倍率300倍を超えられなかった少年の話 作:気力♪
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この作品も有名になったのだなぁとしみじみ思いました。
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インターン編行ってる作品知ってるよ!という方々はこちらにどうぞ
事務所の車にて待機している2人のヒーローは、警戒しつつ話し合っていた。
「タクシーのドライブレコーダーと各地の監視カメラ映像を繋ぎ合わせて潜伏場所を見つけるとは、流石ボスですね。」
「ボスはやめて、土地勘あるだけだから。」
遠目に道路を封鎖している警官たちを見ると、作業がひと段落したのが見えた。どうやら封鎖を完了させたようだ。
「...道路の封鎖も終わったね。これでインサートに逃げ場はない。」
「ええ、まぁ問題なのはバブルビームとサンドウィッチという強力なヒーロー2人を倒したご子息なのですがね。」
「...僕はインサートを許せそうにないよ、巡くんの事があるから余計にね。」
「まぁもう逃げ場などない問題です。増援としてエンデヴァー達とイレイザーヘッドが来たら、即座に襲撃をかけましょう、ボス。」
「だからボスはやめてって。」
すると裏口を抑えている警察官から急報が入った。
「インサートと巡くんが窓から飛んで逃げた⁉︎どこから包囲の情報がバレたんだ、包囲完了したのついさっきだぞ⁉︎」
「ボス、細かい事は後です。今は追いかけましょう。」
「というか特殊捕獲ネット装備の警察官から逃げ切るってどんな身体能力してるんだ巡くんは!」
その瞬間、螺旋ヒーロースクリューの頭に電流が走った。熟練のヒーローを倒すほどの戦闘力を持つ巡に言葉だけでヒーローを手玉に取れるインサート。何故逃げる必要がある?
「...クリスタルアイ、2人はどこに逃げたんだと思う?」
「どこ...なるほど、ご子息は分身の術が使えたという話でしたね。囮ですか。」
「多分ね、だから囮は警察に追いかけさせて僕たちはこの屋敷の包囲は続けておくべきだと思う。」
「承知しました。捜査本部にはそのように伝えておきます。」
「こう動かれると単純戦闘力で僕たちを上回るエンデヴァー事務所の2人が先に落とされたのが痛いね。僕たちが別れたら後の祭りだとわかってしまう。」
「エンデヴァーさんのご指示で2人が検査入院終わるまで現場に出てこれないのが問題ですね。」
「...今のあの2人なら勝手に前線に出てきてもおかしくはないけどね。」
一時話が途切れる。その時、クリスタルアイは何かを言い出そうとして、でも言い出すべきか迷っていた。この
「ボス...」
「何?クリスタルアイ。」
「...いいえ、なんでもありません。おそらく私の記憶違いですから。」
そうごちながらも屋敷への警戒を怠らない。戦闘力はトッププロに一歩劣るものの、彼らとて一線級のヒーローなのだから。
そんな様子を、屋敷に備わった監視カメラを通して一行は見ていた。
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「駄目ですな巡様、肝心のヒーロー2人は包囲から動きません。」
「流石長野のご当地ヒーロー、この程度のブラフは見抜いてくるか。」
「突入が始まるのはバブルビームとサンドウィッチが合流してからです。なので時間はあと1時間ほど後でした。」
「その前に家宅捜索でもしてくれたら待ち伏せ催眠でハメれるんだが...」
「それはないでしょう。スクリューは経験豊富なヒーローと聞きます。敵の陣地に無策で入ってくることはしないでしょう。...アクシデントが起こらない限りは。」
後輩から聞かされたループの記憶。包囲されていたこの屋敷にバブルビームさんとサンドウィッチさんが強行突入してきて、それに呼応する形でスクリューさんとクリスタルアイさんが突入してきたと。
その後4人はサンドウィッチさんのよくわからない感知能力により隠し部屋を暴かれ、4人の連携により成すすべもなくやられてしまったのだとか。流石に4人同時は死ぬな、うん。
尚、後輩のループのセーブポイントが更新された理由については「し、知りません。」と付き合いの短い俺でもわかる誤魔化しをしていた。何かやったのなお前。まぁ、詰みセーブでないといいのだが。
