超大国の理不尽な弱い者いじめだ。米国がイラン核合意離脱に伴う措置として経済制裁を一部復活させた。緊張をあおって中東情勢を一層混迷させるだけである。イランを追い詰めるのは危険だ。
米国が七日に再発動した制裁は自動車や鉄鋼などの取引を禁じる内容。イラン経済の柱である原油を標的にした制裁が再開されるのは十一月だ。トランプ大統領は原油禁輸に同調しないと制裁対象と見なす、と各国を脅している。
これが油価上昇に拍車を掛けた。車社会の米国では夏休みシーズンはガソリンの需要が増える。ガソリンの値上がりは国民の不興を買う。
そこでトランプ氏はサウジアラビアのサルマン国王に増産を要請した。自分が引き起こした波紋に慌てて弥縫(びほう)策に走る。トランプ流の場当たり政治である。
圧力をかけ続ける一方で、トランプ氏はロウハニ・イラン大統領との会談に意欲を見せている。北朝鮮への対応と同じ手法だ。だが、トランプ氏が自画自賛する米朝首脳会談は非核化の道筋をつけるには至らなかった。
それに核兵器を保有する北朝鮮と違い、イランは米国の直接の脅威になっているわけでもない。
核合意はイランが経済的な孤立から脱する機会も与えた。今やその流れが逆転した。米国の二次制裁を恐れて欧州企業のイラン撤退が相次ぐ。通貨リアルは急落して物価は上昇、反政府デモが続発している。
核合意を進めた改革派のロウハニ師は苦しい立場に追い込まれ、逆に反米強硬派の勢いが増している。本来ならイラン社会の変革を促す方が米国の利益にかなっており、現状は望ましくないはずだ。
トランプ氏の強圧姿勢は十一月の中間選挙をにらんで、反イラン感情の強い保守派の支持狙いの色彩が濃い。選挙対策が外交を歪(ゆが)めていると言わざるを得ない。
経済苦境が続けば、強硬派の圧力に抗しきれなくなったロウハニ政権が、核合意を破棄して核開発の再開に踏み切る可能性は否定できない。
その場合、米国は力に訴えてでも阻止するつもりなのか。圧力政策は米国自身も追い詰めかねない危険をはらむ。
輸入原油の九割近くを中東に依存する日本にとって、中東の安定は極めて重要だ。安倍政権はイランの再孤立化を防ぐため、欧州と歩調を合わせて米国への働き掛けを強めてほしい。
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