トランプ米大統領が仕掛ける貿易戦争は世界貿易機関(WTO)の行き詰まりを明らかにする一方で、その役割の重要性を再認識させている。日本は率先し自由貿易を守るための改革を急ぐべきだ。
多国間貿易体制を守るためにはWTO改革が不可欠-との考えは七月十六日、北京で会談した中国と欧州連合(EU)の首脳が共同声明で強調している。WTOに否定的なトランプ大統領でさえ中国やEUの対米報復に対しWTO提訴の手続きを進めている。
米中欧の駆け引きの面はあるが「現在の国際社会で貿易のルール作りと紛争解決機能があるのはWTO」という共通の認識が存在することを改めて示している。
WTOの前身で戦後の自由貿易を支えた関税貿易一般協定(ガット)は、一九九四年に終結したウルグアイ・ラウンドまでの数次の交渉(ラウンド)で関税引き下げなどの自由化ルールで合意。多くの参加国が利益を得ることで国際機関としての信認を確立した。
ところが九五年にWTOに衣替えして最初のドーハ・ラウンドは十七年を経ても決着せず、逆に信認を失いつつある。
参加国・地域が百六十四まで拡大したことによる利害の錯綜(さくそう)。関税の次のテーマであるグローバル化、デジタル化時代のルール作りの停滞による求心力の低下。
紛争解決機能も政府の補助金、外国企業への技術移転強要など中国の「国家主導型市場経済」が抱える問題を是正できず、米中の直接対決になっている。そして底流には先進国で貧困を進行させた自由貿易そのものに対する不信、反発の広がりがある。
日本が取り組む環太平洋連携協定(TPP)などの地域協定はWTOの補完として認められている。もしWTO体制が崩壊すれば地域協定は要を失い、他を排除するブロック化、保護主義の組織に転じかねない。
改革では、乱立気味の地域協定を連携してWTOにつなぐ大きな方向がある。具体策としては「全会一致」原則による行き詰まり打開のためテーマごとの有志国交渉方式。デジタルなど新分野のルール策定による求心力の回復。補助金や技術移転強要の解決などが対象となるだろう。
WTOは戦後の自由主義、民主主義を経済面から支える国際公共財。その恩恵を受けてきた日本には先頭に立って改革を進める役割と責任が当然ながらある。
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