写真=iStock.com/Sidekick

写真拡大

人生100年時代、定年後の資金計画に不安が増す。そんな現役世代の頭をよぎるのが「稼げる資格」。絶対安心からお手軽な資格まで、あなたに一番合った資格取得への道を探せ!

■未来の自分のために、いまから始めよう

資格は、会社から独立するときや、定年退職後の稼ぎ口を考えるときに武器となるもの。だが、いつ、どのタイミングで、どのような資格を取るべきか。資格コンサルタントで、自身も520を超える資格を保有する鈴木秀明氏はこう話す。

「資格が必要になってから急に勉強し始めるのでは遅い。人に先だって勉強して、いざというときの備えとして、早いうちに資格を取っておくべきです。また、多くの人がいまの仕事に直結するものを取りたがる傾向にありますが、いますぐ必要ではないスキルこそ、余裕があるうちに身につけておいたほうがいいですね。たとえば、仕事で突然、必要になるスキルもある。あるいは、資格の有無が人事の決め手になるケースもあります。人との差別化のためにも、資格は早めに取得しておきましょう」

どの資格を取るか考える際にも、いくつかのポイントがある。

「一発逆転を狙って、縁のない分野にいきなり飛び込むのは、あまり現実的ではありません。職歴と直結していなくてもいいので、得意分野を活かして、何かに繋げられそうなものを狙うといいですね」

■攻守の資格が、仕事人生を支える

資格にもトレンドがある。いま、役立つ資格は何か。また、この先、大きな可能性を秘めた資格は何か。鈴木氏によれば、トレンドの資格は大きく2種類に分類できるという。企業で生き残っていくための備えとして取得しておきたい「守り」の資格と、ビジネスチャンス創出のきっかけになる「攻め」の資格だ。

「守り」の資格としておさえておきたい代表格は、「情報セキュリティマネジメント試験」や「メンタルヘルス・マネジメント検定」だ。

「専門性の高いスキルではなくても、人より早く知識を身につけているだけで職場で重宝される資格の代表例です。『マイナンバー実務検定』も近年注目の資格のひとつです」

「メンタルヘルス・マネジメント検定」は、職場で年1回のストレスチェックが義務化された動きもあり、注目されている資格。マネジャーに昇進するためにはこの検定に合格していることが必須の企業もある。対象別に3種の試験区分があり、I種とII種、あるいはII種とIII種は同日受験も可能。このように、検定によっては同日に複数の級を受験可とするものがあるので、短期集中で勉強をして、1度に同一資格の複数の級を受けてしまうのもうまく資格を取得していくコツだ。

最新の「攻め」の資格としては、「無人航空従事者試験(ドローン検定)」「3Dプリンター活用技術検定」「IoT検定」が挙げられる。

「ビジネスでホットな話題をテーマとした資格ですね。テーマ自体の今後の進化が間違いない一方、未知数な部分も多いです。早めに勉強して知識を身につけておくと、事業の新展開を考えるための材料やきっかけになります」

注目されているのは「インバウンド実務主任者」だ。学習内容には、インバウンドの現状や、訪日外国人の理解と対応などが含まれている。

「増加する訪日外国人に対応できる人材を育成することを目的とした資格です。Airbnbなど、個人レベルでインバウンド収入を考えるときにも役立つ内容です」

■期待値大 取って損はない「旬の資格15」

副業という観点からおさえておきたいのが、「ウェブ解析士」だ。ウェブマーケティングやウェブ解析の知識が身につく。

「ブログやアフィリエイト、ウェブライターを副業にする場合、ウェブ解析の知識は非常に役立つノウハウ。勉強しておいて損はないでしょう」

次々と新しい資格が登場するが、世間的な評価が定まってから取得したほうがいいのではないかという疑問に、鈴木氏は首を横に振る。

「資格試験は、一般的に創設されてから歴史が浅い時期ほど合格しやすいもの。何年か続いていくと、ある年にいきなり試験の難度が高くなったり、一気に合格者数が絞られたりすることもあるので要注意です」

しかし、時代のニーズに合わせて誕生した比較的新しい資格でも、取得難度が高いものもある。たとえば「ITストラテジスト」は、ITを企業経営に活かす考え方ができることを示せる資格で、文系でも取得可能だ。今後、経営層に食い込みたいと考える人は取得を視野に入れたい。

