英国のメイ政権は欧州連合(EU)からの離脱を、EUとの協調を重視するソフト路線で進める方針を決めた。反発した閣僚らは辞任したが、期限は迫る。政治家のリーダーシップを見せてほしい。
EU単一市場や関税同盟からは表面的には脱退するものの、モノの取引に限定したEUとの自由貿易圏をつくる。北アイルランドと地続きのEU加盟国アイルランドとの間には税関を設けない-との路線。北アイルランドの帰属を巡って一九六〇~七〇年代に激化した紛争の再燃を防ぎ、EUとの交渉をスムーズに進めるのが狙いだ。
離脱交渉の期限は来年三月末。今年十月までに実質的な交渉をまとめなければ間に合わない。
しかし、ソフト路線に反発するジョンソン外相、デービス離脱担当相が辞任した。EU単一市場からの完全な離脱を主張する強硬離脱派だ。ジョンソン氏は、二年前の国民投票で離脱キャンペーンをあおった張本人。途中で投げ出すのは無責任過ぎる。
本来なら「離脱すれば巨額の資金を国営医療制度に回せる」など事実に基づかないキャンペーンで離脱への賛成多数を獲得した国民投票を、やり直すのが筋だろう。
最近の英紙サンデー・タイムズの世論調査では、仮に投票を再び実施した場合、半数がEU残留を望むと答えている。強硬離脱を選んだのは38%だった。
しかし、再投票への世論づくりが間に合わないのなら、メイ首相が主張するソフト路線のほうが、強硬離脱よりまだ混乱は少ないのではないか。あるいは、首相の責任と決断で再投票にかけるか。リーダーシップを示してほしい。
交渉が時間切れとなり、EUと取り決めのないまま離脱するのは何としても避けたい。EUとの安定した関係を望むスコットランド独立や、英進出外国企業撤退など予想される混乱は計り知れない。
気になるのは、英国を訪問したトランプ米大統領の発言だ。EUを敵呼ばわりし、英国は交渉ではなく、裁判に訴えるべきだと主張する。英国や欧州の分断を楽しんでいるかのようだ。
エリザベス女王は、EU離脱についてトランプ氏に「とても複雑な問題だ」と語ったという。迷走に心を痛めているようだ。
EUは英国のソフト路線を「いいとこ取り」と警戒するが、交渉には柔軟に対応すべきだ。硬直した官僚的な姿勢こそ、EU離脱を招いた元凶なのだから。
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