と見て間違いないでしょう。2001年公開の作品なので、2014年に突然「幻のラストシーン」が見つかる、というのは非常に考えにくいです。
ところで、この2014年11月21日という日付はとても大事なのですが、実はこの日、金曜ロードショーにて、「千と千尋の神隠し」がノーカットで放送されたんですね*2。平均視聴率も19.6%と、かなり高い数字だったことも記録に残っています*3。
なので、この頃のtwitterを眺めると、この千と千尋のラストシーンに関する言及が多く見られます。
千と千尋、ラストもうちょっと続きのシーンなかったっけ?引っ越し業者が先に着いちゃってるとことか。車中のシーンとか。あれ?
— アナゴさん (@Elias_T7) 2014, 11月 21
【千と千尋の神隠しその後…本当のラストシーンをご覧ください…】 : NEWSまとめもりーhttp://t.co/8mKOIyHE8w
— りん@蟹 (@kirorily) 2014, 11月 21
ぼくも劇場で見たけど、ラストに「引越し屋さん来ちゃってるじゃない」的なセリフと小川のシーン見た覚えあるんだよなぁ
深く考えてなかったけど
たとえば2012年7月6日にも金曜ロードショーで放映されているのですが*4、そのころのtwitterでは、このラストについては何も言及がありません*5。
つまり、「幻のラストシーン」に関するまとめが、金曜ロードショーでの放映当日に流れることで急速に拡散されていき、ひとつの都市伝説として定着していった、という経緯なのだろうと予想できます。
しかし、この「幻のラストシーン」、どうして、こんなにも「なんか見たことある」気にさせられるのでしょうか。
これは私の妄想的考察になりますが、「なんか見たことある」気持ちになるのは、この「幻のラストシーン」の記述は、全て、映画に実際に出てきた場面の寄せ集めだからではないでしょうか。
そのことがよくわかるのは、この「幻のラストシーン」について、twitterや書き込みでは、「全くその通りだ」というよりも、「引越し業者のくだりはなんか覚えている」と言う方が多くいることです*6
「幻のラストシーン」の都市伝説は、こういう記述になっていますね。
・新居に向かう途中、丘から引っ越し業者が既に到着しているのが見え母親が「もう業者さん来ちゃってるじゃないのー」と父親に怒る
この「丘から~」という映像自体は、実は冒頭、タイトルの出る直前にあります。
母親が車の窓を開け、風が吹き込み、千尋が外を見やった後、カメラがあがっていき、まさに「丘」の絵が映ります。
そして、タイトルが出た後、千尋たちの車が丘をのぼっていきます。
また、別のシーンでは、トンネルの入り口まできた千尋のお父さんが、「ちょっと行ってみない?むこうへ抜けられるんだ」と言った言葉に対して、お母さんが不機嫌そうに答えます。
引越センターのトラックが来ちゃうわよ。
この2つのシーンが組み合わされば、上記の「丘から引っ越し業者が既に到着している」のを見た母親が「「もう業者さん来ちゃってるじゃないのー」と父親に怒る」シーンは完成しないでしょうか。だからこそ、この「引越し業者」というくだりは、「なんか見たことある」既視感を植えつけるのではないでしょうか。
他のものも検証していきましょう。
・千尋が車の中で来る前に着けていた髪留めが銭婆から貰った髪留めに変わっていることに気が付き不思議がる
冒頭数分間は全て車中の出来事です。
そしてラストも車中から遠ざかるトンネルを眺める視点から、車が走り去っていくカットで終わります。ラストは「車の中」は映し出されませんが、明らかに車に乗っている表現は記憶に残ります。そこで冒頭とラストの記憶の混同が出てくるのではないでしょうか(不思議がるシーンは出てこないのですが、千尋はよく不思議がってはいます)。
・千尋が1人何気なく新居の周りを歩いていると短い橋の架かった緑ある小川があることに気付く
小川のシーンは一つだけあります。家族でトンネルを抜け、野原の先へ進むシーン。お父さんが「川を作ろうとしたんだね」と発言しています。
そして、橋に関しては、湯屋へつながる赤い橋が印象的ですね。
「緑ある」小川、というのは、この川のシーン前後の、風に揺れる野原の様子から連想されるものではないでしょうか。
・橋から川を眺めていると千尋は一瞬ハッと悟ったかのような状態になりこの川がハクの生まれ変わり、新たな住み処であることに気付いた?かのように意味深に物語が終わる
橋から川を眺めるシーンは正確にはありませんが、欄干(のような場所)から海を眺めるシーンは存在します。川の神様を引き入れた後、リンと千尋が部屋で話すシーン。