この夏の気候は異常ですが、この人の“奇行”も世界の大問題です。トランプ米大統領。でも、なぜか支持率は堅調。その辺、わが宰相とも重なる気が。
トランプ氏の行跡には、多くの人の口をあんぐりとさせるようなものが少なくありません。
最近では、まず貿易戦争でしょうか。日本も対象になった鉄鋼・アルミの輸入関税に続き、中国を対象にした大規模な制裁関税にも踏み切りました。中国や欧州連合(EU)も報復関税で対抗しています。
◆揺らがぬトランプ支持
トランプ氏の保護主義的姿勢は世界経済の下振れ要因となっており、このままいけば、日本経済もその側杖(そばづえ)を食うのは必定。自動車への追加関税が現実になれば、目も当てられません。「アメリカ・ファースト」の宣伝になりそうな策なら手当たり次第の感。長く自由貿易体制をリードしてきた大国の面影は急速に薄れています。
「イラン核合意」からの離脱と経済制裁の再発動も、しかり。反発したイラン指導部が最近、石油海上輸送の要衝・ホルムズ海峡封鎖の可能性を示唆し、それをトランプ氏が強く非難するなど、両国関係は急速に悪化。世界情勢にまた一つ、すこぶるやっかいな火種を作り出しています。
今月半ばの米ロ首脳会談後の記者会見にもあきれました。自国の情報機関が先の大統領選へのロシアの介入を断定したのに、プーチン大統領を横に置いてこう宣(のたも)うたのです。「プーチン大統領は『ロシアではない』と。だから、こう言おう。ロシアがやった(・・・)という理由は見当たらない」
米メディアによれば、米国内の反発は強く、「裏切り者」など激烈な言葉も飛び交ったようです。するとトランプ氏、「ロシアがやっていない(・・・・・・)という理由は見当たらない、と言うべきだった」と荒っぽく発言を修正。ところが、その後また、ロシア介入疑惑は「でっち上げ」とツイートし…。もう、はちゃめちゃです。
さすがにトランプ氏の支持率は急落、かと思いきや、さにあらず。米ロ首脳会談後発表の米メディアによる世論調査によれば、40%台半ばと堅調です。ワシントン・ポスト紙は、会談への評価は低いが政権への深刻な打撃になったとは言えない、と分析しました。
ニューヨーク・タイムズ紙(国際版)には、こんな記事が。
「『今回、ついにトランプは一線を越えた! 彼は“済み”だ! 彼は終わりだ! 彼はおしまいだ!』。このフレーズを何回書いてきたことか…しかし、今度も彼はまだ終わっていない」
◆「防弾仕様」の政権
通商でも安全保障でも、トランプ氏の“思想”とは、「他国がずるをして米国が損をしている」という、ほぼ根拠のない子供じみた思い込み。それを基に横紙破りや乱暴な政権運営を繰り返し、その都度、非難や批判を浴びるのに政権は揺らがない。あの会談で北朝鮮の金正恩委員長に自慢した専用車ビーストみたいに「防弾仕様」の政権かとさえ思えてきます。
米メディアは、トランプ氏が同盟関係にあるEUを「敵」呼ばわりしたり、ロシアの脅威に対抗すべき北大西洋条約機構(NATO)の一体感を壊すような言動をする一方で、中国の習近平主席、プーチン大統領、金委員長には親近感をにじませる、と指摘しています。もしや、うらやましい? 確かに「最強の防弾仕様」の政権とは独裁政権でしょうから。
幸いトランプ氏のようなはちゃめちゃぶりはありませんが、わが安倍晋三政権にも似通ったところがあります。
国民の疑念を置き去りにして森友・加計疑惑をかわし続け、相次ぐ政府の不祥事にも政治は責任をとらぬまま。国民に反対が根強い法律も強引にいくつも成立させてきました。ついに今国会では、カジノ法、働き方関連法、参院六増法と三つも一度に。さすがに直近の世論調査で少し数字は下げましたが、深刻な打撃には遠く、トランプ氏に近い支持率を維持しています。「政権が二つ三つ倒れてもおかしくない」と評されるほどの無理、強引な政治を繰り返して、なお、これ。はや自民党総裁三選確定の声さえ聞こえてきます。やはり「防弾仕様」でしょうか。
◆もっと強引でも許される
安定政権といえば安定政権。それには、いい面も無論あります。しかし、トランプ政権にしろ、安倍政権にしろ、一番心配なのは、権力の側に、こう思わせてしまわないか、ということです。
これだけ大胆にやっても大丈夫なら、もっと強引にやっても許される。さらに無理しても…。
その先には一体、何が? 民意を酌み、異論に心を配り、取るべき責任は取る誠実な政治が待っている-とは、到底思えません。
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