南シナ海の紛争防止に向けた「行動規範」草案がまとまった。軍事拠点化を進める中国は「進展」を強調するが、東南アジア諸国連合(ASEAN)分断による時間稼ぎでないのか、懸念が強い。
ASEANと中国の外相会談が今月初め、シンガポールで開かれ、行動規範の草案を承認した。
中国の王毅外相は会談で「行動規範を共に協議したことで大きな進展が得られた」と述べた。
だが、草案は関係国の主張する項目を列挙したものであるという。合意期限も示されておらず、中国が表面的な「進展」を隠れみのに、南シナ海の実効支配と軍事拠点化を続けることが心配だ。
二〇一六年に国際仲裁裁判所が南シナ海で中国が主張する権益を退けた後、中国は表向きは行動規範の策定に前向きになった。
だが、行動規範に法的拘束力を盛り込むことは実現していない。ベトナムなどが強く求めるが、中国が反対しているからである。
南シナ海での紛争防止や秩序維持には、法的拘束力の裏付けのある国際ルールとしての行動規範が不可欠である。中国の動きは行動規範を骨抜きにしようとするものだと批判されても仕方がない。
中国の強引な海洋進出に対し、ASEANの足並みがそろっていないことも気がかりだ。
外相会議の共同声明は「埋め立て活動に対する複数の懸念に留意」と明記し、名指しを避けながらも人工島を造成し軍事拠点化を進める中国をけん制した。だが、ベトナムが要求した「軍事化」という強い表現は入らなかった。
ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが中国と南シナ海の領有権を争う。だが、巨額の経済協力を通じ親中派に転じたフィリピンが議長国だった昨年のASEAN首脳会議では、共同声明に「懸念」の文字はなかった。強権的な独裁政権が中国から多額の経済支援や投資を受けているカンボジアは、この問題で中国寄りの主張を続けている。
中国は「外部からの邪魔を排除できれば行動規範の交渉は促進する」と強調。「航行の自由」作戦を続ける米国を排除し、ASEAN分断により自国ペースで交渉を進めようとしている。
だが、南シナ海はASEANだけでなく、日米にとっても重要な海上交通路である。中国の「力での現状変更」に対抗できる国際ルールの早期策定に、日本政府もASEANを後押ししてほしい。
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