また、「財務報告実務検定」は、簿記ベースの連結会計や投資家へのディスクロージャーなどIR実務に特化した知識が身につく。取得が難しいものは、会社で同僚と差をつけたり、稼ぎに繋げたりできる可能性も高い。どの資格を取ろうか迷っている人は、候補のひとつとして自分との相性を検討してみてほしい。

■稼げる士業・稼げない士業「定番資格15」

一方、昔から人気の高い定番資格はどうだろうか。

在職中から退職後まで長く活用していけるのは、「簿記」だ。

「一般的に評価されやすい資格の筆頭です。ビジネスで重要なのは会計リテラシー。経理部の人だけではなく、営業職や企画職でも、簿記の知識を身につけておけば強みになる。決算書の読み方などが身につくので、ビジネスの採算管理や経営分析に役立ちます。自分の仕事が会社の利益や、売り上げ、企業活動にどう反映されるのかもわかります。独立して経営者になるにしても、会社に残って昇進するにしても、簿記検定2級程度の知識は身につけておくべき」

その他、「電気主任技術者」というビルや電気設備のメンテナンスで非常に高く評価されるような資格もある。実用性の高い資格が、自分の業務に関連する範囲に潜んでいないか、チェックしてみてほしい。

定年や早期退職後の独立開業を視野に入れるなら、士業は手堅く思えるが、落とし穴はないのだろうか。鈴木氏は、戦略的に取得・活用すべきと指摘する。

「士業のなかには、落ち目になりつつあるものも多いです。IT化で、10年後には仕事がなくなる可能性もある分野が増えている。間違いなくお金になると思われてきた税理士や司法書士でさえも、単に手続き業務をしているだけでは危うくなるでしょう。『資格を取れば安心』ではなく、どう活かすかが鍵になる。コンサルティング力や専門的ノウハウを磨くなど、自分なりに資格活用の戦略を立てるのがポイントです」

士業のなかでも、応用がきく有用な資格は、経営コンサルティング分野で唯一の国家資格である「中小企業診断士」だ。

「税理士はお金、司法書士は土地や法律、弁理士は特許と、扱う分野が限られています。しかし中小企業診断士は守備範囲が広く、幅広い分野で活躍できる。難度は高いですが、応用性のある資格ですね」

■賢い人は「数珠繋ぎ」受験で、効率よく取得

士業の資格は魅力的だが、試験が難しいのが悩みどころ。こういった難関資格は、関連する分野の入門的な検定を入り口に、数珠繋ぎ式に資格を取っていく方法もある。

「私も中小企業診断士の資格取得の際には、会計・経済・法律など幅広い分野の知識が問われるので、すでに持っていた『簿記検定』や『経済学検定』の知識を活かしました」

たとえば、「証券アナリストCMA」にたどり着くには、比較的誰でも受験しやすい「ファイナンシャル・プランニング(FP)技能検定3級」を入り口にするのがおすすめだ。

また、行政書士、司法書士、宅建士など法律のエキスパートになるには、「ビジネス実務法務検定3級」がいいだろう。合格率は6~8割、試験は年2回と、挑戦しやすい。さらに、検定の勉強をすることによって、ビジネス上のトラブルや不祥事を防ぐ知識が身につき、社会人として必要な心得が身につくのも利点。ビジネスパーソンにとって身近な事例を扱うため、勉強内容も具体的にイメージしやすいはずだ。この3級をスタートにして、2級へ進み、徐々にステップアップしてみては。

関連する資格を持っていることによって、他の試験が一部免除になることもある。これも、数珠繋ぎ式に資格を取るメリットのひとつだ。たとえば「測量士補」の資格は、「土地家屋調査士」の一部試験免除に、ほかには「応用情報技術者」の資格は、「弁理士」の試験で一部免除になる。このように、最終的にたどり着きたい資格を意識しながら、難度の低い順に試験を受けていくのも効果的だ。

■資格取得で得られる「6つの副次的効果」

そもそも、資格取得によっていったいどのようないいことがあるのだろうか。鈴木氏は次の6つの効果を挙げる。

(1)法的効果
弁護士や医者のように、その資格がないとできない仕事に就ける。あるいは、宅建士や衛生管理者、薬剤師といった、法律上、事業所内に資格保持者を何人か置かなくてはいけない職場に転職する際に有利になることも。

