美少女巫女って最高じゃないですか……!
活動報告にも記載したのですが、黒山羊さんの日常を書き下ろし加えて本にします。
詳しくは活動報告見て下さい。
※コメントや感想返しは活動報告のみです、すみません。
「アインズ様には絶対この装備がお似合いです!あ、勿論他の装備も素晴らしいのですけど、この指輪の色合いとですと、情熱の赤がピッタリです!!」
「……そうか。任せよう」
悟がアンデッドの体であった頃と全く変わらぬやり取りを経て、装備の変更が終わる。悟一人で着替えるのであれば五分も掛からないが、メイドを介すると途端にその時間は五倍以上に跳ね上がるのだ、不思議なことに。
(……女の人って、本当にこういうの好きだよなぁ……。ぶくぶく茶釜さんも、アウラとマーレで良く着せ替えして楽しんでたっけ)
ふと、かつての仲間のことを思い出す。数少ない女性のギルドメンバー、ぶくぶく茶釜。無課金同盟仲間のペロロンチーノの姉である。普段は比較的常識人っぽい言動ではあるが、弟のペロロンチーノのうっかりとした一言で修羅……いや、般若になる女性だった。本業が声優である為、彼女が本気で怒ったときの声のトーンは洒落にならないくらい迫力があり、思わず身が竦んでしまう程だった。
(そういえば、ナザリックの初見攻略の時もフラットフットさんをホモ呼ばわりして茶釜さんにガチギレされてたよなぁ……普段は仲の良い姉弟なんだけど……)
と、そんな事を考えて時間を潰していると、どうやら装備が完了したようだった。
「アインズ様、お待たせ致しました!鏡で御確認下さい」
「あぁ、ありがとう。……うむ、問題無いな。では私は八階層に出掛ける。戻って来たら少し休むつもりだから、茶の準備をしておいてくれ」
「かしこまりました、アインズ様!料理長にも言って、お茶菓子もご用意しておきます!!」
「そうだな、頼む。……デミウルゴス。行くぞ。付き従え」
悟はメイド達にそう言いつけると、ドレスルームから出る。応接室に行くと、デミウルゴスが恭しく一礼をして迎えてくれた。
「アインズ様、本日は八階層と七階層と言うことで危険は少ないと思うのですが……念の為、私の他に影の悪魔数匹をお供にすることをお許しいただけますでしょうか?」
「影の悪魔を……数匹?いつもは一匹だが、何かあるのか?」
デミウルゴスの言葉にアインズが小首を傾げてそう問えば、すぐに答えが返ってくる。
「はい。今のアインズ様は<伝言>を使うことが出来ませんので……伝令代わりに、と。私も巻物は複数持っておりますが、ナザリック内でしたら影の悪魔で十分かと」
「そうだな……許す。ではお前たち。こちらへ寄れ。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで纏めて移動する。影の悪魔は、全員私の影に入れ」
悟のその言葉に、影の悪魔たちは嬉々として悟の影に入ってゆく。悟の影は悟の体としてカウントされるらしく、影の中に入っていれば一緒に転移出来るのだ。
「デミウルゴス。お前は影の悪魔のようには出来ないからな、手を出せ」
「は、はい。その……失礼致します」
まるでそれが当たり前であるかのようにそう言われて。デミウルゴスは怖ず怖ずと悟に手を伸ばす。装備が聖遺物級にアップしたとは言え、悟自身のレベルが上がった訳では無いから、直接体に触れることに対して恐怖感があるのだ。自分の何気ない動きで、忠誠を誓った主を傷付けてしまったら……そう思うと、デミウルゴスは気が気でないが、悟は気にもせずにサッとデミウルゴスの手を握るとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで八階層に転移した。
