政府の知的財産戦略本部は2018年8月10日、「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」の委員と各省庁の担当者による勉強会を開催した。

 この勉強会は、第4回まで進んだ正式な会合とは別に、国内法の枠組みや技術的対策の利点・欠点について情報を収集するために実施したもの。いわば「第4.5回」の会合といえる。委員と省庁の担当者を含めて30人以上が参加し、3時間以上にわたって議論を繰り広げた。

 勉強会は、知財本部の事務局によるヒアリング結果や各団体・省庁が提出した資料について質疑応答を実施した後、「著作権法・実体法等」「憲法・手続法等」「技術」の3グループに分かれて論点を深堀りした。

 以下、海賊版サイトに対する個々の対策ごとに、勉強会で挙がった論点を紹介する。

(1)フィルタリングでアクセスを遮断

 ユーザーの同意の下で海賊版サイトへの接続を遮断する「フィルタリング」は、ユーザーの同意を得ずに強制遮断するブロッキングと比べ、通信の秘密の侵害などの法的問題がない利点がある。会議で検討されている海賊版サイトの総合パッケージ対策の中でも、優先順位が高い対策の一つになっている。

 だが、フィルタリング対象のアプリやサイトの審査を担っていた「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)」は、2018年5月31日に資金難を理由に解散した。スマートフォンの普及でフィルタリングの利用率が低下し、会員企業の会費収入や審査料などによる運営が難しくなったためという。「大手携帯ISP事業者にコスト負担を依頼したが、調整が合意に至らなかった」(EMAの清算人である上沼紫野弁護士へのヒアリング結果)。

 清算会社による監視業務も2019年4月末で終了する。今後は携帯電話事業者などが独自にフィルタリングを実施することになるというが、具体的な枠組みについては未定という。

(2)海外のCDN事業者に訴訟を提起

 大量のアクセスをさばく大規模海賊版サイトへの対策として、配信をサポートするCDN(コンテンツ配信ネットワーク)事業者に配信差し止めを求める訴訟を提起するのが効果的なのでは、との指摘がある。漫画村のサイトもCDN事業者の米クラウドフレア(Cloudflare)が日本国内のサーバーからコンテンツを配信していたとされる。

 壇俊光弁護士ら8人の弁護士は、2018年8月5日に同会議へ提出した意見書で「海賊版サイト対策は、CDNに対する法的アクションを含め、違法行為を行っている者又はこれを助長しているものに対する対策が、最優先に検討されるべき」と主張した。「現在の裁判実務では、海外CDN事業者相手の訴訟であっても、日本に管轄裁判権が認められる可能性が高いと考えられている」(意見書)。

 一方、国内法での裁判手続きについて事務局のヒアリングを受けた神田知宏弁護士は、クラウドフレアに対して著作権法に基づく差し止め請求が可能かについて「現時点で実体法の部分で課題がある」と否定的な見解を示した。著作権侵害については名誉棄損やプライバシー侵害と異なり、プロバイダーやCDN事業者など「サーバーに違法コンテンツを置いている者」に権利侵害を認める解釈は定着しておらず、不透明性が高いという。

 このことから神田弁護士は「海賊版サイト対策としては発信者情報開示請求を優先すべき」(神田弁護士のヒアリングメモ)と主張する。開示請求の効果を高めるため、プロバイダ責任制限法や省令を改正し、クレジットカードの名義情報など、発信者の特定につながる情報を開示請求の対象とすることも検討すべきとした。

 その後の個別討議で「著作権法・実体法等」グループからは、CDN事業者への差し止め請求について不透明性はありつつも「トライしてみるべきだ」との意見が出た。

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