「さて、穂村のお爺さん。頼んでいた作戦は行けそうですか?」
「ええ、門下生達や知り合いの警備会社の面々に頼んでみたところ行けそうでした。情報の出所がお嬢様の『予知』なのは疑問に思われましたが、起こった時の万が一を思うとやらない訳にはいかないと納得していただけました。」
「ありがたい増援ですね、本当に。」
流石にタイムリープの事を話すのはリスクが高いので予知というカバーストーリーを立てたが、俺を、というか団扇の血を信じてくれた穂村のお爺さんはあえて騙されてくれたようだ。感謝の極みである。これで、インサートの計画をくじく為の作戦は仕込まれた。
あとは、俺と後輩が逃げ切ればいいだけだ。
その時、影分身の経験のフィードバックが帰ってくる。狙い通りにヒーローを釣れなかった事から一人のチャクラを解除し、変化の術により後輩に化けていた方はオフモードのエンデヴァーさんに化けて病院に向かうというサブプランを実行する。
バブルビームさんとサンドウィッチさんを洗脳を解除することで戦わずして無力化する為に。
あの2人がこの屋敷に来なければ包囲は続くとしても突入はない。ならエンデヴァーさんと相澤先生がインサートを捕らえるまで引きこもっていればいいのだ。
名付けて、引きこもり大作戦なり。
その作戦を言った時の後輩の釈然としていない目が忘れられない。いや、命をかけないでいい時はかけないぞ俺は。何故か死にまくってるらしいけど。
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「バブルビーム、サンドウィッチ、どこに行こうとしている?」
その声に反応した2人は、病衣のままその声の元へと振り返った。
「エンデヴァー、さん...」
「そんな、福岡にいた筈じゃ...」
写輪眼発動。一瞬の隙さえあれば『動くな』の命令を仕込むのは容易い。慣れているからだ。しかし危なかった、あと数分遅かったらこの2人に突入部隊に合流されてしまったかもしれないのだから。
「この個性、まさかメグル⁉︎」
「...変化の術ってやつね。やられたわ。」
動けず、目を閉じれなくなった2人が最後の抵抗にと声をかけてくる。だが、正義はこちらにある。迷いはしない。
「2人にかけられた洗脳を解除させて貰います。この写輪眼の瞳術で!」
そう言って格好つけたあと、2人の乱された身体エネルギーを写輪眼で元に戻す。2人は一瞬ぼうっとした後「エンデヴァーさん⁉︎」と驚いて自身の今の状況に戸惑い始めた。2人としてはいつからか記憶が途切れ突然病衣を纏って病院のエントランス前にいるのだから当然だろう。
「メグルです、今の状況を説明したいので一旦病院に戻ってくれませんか?2人とも。」
「...インサートの個性にやられたのか、僕達は。」
「はい。」
「..上等よ、エンデヴァーヒーロー事務所に喧嘩を売った事を後悔させてみせる。状況を話して、メグル。」
幾たびも自分の命を奪ったらしい2人の強力なヒーローが味方に着いた。さぁ、本格的な反撃の開始だ。
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影分身による情報の伝達が来た。どうやらバブルビームさんとサンドウィッチさんを味方につける事に成功したようだ。
その事を後輩に伝えると「先手を取るって凄い事なんですね、先輩」と驚いていた。これで今日の襲撃は無くなるだろう。
相澤先生もエンデヴァーももうすぐ長野にやって来る。
真のインサート包囲網は着々と築かれつつあった。
だが、まだ安心はできない。
「ヘリの音がする。後輩、警察の機動隊がやって来るとかはあったか?」
「すいません、先輩。まだ2度目で...」
「オーケー、来るって思っておく。となると一旦は逃げの一手か?」
「先輩、ここ以上に条件の良い拠点はありません。逃げるといっても何処に行くつもりですか?」
「穂村署。」
「...先輩、それは逃げるとは言いません。」
「ですが良い手ですな。増援に来る方々と歩調を合わせる事ができれば必殺の一手となりますな。それに...」
「ええ、警察署内に
その時、再び影分身からの情報共有が入る。相澤先生とエンデヴァーさんの穂村署への到着時刻は共に13時、エンデヴァーさんは福島から飛行機で飛んできてくれたらしい。ありがたい事だ。