「……久しぶりだな、ここに来るのも。デミウルゴスは初めてだったか?」
「はい、初めてでございます。何とも……幻想的なフロアなのですね」
「そうだな。……私も、ここは気にいっている。まぁ、最終防衛ラインだからな、そう簡単には来られないが」
桜花聖域。それは、プレイアデスの末妹、オーレオール・オメガの守護する領域。八階層の入口に当たるところに配置されているそこは、最終防衛ラインというにはあまりにも儚く、美しい。悟の時代では既に本物を見ることが叶わなかった桜の木がフロア一帯に生えていて、その可憐な花片を散らしていた。所謂花吹雪であるが、ここの桜は散ってしまうことは無い。
「アインズ様、お待ちしておりました」
鈴の転がるような、高く澄んだ声。若い女性の声だ。その声の方向に悟が顔を向けると、巫女服に身を包んだ小柄な少女が跪いていた。
「あぁ、オーレオール・オメガか。頭を上げよ。どうだ、変わりないか?過日はお前の指揮に翻弄されたな」
「お褒めにあずかり光栄です、アインズ様。ほんの少しでもアインズ様の戦闘訓練のお役に立てたのであれば幸いです」
清楚な巫女は、そう答えると微かに笑う。既に絶滅して久しいと噂の大和撫子、とはこんな感じの女性を指すのだろうか。と、悟は頭の隅で考えていた。
「ヴィクティムは奥か?顔だけでも見て行こうと思ってな」
「はい、いつものように最奥部の生命の樹で待機しております」
オーレオール・オメガのその答えに、悟は満足そうに頷いた。
「そうか。では、散歩がてら向かうとしよう。オーレオール・オメガ、出迎えご苦労だったな」
「勿体ないお言葉でございます、アインズ様。領域守護者であれば当然の事をしただけです」
「……もう少し情勢が落ち着いたら、守護者達をここに集めて花見でもしたいものだな。その時は、お前も参加するのだぞ?オーレオール・オメガよ」
「……!はい、アインズ様。勿論参加させていただきます」
悟のその言葉に、オーレオール・オメガは至大なる喜びを感じていた。ナザリックの偉大な主が、外に出ることが出来ない自分を気遣ってくれた。それだけで、領域守護者である彼女は気が遠くなるほどの恍惚感を覚える。
そんな彼女の内心を知ってか知らずか。悟は、八階層の奥へと歩を進めた。
「……アインズ様、お訊きしてもよろしいでしょうか」
「ん?どうしたデミウルゴス?申してみよ」
桜吹雪の中、嬉しそうに笑みを浮かべながらゆっくりと歩く悟の一歩後ろを付き従いながら、デミウルゴスが口を開いた。
「花見、とは一体どういった儀式なのでしょうか?お恥ずかしいことですが、私の知識にはありませんでしたのでよろしければ教えていただけますでしょうか?……その、オーレオール・オメガは知っているようだったので気になってしまいまして……」
珍しく、本当に恥ずかしそうにそう口にするデミウルゴスに、悟の笑みが深くなる。
(あぁ、知恵者として創られたのに知らないことがあるって確かに恥ずかしいだろうなぁ。でもまぁ、ちゃんと分からない事は分からない、って訊けるあたりデミウルゴスは優秀だよなぁ……)
と、そんな事を考えて微笑ましくデミウルゴスを見守る悟だったが、いたたまれなさそうに身を縮こまらせているデミウルゴスを見て、ほんの少しあった悪戯心を消してちゃんと答えを教えてやることにした。
「あぁ、花見とはな、私やウルベルトさんの故郷の行事のような物だな。オーレオール・オメガの制作者の彼も同郷だからな、彼女に故郷の衣装を着せているし……それで彼女は知っていたんだろう。……この木だがな、”桜”と言うんだ。春にこのような可憐な花を咲かせる木で……私の故郷の者は、皆この花が好きでな、春になるとこの木の下で宴会を開くのだ。それを、花見と言う。花を見ながら静かに酒を呑んだり、仲間と騒いだり……楽しく過ごすのがルールだな」
