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【社説】

水道法改正 市場開放ありきは危険

 海外の巨大資本にも市場を開く水道法の改正案は、衆院を通過した後、参院で時間切れになった。次の国会では慎重な議論を望みたい。水を守るということは、命を守るということでもあるからだ。

 水道法改正案は、水道事業の経営基盤強化の名の下に、事業者に施設の維持と修繕を義務付けるとともに、官民連携や広域連携を促す内容だ。

 政府は次の国会で成立を図るだろう。

 現行の水道法は「水道事業は、原則として市町村が経営するもの」と定めている。例外はあるものの、そのほとんどが公営だ。

 財政難にあえぐ多くの事業者すなわち自治体が、老朽化する水道管など施設の維持、管理に困っているのは否めない。

 法定耐用年数の四十年を超える老朽水道管の割合は、東京都が13・5%、愛知県が16・6%、大阪府では三割近くに上っている。

 六月の大阪府北部地震では、水道管の破断による断水が多発し、老朽化の実態があらためて浮き彫りになった。対策が急がれるのも確かである。しかし、人口減による料金収入の目減りなどもあり、更新はままならない。

 そこで民間の参入を促進し、経営の改善を図るのが、改正案の“肝”らしい。

 具体的には、自治体に施設の所有権を残しつつ、事業の運営権を民間に委ねる仕組み(コンセッション方式)の導入だ。

 これに対し、水や空気、穀物の種子などのように、人がそれなしでは生きていけない「社会的共通資本」を市場経済に委ねることへの懸念も次第に強まっている。

 世界の民営水道市場は、下水道も含め「水メジャー」と呼ばれる仏英の三大資本による寡占状態。このほかにも、米国のスーパーゼネコンなどが日本市場の開放を待っている。

 フィリピンの首都マニラでは、民営化によって水道料金が五倍になった。南米のボリビアでは、飲み水の高騰や水質の悪化に対する不満が大規模な暴動に発展した。

 改正案には、民間の運営に対するチェック機能の定めがない。マニラやボリビアのようにはならないとの保証はない。

 一方、北九州市のように、隣接自治体との事業統合により、料金の値下げや緊急時の機能強化に成功した例もある。

 市場開放ありき、の法改正はやはり危うい。広域連携を軸にした、さらなる熟議が必要だ。

 

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