まぁ現在時刻は10時30、のこり2時間半。2時間半もぶっ続けで逃げ切ることは難しいのでもう少し警察が待っていてくれる事を祈ろう。
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「ってのはフラグだったかねぇ...」
「言ってる場合ですか?」
「場合だよ。少なくともこの地下を通らなきゃ入れないこの屋根裏部屋が見つかるまでは待てるからな。しかも天井開くから逃げ道にも困らない。マジで何対策で作ったんだこの忍者屋敷。」
現在時刻は11時、10時45分からこの屋敷には機動隊が突入してきて屋敷をくまなく捜索されている。まぁこんな忍者屋敷を想像はしていなかっただろうから進みは遅いようだが。
「流石にスタミナが保たないから12時半くらいまでは鳴らないで欲しいんだけどな、この鳴子トラップ。」
「...先輩、レーザー感知式のトラップのはずなのにわざわざ鳴子を動かすギミックになっている事に疑問を感じているのは私が記憶喪失だからですかね?」
「浪漫があるだろ?それが答えだ。」
「男の浪漫は分かりにくいです、先輩。」
時間は進む。と、バブルビームさんたちに付いていた影分身がチャクラ切れで消えたと感覚でわかった。バブルビームさんたちはエンデヴァーさんからの検査入院の指示を無視して、自分を助けるために包囲の少し外側で潜んでいるようだ。私服の2人を見るのはそういえば初めてだなぁと感慨に浸る。サンドウィッチさんの大人な女性な感じの私服が個人的にグッときたのは置いておこう。後輩が将来あんな美人になるといいなぁと思いつつ。今は身を潜める。
「先輩、変な事考えてますね?」
「...何故分かる後輩。」
「先輩の事ですから。」
そんなに顔に出るタイプだっただろうかと不安になる。もしかして峰田とともに風呂上がりの女子を見て「ええなぁ」とか言ってたのも女子組にバレていたのだろうか...やべ、怖くなってきた。
「先輩、変な事考えてますね?」
「だから何故分かる後輩。」
「先輩の事ですから。」
そんなぐだぐだとした会話の後に、鳴子トラップが鳴り響いた。時刻は11時半、後1時間くらい待ってて欲しかったが仕方ない。
「行くぞ後輩!逃避行の時間だ!」
「はい!全力で先輩の背中に引っ付きますね!」
天井を開き状況を確認。ヘリは一機、あれに後を付けられると厄介だ。まずはあれを潰す!
移動術をつかった大ジャンプでヘリに取り付く。そして印を結び影分身をヘリの内側に精製する!
落下中に影分身のフィードバックが帰ってきて、ヘリの操縦士、副操縦士を催眠に仕掛けることに成功したとあった。影分身で複製できる単純な構造のミラーダートに感謝だ。
これでヘリは無力化できた。あとは逃げ回りつつ穂村署へと向かうだけだ。
ワイヤーアロウを手近な木に当てて空中機動。一旦森の方へと移動する。
が、下にいるヒーロー達は逃げる奴に対して黙っていたりする無能ではなかった。クリスタルアイの光線がアロウを当てた木を切り倒し、その隙に下向きの螺旋の力が俺たちを捉えた。螺旋ヒーロースクリューの個性、『螺旋』の中心を遠くに放つ事でやった惑星の軌道のような推進力を生み出しているのだと写輪眼では見えた。おそらく竜巻状の力でなく円の形の力に収束する事で力を強くしているのだろう。
もう一つのワイヤーアロウを違う木に当てて螺旋の力に対抗する。こんな強力な個性使用はそう長くは続けられないとの判断からだ。
だが、もう1人のヒーロークリスタルアイはその隙を逃がさない。写輪眼で見えた予兆から直撃コースだとわかったためアロウのアンカーを外し螺旋の力に乗ることで森の中へと突入するしかなかった。
そして、その落下地点には螺旋の力の軌道が見えていた。ここまで向こうの予定通りなのか⁉︎
「螺旋体技、瞬撃!」
その螺旋エネルギーの軌道に乗り螺旋ヒーロースクリューは現れた。円軌道に乗った超速打撃を繰り出しながら。
チャクラを放出させて無理矢理身体をひねることで回避する。だがスクリューさんの螺旋は止まらない。
「螺旋体技、激衝!」
体内に回転の中心を作り、その勢いを乗せた拳を放ってくるスクリューさん。その威力は螺旋の力を集約したものだ。まともに喰らったらマズイ!
