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【社説】

地上イージス 巨費投じる妥当性欠く

 地上配備型迎撃システムの導入経費は三十年間で約四千六百六十四億円に上る。緊張緩和の流れに逆行し、二カ所の配備候補地には反対・慎重論もある。巨費を投じる妥当性を欠くのではないか。

 冷戦終結後、減少傾向にあった防衛費は安倍晋三首相の政権復帰後、厳しい財政事情にもかかわらず増え続けている。二〇一三年度以降、六年連続の増額で、過去最大の更新も四年間続く。

 概算要求に向けた作業が進む一九年度防衛費も、米軍再編関連経費などを含め過去最大の五兆三千億円程度となる見通しだ。

 安倍内閣は、北朝鮮の核・ミサイルや中国の海洋進出などへの対応を防衛費増額の理由に挙げてきた。米国から購入する地上配備型迎撃ミサイル(イージス・アショア)も北朝鮮対応を名目とする。

 しかし、六月の米朝首脳会談を受け、日本政府は北朝鮮からミサイルが飛来する可能性は低いと判断し、北海道や中国・四国地方に展開していた地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊の撤収を始めている。緊張緩和の流れにある中で、迎撃態勢を逆に強化するのは矛盾ではないのか。

 さらに問題なのは、イージス・アショアの導入経費が見込みより大幅に膨らんだことだ。当初は一基八百億円と見積もっていたが、防衛省の七月三十日の発表では千三百四十億円に増えた。

 三十年間の維持・運用費を合わせると二基で約四千六百六十四億円。ミサイル発射装置や用地の取得費は含まれておらず、全体ではさらに膨れ上がるのは必至だ。

 イージス・アショアが、米国が価格や納期の設定に主導権を持つ対外有償軍事援助(FMS)調達に基づいて導入されることも、経費が大幅に膨らむ要因だろう。

 トランプ米大統領は同盟国に軍事費増額と米国製武器の購入を求めている。安倍政権は高額の防衛装備品を導入することで、要求に応えようとしているのか。

 政府は地上イージスを秋田、山口両県の計二カ所に配備し、日本全体をカバーする計画で、地元との調整に入っている。

 しかし、イージスシステムは強力な電磁波を発し、健康被害も心配される。攻撃対象になる可能性も否定できない。配備候補地の周辺住民が懸念するのは当然だ。

 国民を守るべき防衛装備が、国民を危険にさらしては本末転倒だろう。地元の懸念を顧みず、暮らしを踏みにじってまで導入を進めることがあってはならない。

 

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