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トカゲは死ね、ナメクジは死ね 作者:NOMAR
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映画

「おもしろかったねぇ」

「うん、なかなか良かったね」

 土曜日、さっきまで見ていた映画のパンフレットを見ながら。

 賑わう街並みを見下ろすドーナツ店の二階席で、冷たいカフェオレを飲みながら。

 もともと私はそれほど映画が好き、というわけでは無かったけれど、弓子に貸してもらったDVDの影響で、こうしてたまに映画を見るようになった。


「この映画なら静香の好みでしょ?」

「それは、どういう意味で?」

 映画は吸血鬼の話だった。現代によみがえった百年前の吸血鬼が、自動車に怯えたり、恐々とパソコンでインターネットしたりしながら、過去の恋人と瓜二つの女性を見つけるラブストーリーでコメディな、

「静香はカッコいい人がちょっと愉快なことしてるシーンが好きだから」

「そこにしか興味無い人と思われてる?ちゃんとストーリーを見て、良かったと言ってるのに」


 百年前の恋人をいつまでも引きずる吸血鬼の純粋さと、顔が似てるってだけで吸血鬼にストーカーされるヒロイン。馬鹿馬鹿しいけど寿命の違いとか、種の違いから来る考え方の違い。価値観の違い。そんなテーマもあってなかなか良いと思う。

 彼女の留守に家に勝手に忍びこんで、キッチンで料理本片手にオムレツ作ってやけどするところは、素敵だった。


「最高の映画がラビリンスって言ってたから」

「ラビリンスはいい映画じゃない。魔王様カッコいいし」

「その魔王様がカッコいいところってどのシーン?」

「泣いてる赤ちゃんをあやすために、モンスターといっしょに歌いながらダンスするところ」

「そこは、分かりあえないなー」

「弓子のおすすめのウィザードも私はわからないんだけど、あれラストが酷すぎる」

「あのラストからいろいろ解釈できるところが、いいところなんだけどな」


 弓子に借りたダーククリスタルという映画がおもしろかった。それ以来、ちょっと古い感じのファンタジーが好きになった。弓子のコレクションの中からおすすめを借りては見ている。

「この前のラベンダードラゴンも良かったよ」

「やっぱりカッコいい人の愉快なシーンがあればいいんじゃない?」

「あの騎士もカッコいいけれど、お爺ちゃんドラゴンの優しいところと可愛いところがいいんじゃない」

「なるほど、人外の老けメンもいけると」

「どうしても、そっちに持っていきたいの?」


 同じ趣味でこうして話ができる友達というのはいいものだと思う。弓子に捕まって染められた、という気がしないでも無いけど。ただ、同じファンタジー映画が好きといっても、私と弓子では少し方向性が違うみたい。

「幸運のドラゴン以上のドラゴンは見つかった?」

「ドラゴンの出てくる映画そのものが少ないのに、見つかるわけないじゃない」

「ドラゴンハートは……」

「いーわーなーいーでー、ラストがあれじゃなかったら、良かったのに」

「あと、この前のマジックソード、あれってなんなの?」

「あれは、おかしい映画でしょ?」

「いろいろおかしいって思った。そのおかしいところが気になってもやもやする」

「あれはきっと、見てる人がツッコミを練習するための素材映画なんじゃないかな?」

「そんな微妙なのは、貸してくれなくていいから」

「静香にも、私と同じ胸のもやもやを共有してほしかった」


 面白い映画よりも、微妙な映画のほうがこんな話のときは盛り上がる。そう考えるとたまには弓子のすすめる微妙なものを、もやもやしながら見るのも、悪くはないのかもしれない。


「話は変わるけれど、ウチの教室って、もう少しどうにかならないかなぁ」

「うん、でもどうにもならないんじゃ無いかな」

 孤高の木下優希。彼女に陰でいろいろしてる女子グループ、それを見てみぬフリをする私達含めた多数派。

「だいたい、木下優希が人を刺したという噂が本当なの?」

「私が知るわけないでしょ?同じ中学だったって人の話、だという話で本当のことはわからない」

 誰も木下優希と話をできないから、本人から聞くこともできない。2年になった4月には彼女に話かける人もいたけれど、今は誰もいない。ふざけて彼女をからかった男子が顔面を掌底で打ち抜かれて、鼻血を出して気絶してから誰も彼女に関わろうとはしない。


「一年のときから、ああなのかな」

 弓子に聞いてみる。

「同じクラスじゃ無いから知らない。だから私も静香と同じ噂でしか知らないよ」

「冷血雪女?」

「そう、それ。そんなあだ名で陰で呼ばれてたみたい。今もだけど」


 私も弓子も、もう少しは教室の空気が良くなればいいとは思うのだけど、具体的になにかをするアイデアも出ない。あと、木下優希にも、女子グループにも関わりたくは無いし、怯えてるのをごまかして平気なフリをしているヘタレ男子にも期待はできない。

 木下優希本人がなにを考えてるかもわからない。だけどあの木下優希が教師に、現状を訴える姿も想像できない。


 結局は事態を傍観するだけの私にできることは無い。その後もなんのかんのといろいろな話に話題が飛んで、2人で本屋に寄ってから、駅で別れて家に帰った。バッグには弓子に借りたDVDが2枚。おもしろそうなのものと、おかしいものが1枚ずつ。どっちを先にみるべきか。

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