だがその拳が俺を捉えることはなかった。いつのまにか自分に付いていた砂が自分と後輩を拳から逃がしたのだ。こんな事ができる個性を持つ人は1人しか知らない。
「サンドウィッチさん!」
「クリスタルアイはバブルビームが見てる!厄介な遠距離は飛んでこないわ!今のうちに倒すわよ、メグル!」
「な⁉︎君がインサートに付くのか⁉︎」
「違うわ、メグルっていう頑張ってる後輩に付くのよ、エンデヴァーヒーロー事務所の先輩としてね!」
背中の後輩は少し怯えているようだが、戦った自分だからこそ分かる。この助っ人がどれだけ頼もしいか!
「メグル、サンドウィッチ、僕はインサートを捕まえてどうしても聞きたい事がある。退いてくれ。」
「彼女はインサートじゃありません。って言っても聞かないんでしょうけど。」
「彼女の個性により誤った認識を入れられているんだ君たちは!警察の監視カメラシステムが彼女をインサートだと確かに証明している!」
「なら、その映像を持ってきて下さい。断言できます、そんな映像はありません。騙されているのは警察の方です!」
「...平行線だね。」
「ええ、平行線です。だから!」
「「ここで、止める!」」
後輩をサンドウィッチさんに預けてスクリューさんに挑む。スクリューさんの動きは個性の螺旋を相手に放つか螺旋を自身の体に当てて動く螺旋体技の二択。どちらでも写輪眼なら予兆を見逃さない。それにうずまきさんの個性では特殊な感知方法を持っていないため足元を見ての判断となる。なら正確無比な攻撃は無い。それに、俺は1人ではない!
「螺旋体技、激衝...ッ⁉︎」
螺旋の力を身に纏い拳を放とうとするスクリューさんの足を、砂でできた手がしっかりと掴んでいた。螺旋の勢いは止められないため体勢を崩した。そんな大きな隙、突かない訳はない!
「桜花衝!」
桜花衝の衝撃で吹き飛び、後ろの木にぶつかるスクリューさん。痛みから反射的に俺の目を見てくれた。なので写輪眼によりインサートの個性を解く。
うずまきさんは混乱せず、すぐに状況を把握したようだ。流石長野を守るご当地ヒーローだ。
「そうか、僕はインサートの個性を喰らったのか...」
「ええ、でも過ちを犯す前に止める事ができました。」
「...君に手を挙げた事も、立派な過ちだと思うんだけどね。」
「一発も貰ってないのでセーフですよ。」
「ハハッ、ボロ負けかぁ...立つ瀬が無いね。」
「ボス、そこは若い世代が強く育っている事を誇るべき問題です。」
唐突に会話に混ざるクリスタルアイさん、バブルビームさんを倒して来たのか⁉︎と思い目を向けると、そこにはバツの悪そうな顔をしたバブルビームさんがいた。
「どういう状況です?」
「クリスタルアイさんは自分でインサートの洗脳に気付いていたようなんだ。」
「ええ、自分の記憶に矛盾を感じていたのです。その最中ご子息のみならずエンデヴァーヒーロー事務所の方々の離反、おそらく間違っているのはこちらだと判断した問題です。」
流石都内で揉まれたヒーローだというところだろう。状況判断が的確だ。
「クリスタルアイさん、催眠を解きます。いいですね?」
「よろしくお願いします、ご子息。」
目を合わせ、クリスタルアイさんにかけられたインサートの洗脳を解除する。一瞬の混乱の後、クリスタルアイさんは現状を把握したようだった。
「...あの青髪の少女がインサートなのですね。」
「最後に声をかけられた記憶がそうなら、間違いありません。」
「スクリュー、クリスタルアイ。私達はインサートを捕らえるために穂村署へ向かう。来るわよね?」
「行きましょう、ボス。」
「ああ、メグルにいいの貰ったから辛いけどね。」
「治療しますよ、スクリューさん。」
「治療ができるのか⁉︎」と驚かれる。そういや言ってなかったなと今更ながら思った。
掌仙術によりスクリューさんの傷を癒す。威力を抑えていた桜花衝であったため、大した時間はかからなかった。
「さあ、行きましょう。機動隊がそろそろ来るわ、だからその前に飛ぶ!」