「アインズ様と、ウルベルト様の故郷の花……!こちらの木はそんな高貴な物だったのですね。ですから、この最も大切な階層に配しているのですか」
「そうかもしれないな。それは、今となってはオーレオール・オメガを創った彼にしか分からない事だが。……もっと落ち着いたら、この木を魔道国に移植出来たら良いのだが。そうすれば、いつか仲間達がこちらに来た際にも楽しんで貰えるだろうしな」
そう、悟が小さく呟く。だが、デミウルゴスはしっかりと聞いていたようで。尻尾をブンブンと派手に揺らしながら口を開いた。
「アインズ様!その役目、是非私にお任せ下さい!私も、ウルベルト様の故郷の花を愛でたいと思います」
「あぁ、構わないぞ。お前は本当にウルベルトさんが好きなんだな。ウルベルトさんもお前のような出来の良い息子が居て誇らしいと思っているだろう」
小さな子供が「お父さん大好き!」と言っているような無邪気さをデミウルゴスの言動から感じ、悟は自然と笑顔になっていた。
「あ。デミウルゴス、ここからは飛行じゃないとマズイ。罠に引っかかるからな。悪いが私を持ち上げて生命の樹まで運んでくれ」
桜花領域の端。桜が途切れ途切れになった辺りで悟は歩みを止めそうデミウルゴスに命じる。このまま進むと罠が起動し、秘蔵のアレが侵入者を迎撃するのだ。流石にレベル100の時のアインズでも勝率が三割以下のソレと戦う気にはなれず。悟はデミウルゴスに抱えられて生命の樹まで移動した。
「これはこれはアインズ様!」
生命の樹の前でふよふよと浮いているヴィクティムは、相変わらずの可愛らしい声でそう言うと、ぺこり、と小さく一礼する。
「ご足労頂きありがとうございます。本日はどういったご用件でしょうか?」
「……お前もオーレオール・オメガも、私の姿が変わっていることに関してはノータッチなのだな」
あまりにもいつもと変わらない両名に、ちょっと不思議に思いつつ悟がそう言うと、ヴィクティムは空中で小さな手足をちたぱたさせながら喋る。
「アインズ様はどのようなお姿になってもアインズ様です。アインズ様にお仕えする我々が、それくらいで態度を変える方がおかしいのです」
(やっぱり可愛いなぁヴィクティム。癒しキャラとかマスコット的な感じだよなぁ……)
その愛らしい動きにほっこりとしつつ、悟はいつものように支配者ロールで礼を返す。
「そうか。お前の忠心、ありがたく思うぞ」
「勿体ないお言葉でございます、アインズ様!」
パタパタと小さな羽根をはためかせ、そう言うヴィクティムは色々あって疲れていた悟の心を癒やしてくれる。ぬいぐるみみたいに抱っこしたい、と一瞬思ってしまったが、悟は何とか踏みとどまる。
「八階層も変わりが無いようで何よりだ。ヴィクティム、これからも守護を頼むぞ」
「かしこまりました、アインズ様!」
嬉しそうにそう言うヴィクティムに悟は小さく頷くと、デミウルゴスを振り返る。
「さて。次はお前の守護する七階層だが……。炎以外に用意する耐性はあったか?」
「ございません。私の階層は炎と熱がメインダメージになりますので、炎に対する耐性のアイテムを身に着けていれば特に問題は無いかと。私も付き従いますし、何も危険はございません」
そう言うと、デミウルゴスは悟に向かって優雅に一礼する。その尻尾は、相変わらず嬉しげに揺れている。
「そうか。では、問題無いな。デミウルゴス、手を」
「は、はい!」
悟は緊張したような声でそう返すデミウルゴスの手を掴むと、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで七階層へと転移した。
「……ここに来るのも久々だが……相変わらず明るいな、ここは。炎の灯りか」
