日本人の働き方が変だというのは、様々な雑誌やテレビ番組などでも何回も語られていますし、私も以前出した書籍で何回も指摘をしているのですが、30年も40年も前から言われていることが全く変わっていません。
日本人の働き方というのは成果が伴っていないことが多いのです。
生産性に関しては先進国の中でも最下位の方ですし、サラリーマン含めどこかに勤めている人の報酬というのも今や先進国の中ではかなり低い方で、どちらかと言うとハンガリーとかチェコの給料に近くなってきてしまっています。
IT業界はこれが顕著で、他の先進国で働けば給料が2倍から4倍になることもあるのですが、それを知らない人があまりにも多いのです。
なぜ日本人の生産性、特にホワイトカラーの生産性というのは異様に低いかと言うと、同じ成果を得るのに全く必要ではない作業をたくさんやっているからです。
例えば私の専門は内部統制やITガバナンスといった分野で、企業の監査に関わることもあるのですが、日本企業の場合のやり方というのは大変馬鹿げていることが多いです。
誰でも名前を知ってるようなある大企業の場合、社内の人が定期的な監査をやるのに、なんとチェック項目が全てマイクロソフトのエクセルにまとめられていて、それを全世界の支社に送ります。
しかし一つのファイルに30個ものシートがくっついているのでファイルが壊れたりすることがあります。
さらにそのチェックというのを「手動」でやっていて、引き出しに鍵がかかっているかどうか、 パソコンの中のファイルを削除したかどうかということをいちいち目で確認をして、それを A 3の紙に印刷したエクセルのシートにボールペンでチェックを入れ、さらにそこに関係者全員のハンコを押して、 それをスキャンして PDF にしてから関係部署に送るという意味不明なことをやっています。
そもそもこのファイルは本社の誰かが作ったもので、あまりにもたくさんのシートが付いているのでファイルが壊れたり開けないことがあります。
必要なシートを探すのに1時間ぐらいかかることがありますし、ファイルが壊れていると、それに関してファイルのことを知っている人を探し出して、問い合わせて何とか直そうとするのですが、それに2日ぐらいかかります。
さらにご丁寧に作られたシートは A 3の紙に印刷するようになっているのですが、プリンタの設定によっては A 3の紙に印刷するのがかなり難しかったりしますし、海外の支社には A 3という大きさが印刷できないプリンターというのがあります。そもそも A 3というのは日本でやたらと使われる大きさなのですが、海外ではほとんど使いません。
その印刷方法を探す探すのに半日ぐらいかかったりすることがあるわけです。
その上この監査のシートに情報を記入するのには、まず30ページにわたる「手順書」というのがあって、それを読んでから全てを理解し、手順書通りの単語を使って、手順書通りの○や△を記入しないと「合格」しないのです。
この手順書を読むのにだいたい1時間から2時間かかりますし、この手順書はご丁寧に英語に翻訳されていて、海外の支社にも送られているのですが、 翻訳会社に依頼して直訳した文章なので現地の人は何が書いてあるのかさっぱり意味がわからず、解読するのに3日ぐらいかかっています。
つまりこの手順書の解読の時間も考慮した場合この監査の作業には3週間ぐらいかかるということです。
この一連の騒動を経験し、海外の人々は頭が狂いそうになりカンカンになって仕事を放り投げてバールかパブに行ってしまいます。
そしてファイルのことは忘れ去られ、監査のことも忘れたフリをされ、数ヶ月間放置されることになります。
そしてその放置したことに関して日本から問い合わせがあり「なぜやらなかったか」ということに関して2時間かかる会議が行われたりします。
でもそこで
「ファイルを作った人間が頭が悪い」
「A3は海外で使われない」
ということは誰も指摘しないのです。
ところがこれがアメリカやイギリスの企業だった場合どうなるかと言うと、 そもそも会社の中に全世界で使われる監査用のシステムが入っています。
監査のチェックはそのシステムによって自動的に行われることもありますし、人間が何か記入しなければいけない場合はシステムの中に入って何箇所かチェックを入れれば済むようになっています。
この作業に必要な時間は恐らくおそらく5分から10分でしょう。
この5分から10分の作業と同じことをやるために、日本人は A 3の紙を印刷することで 大騒ぎし、 出張から帰ってこない関係者や、うつ病で休みがちな上司のハンコをもらうのに走り周り、分厚い手順書を読み、意味不明な部分を解明するために担当者を探し回り、メールを送り、電話をし、プリンタの設定を直し、監査を忘れた外国人同僚をなだめすかし、PDFを調整し
全てを完了する前に過労死で死んでしまうのです。
つまりこれは日本人は同じことをやるのに他の国の人たちに比べると無駄な作業をやりすぎているという実例です。
生産性は、アウトプットを得るための労働量というのがインプットに比較して少なければ少ないほど高くなるわけです。
日本以外の先進国の場合は日本に比べると労働時間は短く、大半のサラリーマンは定時で家に帰り有給も全部消化するのですが、そういう働き方ができる理由は作業する量を極力減らしているからです。
無駄な作業は極力省きますし、システムなどを道具を使いまくって楽をします。
日本人の感覚からすると怠けてるようにしか見えないのでありますが、生産性という観点から見ると日本の何倍も高いわけです。
働く人間だって機械のように使いすぎてすり減ってしまいますし、疲れて生産性も下がるし士気も下がりますから、同じ結果を得るのであればなるべくやることを減らすた方が良いに決まってます。
ところが日本人というのは同じ結果を得るのにもなるべく苦労すればするほど良いという考え方をしてしまいます。ケチですので道具を買いません。結果、現場は疲弊し、生産性は下がり、無駄なA3の紙が積み上がっていくのです。
日本は世界的にも豊かな国で一応技術立国ということになっているのですが、こと働くことに関しては科学的な思考からほど遠い所にいる不思議な人々です。 結果的にストレスや長時間労働で過労死しています。
誰も幸せにならないこの働き方をしている日本人の事を海外の人達は頭がおかしいといっています。