サンドウィッチさんは砂を薄く広めて5人のヒーローと後輩の乗る絨毯を作り上げた。本当に多芸な人だ。
「さぁ、目的地は穂村署!エンデヴァーさんが来るのと同時にカタをつけるわ!」
砂で作られた絨毯は、自分たちの足を掴む手を作ったあと高速で飛翔し穂村署へと向かっていった。
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13時ジャストまで上空で待機したあと突入を開始する。
5人のヒーローと1人の少女による正面突破だ。
「屋上のドアに鍵がかかってる。ぶち破りますか?」
「旧式のディスクシリンダー錠ね、問題無いわ。」
そう言ってサンドウィッチさんは砂を鍵穴に押し込みいとも簡単に鍵を開けてしまった。
「...サンドウィッチさんがヒーローで本当に良かったです。」
「そう褒めないでよ、メグル。」
「まぁ、警察の防空システムに見つかってるだろうからもうすぐお客さんはいっぱいくるだろうけどね。」
「まぁその前に、混乱させるだけさせておきましょうか!」
そう言って、火災報知器のボタンを強く押す。
だが、ブザーの音が鳴り響いたりはしなかった。
「故障?」
「...いいや、違うよメグルくん。インサートはこの警察署ごと焼くつもりなんだよね。」
「...はい、そうです。」
「なら単純だ、防災システムがダウンしてるんだよこの警察署は。」
「うわぁ、えげつないね。」
「それにこの初期対応の遅さを考えると、防犯システムもダウンしているかもしれない。」
「確かに、そろそろ何人か来る筈の時間ですね。かなりの問題です。」
「なら、便乗させて貰いましょうか、その隙に!」
6人で待ち伏せを警戒しつつも階段を降りていく。だが、警察官の方々は
写輪眼で見る限り、全員がインサートの洗脳にかかっている。
「これ、俺たちが暴れ出しても何の問題も無い感じで仕事を続けると思います。」
「一見普通に見えるけど、終わってるね。」
バブルビームさんのその言葉が、今の穂村署の状態を物語っていた。
「...捕まえましょう、インサートを。」
予想していた抵抗もなく捜査本部の前へとやってくる。そこでは、少女の声が甲高く響いていた。
「どうして⁉︎警察なんでしょ?キドータイまで使ったんでしょ?なんでお姉ちゃん1人殺せないの!」
「敵に回ったヒーロー、メグルが一枚上手だったようです。インサートは現在は完全に行方をくらませています。」
「なんで、なんでうまくいかないの!私の個性を入れている筈なのに、なんでお姉ちゃんの味方になるの!」
話を聞く限り奴がインサートで間違いない。
ハンドサインで皆とやりとりする。予定通りサンドウィッチさんの砂で口を塞いでその隙にスクリューさんと俺が突入し意識を刈り取る。
バブルビームさんとクリスタルアイさんはその援護だ。
砂が少女の背後から近づいて、甲高く喚いているその口を塞いだ。
「今!」
スクリューさんの螺旋軌道と俺の移動術で高速接近。スクリューさんは話していた男を、俺はインサートを拘束する。
捜査本部の何人かは即座に銃を抜き迎撃しようとしていたがバブルビームさんとクリスタルアイさんの二つの光線によりその手を弾かれていた。
「終わりだ、インサート。」
写輪眼で『個性を使うな』と命令を刷り込む。これでインサートは無力化できた。
そう安堵していると、俺の背後からエネルギーの線が見えた。クリスタルアイさんの光線の予兆だ。
その線は、インサートの心臓へと迷わずに狙いが定まっていた。
咄嗟にインサートの手を引こうとする。だがその時脳裏をよぎってしまった。
今なら、インサートをクリスタルアイに殺させる事ができると
その一瞬の迷いを振り切り手を引くも、インサートは光線により右胸を切り裂かれてしまった。
「何やってるんですか、クリスタルアイさん!」
その問いに答える事なく彼女はいつも通りの、あるいはいつも以上の氷のような表情でインサートを見ていた。
『問題です』というワードから生まれたクリスタルアイさん、でもそれだけじゃあないのです。彼女が何故そんな凶行に及んでしまったのかは次回で。