「はい、アインズ様。この階層は常に炎やマグマが絶えませんので……視界は良好な方だと思います」
全てが赤く染まったそこは、人間が一般的に想像する地獄に最も近い。数多くの悪魔が生存し、通常は人間が生存することが難しいくらいの高温の空気が満ちた場所。……それが、悪の大魔法使いで大悪魔”大災厄の魔”ことワールド・ディザスターのウルベルト・アレイン・オードルが創造した世界だった。まるで常に夕暮れ時のような、赤い色の世界。そこはその熱のために土壌が荒廃しきっていて、か弱き生物が暮らせる環境では無かった。……だが、悪魔達にとっては別である。悪魔はその大半が炎に対する耐性を持っているため、この灼熱地獄でも何ら気にせず普通に暮らしていた。
「アインズ様、デミウルゴス様。お待ちしていました」
悟たちにそう声を掛けたのは、デミウルゴスの配下の魔将たちだ。今の悟の三倍はありそうな巨大な体躯の悪魔がズラッと並んで跪いているのは中々に壮観である。
「お前たち、頭を上げよ。今日は散歩に来ただけだからな、あまり畏まらず普段通りに過ごしてくれ。私はいつものお前たちが見たいのだ」
微笑みながら悟がそう言うと、魔将たちは戸惑った様子で悟を見つめる。
「……アインズ様の御命令だ。いつものように入口の守護をしたまえ。シフト通りに見回りもしているのだろう?アインズ様はお前たちのそういった仕事ぶりを見たいと仰っているのだ。さぁ、持ち場に戻れ」
デミウルゴスがそう言うと、悪魔達は慌てて方々に散る。……彼の性質をきちんと理解しているが故だ。
「シフトか。随分ときちんとしているんだな、デミウルゴスの階層は」
感心したように悟がそう言うと、デミウルゴスは誇らしげな顔で口を開いた。
「はい、先日アインズ様が仰っていた通りきちんと部下に休養を取らせておりますので、最も効率が良いシフト制にしております」
「それは素晴らしいな!私の部下は皆勤勉だが……休むことも仕事であると、きちんと認識している者はどれくらい居るのやら。デミウルゴス、お前もだぞ?きちんと休養を取り、常に最高のパフォーマンスで仕事をするのが出来る男と言うものなのだから」
と、どこかのビジネス書にでも載っていた言葉をそのまま悟は口にする。すると、デミウルゴスは感極まったような顔で深く頷く。
「アインズ様のお言葉、しかと胸に刻ませていただきます。……ですが、今は非常事態ですので、暫くはアインズ様にお仕えしたいと思います。どうか、お許し下さい」
そう言うと、デミウルゴスはその場に跪く。
「……まぁ、仕方ないか。ではデミウルゴス、事態が収拾するまでは傍仕えを命ずる。ただし、事が終わったら必ず休みを取るのだぞ?分かったな?ウルベルトさんのような大悪魔は、あくせく働かないものだ。お前も最上位悪魔なのだから、適度に休養を取るのだ」
悟はそう言うと、デミウルゴスの頭を軽く撫でる。
(ウルベルトさんの息子をブラックな環境でこき使うなんて俺には出来ないしなぁ……ちゃんと休む習慣を付けてくれたら良いんだけど……)
「ア、アインズ様……!?」
動揺のあまり、思わず目を開いたデミウルゴスは、宝石の瞳で悟をジッと見上げている。
「あぁ、すまないデミウルゴス。お前はアウラやマーレのような子供ではないものな、撫でられても嬉しくなかろう。さぁ、立ってこの階層を案内してくれないか?ウルベルトさんがお前のために創ったこの階層を、きちんと見ておきたいのだ」
そう言って差し出された手に恐る恐る触れて立ち上がると、デミウルゴスは悟に一礼する。
「かしこまりました、アインズ様。ウルベルト様の創造されたこの地に最も詳しいこの私が隅々までご案内致します」
その尻尾は、先程よりも激しく左右に揺れていたのだった。