(2)シグナリング効果
「名称独占資格」といって、中小企業診断士のように、資格を持っていないとできない仕事があるわけではないが、持っていれば肩書として名乗れる資格がある。また、資格を持っていることで自分のスキルや能力を客観的に示せる「シグナリング」の効果がある。
「自分が何かに秀でていることを積極的に証明したい場合は、やはり資格を見せるのが一番わかりやすいですよね。たとえば、マイナンバーに関する知識が豊富だったとしても、ただ口で言うだけではどの程度詳しいのか伝わりにくい。もしそこで『マイナンバー実務検定で合格した』と言えれば、一言で相手から信頼してもらえます」

(3)コミュニティ効果
資格を取ると、その分野における高いレベルの人脈のコミュニティに所属することができる。
「たとえば、税理士など士業には、『○○士会』がありますし、民間資格でも、資格所持者だけが所属できるコミュニティがある場合も」
質の高い人脈や、共通の趣味嗜好を持っている人とのネットワークができ、情報交換も期待できる。

(4)学びの効果
資格取得に向けた勉強をすることで、仮に合格できなかったとしても、その分野の知識を身につけることができる。ビジネス書や専門書を読んでも、漫然と知識が流れていってしまって記憶に残らなかった経験はないだろうか。資格試験に向けて集中して勉強すれば、効果的にインプットできるのだ。

(5)経済的効果
「細かい話ですが、たとえば、ご当地検定に合格すると、その地域の一部施設で割引が受けられることもあります。あるいは、『パンシェルジュ検定』を取ると、提携しているパン屋さん等で優待が受けられます」
ご当地検定は、全国津々浦々の自治体などに存在している、その土地の文化や歴史、観光にまつわる知識を測る検定。自分の出身地にも検定ができていないか探してみると、資格取得も楽しくなるかもしれない。

(6)精神衛生上の効果
資格を取ると自信につながり、さらに安心材料にもなる。
「日々の仕事や転職活動をするうえで、資格を持っていることが自分の心の支えになることもあるでしょう」

これら6つの効果に加えて、日常の思いがけない場面で資格が役に立つことも。

「資格を持っていると、自分が直接その仕事をするわけではなくても、業者や専門家と話をする際に、優位に立てることがあります。たとえば、不動産を借りるときに『宅建を持っている』と業者に示せれば、『このお客さんには変なことはできない』と、細かい部分もごまかさずに丁寧に扱ってもらえる場合もあります。敷金をふっかけられるなど、弱みにつけ込まれる心配も減ります」

■資格の「組み合わせ」が希少価値を生む

さらに、資格取得に慣れてきたら、組み合わせを意識するといい。語学を例に考えてみると、TOEICで900点以上の高得点を取ると履歴書に書ける項目は増えるが、今やビジネスの場において英語を使える人は珍しくない。英語が話せるといっても、特別目立つことはできないだろう。

「さらにプラスアルファで、フランス語や中国語など、英語以外の言語の検定を取っておくのもひとつの手。語学が堪能な人材として自分をアピールできます」

語学や法律など、同じジャンルで複数の資格を取得するのもアリ。あるいは、意外な組み合わせで人にインパクトを与えるのもアリだ。

「たとえば、僕の知り合いに、税理士でプロボクサーという人がいるのですが、その組み合わせだけで、『そんな人なかなかいないな』と強烈に印象に残りますよね。フランス語が流暢で、行政書士の資格も持っていたら、フランスに関連のある会社からオファーがくるかもしれない。自分の得意分野で何か資格を取り、さらにプラスして別種の資格があれば、その組み合わせで可能性が広がっていきます。あるいは、あえてちょっと変わった資格を取って、メインとなる資格と組み合わせてみると、自分のキャラ付けやコミュニケーションのツールとしても使えます」

40代、50代からでも大丈夫!
初めての資格・検定のススメ

■40、50代は最初に手頃な試験で自信をつける

人間の記憶力のピークは20歳前後。いまから資格の勉強を始めることに、自信が持てない人も多いだろう。「勉強」というものから長く遠ざかっているために、億劫に感じる人もいるはずだ。

