JR東日本が「自動運転」を検討する深刻事情
ベテラン大量退職で運転士が不足する見込み
JR東日本が、山手線や東北新幹線などで、運転士がいない自動運行の導入へ向けた検討を始めたことが分かった。ベテラン乗務員の大量退職で、将来的に運転士や車掌などの不足が見込まれることに対応するのが狙いだ。すでに社内にプロジェクトチームを設置しており、技術開発を加速化させる。
JR東が検討しているのは、列車に運転士が乗務せず、自動で運行するシステムの開発だ。第1段階として、緊急時の対応などのために車掌のみが乗車することを目指す。将来の完全無人の自動運行も視野に入れる。
国内では、当初から線路内に人が立ち入らない構造で設計された新交通システム「ゆりかもめ」などで、無人の自動運行が行われている。JR東海が現在建設中のリニア中央新幹線は、運転士が乗務せずに運行する予定だ。
一方、既存のJRや私鉄の路線は踏切などが多く、事故防止の観点から自動運行の導入は難しいとされてきた。無人運行を行うには、ゆりかもめなどで行われている高架化や、ホームの天井まで届く密閉型のホームドアの導入など、追加の安全対策を講じる必要がある。
このため、JR東は、他の路線からの乗り入れがない山手線や、すでに大半が高架となっている東北新幹線への導入を想定する。地方の赤字ローカル線に導入してコストを抑え、路線網の維持に役立てる構想もある。
ただ、実現には課題も多い。進路上の障害物を検知する高精度のセンサーは現在の技術では応用が難しく、新たに開発する必要がある。人間が五感で判断していた異音や異臭も、機械で判別しなければならなくなる。
法整備も課題だ。国土交通省によると、既存の路線で無人運行を導入するには、鉄道営業法に基づく設備や運行条件などに関するルール(省令など)の見直しが必要になる。
JR九州も自動運行の導入に向けた検討を進めていることから、国交省は今後、ルール改正も視野に検討を進める考えだ。
こうした動きの背景には、将来の人手不足への危機感がある。JR東の場合、2017年4月時点で、55歳以上の従業員が約4分の1を占めるのに対し、旧国鉄の分割・民営化で採用を抑えた45~54歳は全体の1割程度と極端に少ない。これから大量退職が本格化することから、乗務員の確保が経営課題となっている。