50歳を過ぎてから資格のための勉強を始め、100近くの資格を取得し、80歳になっても資格コンサルタントとして活躍する高島徹治氏は次のようにアドバイスする。

「自分の趣味や興味を活かせる変わり種の検定を受けてみて、少しずつ免疫をつけていくのも1つの方法です。これまでの人生で得てきたものは、職歴や、仕事の知識や技術ばかりではないはず。趣味や遊びも貴重な財産ですし、40年、50年生きてきた分だけ、知識が蓄積されていると考えればいい。酒好きなら『唎酒師』『焼酎唎酒師』などの資格もある。好きこそ物の上手なれ、を地でいく資格が増えていますから、きっとあなた好みの資格が見つかるでしょう」

趣味や好物を活かせそうな検定には、「家庭料理技能検定」「大河ドラマ検定」など多数あるが、高島氏のおすすめは「家電製品アドバイザー」だ。

「IT製品、AV製品、一般の生活家電製品の選び方や活用法が身につくので、資格取得後は、家電アドバイザーと自ら名乗って仕事にしていくこともできるかもしれません。家電製品は日常生活と切り離せませんから、社会的なニーズはあるはずです」

身近な問題で、かつ社会的ニーズもある変わり種資格は、「遺品整理士」だ。高齢化が進んでいる中で、社会的ニーズも急増中。「相続診断士」とセットで取得すれば、遺族に代わって、遺品の整理や相続に関する問題に対処できるようになる。

こうした段階を踏んで勉強や資格試験への苦手意識を克服し、資格を取る楽しみを実感したら、実践的な検定へと触手を伸ばしていきたい。

「『ビジネス実務法務検定3級』や『第二種衛生管理者』など、1~3カ月の勉強で合格が可能な資格が、ビジネスの各分野であります。これらを取得し、資格のベースキャンプとして、関連する資格をどんどん取っていくと、資格を取るのがますます楽しくなりますよ」

■初心者向けの「ベーシック資格7」

高島氏曰く、特に40歳を超えてから資格を取得する際には、これまでの経験を振り返って、自分の強みと弱みを分析するのが有効だという。

「自分のこれまでのキャリアと直結する資格に飛びつきやすいものですが、よくよく考えてみると自分の意外な特技や興味関心が見えてくることもある。私の場合は、53歳で宅地建物取引主任者(宅建)を取得しました。不動産とは縁もゆかりもない業界で長く働いていましたが、自分で出版プロダクションを経営していたこともあり、多少なりとも法律を意識する場面もありました。一見キャリアとは直結していませんが、私の様々な経験や強みに紐付いた、ぴったりの資格でした。その後、行政書士、社会保険労務士、中小企業診断士……と資格を取得していくうちに自信が生まれ、経営者時代の苦労や不安が過去のものとなりました。資格にはそんな力もあるのです」

自分の人生を棚卸しして、どのような資格に結び付けられるか、見つめ直してみてもいいだろう。

----------

▼初心者にぴったり! ベースキャンプとなる7つの資格
●ビジネス実務法務検定3級
ビジネスに関わる初歩的な法律知識を身につけられる。契約書の作成・精査などにも活かせる
●第二種衛生管理者
50人以上の労働者が働く事業場は、必ず置かなければならない「必置」の国家資格
●FP技能検定3級
金融、不動産、相続など、現代生活に必要なお金に関する知識を学べ、実生活でも役に立つ
●ITパスポート試験
情報処理に関する基礎的な知識や用語、概念の理解を目的とする試験。ITへの苦手意識払拭にも○
●銀行業務検定
法務、財務、税務など多岐にわたる試験があり、キャリアを活かした受験ができる
●リテールマーケティング(販売士)検定3級
マーケティング理論から接客技術まで、販売に関する知識を網羅的に学べる。日本商工会議所主催
●ビジネス・キャリア検定
人事、経理、営業、ロジスティクスなど事務系職種の幅広い分野をカバーする職業能力検定試験

----------

----------

鈴木秀明
資格・勉強コンサルタント
AllAbout「資格」ガイド。東京大学理学部卒業。行政書士、気象予報士など、520を超える資格を独学で取得。著書に『効率よく短期集中で覚えられる7日間勉強法』など多数。
 

高島徹治
資格コンサルタント
1937年生まれ。週刊誌記者、編集プロダクション社長を経て、90年から資格を取り始める。最新著作『60代から簡単に頭を鍛える法』が10万部を超えるベストセラーに。
 

----------

(ライター 吉田 彩乃 写真=iStock.com)